第24話第二段階(sideカイト)

ピタンッ……。

ピタンッ……。


 頬に何か冷たいものが滴り落ちる感覚で目を開けた。壁に鉄格子が嵌められたまるで牢屋の様な小汚い部屋。電灯もついてなくあたりは薄暗い。

 天井から水みたいなものが滴り落ちてくる。水を避けるため、部屋の隅っこに移動しようとして手と足を動かそうとしたら、何かジャリッと引きずった様な感覚を味わい、数センチしか動かせなかった。

 手首と足首に格子が付けられてその先には鎖がつながっており、起き上がれない様にしてあるのがわかった。


「クソッ、ここはどこだぁ」


 先ほどいた映画館とは違う場所。しかも定着していた怪人の姿ではなく、元の俺、カイトの姿のまま鎖に繋がれている。

 怪人の姿になり、力を込めれば脱出できるのではと、思い切り歯を食いしばったが怪人にはなることができなかった。


 自分の意思で変身できるわけでないと気づかされた。それにあの映画館の戦闘中に聞こえてきた頭の声が気になった。


 しゃがれたおっさんの声……。どこかで聞いた大王会長の声の様な気がしてならなかった。身動きが取れずにしばらく見にくい天井を見つめていると3人ぐらいの足跡が近づくのわかった。


 牢屋の鉄格子がゆっくりと開かれた。暗闇に黒い人間が3人。一人は長身で細身。もう一人は体格がいいがっしりタイプと、最後後ろにいたのが背の小さい腹の突き出したおやじのようだった。その後ろのおやじが話しかけた。


「ようやくお目覚めか。怪人かいじんよ。否、カイトと言えば良いか?」


 大王会長の声だった。夢で見た感覚だったはずの人物が現れて声を掛ける。やはりあれは夢でも何でもなかったんだと気づかされた。


「…………」

「ギャラギャラギャラ! 何も言えんか。えぇ!?」

「フンッ、レベルアップと戦闘は見せてもらったゾォ。真野しんのくん!」

「流石は3号機ですなぁ。会長。これで作戦は第2段階に入った!」


 聞き慣れた只野主任と、大荒おおあれ部長の声も一緒にした。こいつらやはり全員グル。


「……クッ。俺に何をした」


 反抗心むき出しで声を張り上げる俺に、会長たちは落ち着いた様子で説明をし始めた。どこかで聞いた台詞とともに。


「カイトくん。見させてもらったよ。君の勇士を。これから君はこの大王製薬だいおうせいやくきっての改造人間かいぞうにんげん、すなわち怪人かいじんだ。第1段階の作戦は成功だろうな。只野ただのくんよ!」


「えぇそうですとも!真野しんのくん!君のお陰で、我々の同志が続々と誕生している!」

「何がお陰だ。俺はお前らなんかに改造されて勝手に動かされて、おまけに愛美まなみちゃんまでも、改造しやがって。彼女の好きなレッドを吹っ飛ばしたんだぞ」

「おぉおぉ、怖い怖い……怪人になるとそんなに口が悪くなるもんかね? 大荒おおあれくんよ」

「さぁ? わたしには、さっぱり……グヒヒッ。反抗心がまだあるということは、まだ改造が足りないのではないかと……」

「おぉおお。それはいいことだぞぉ。大荒おおあれくん。すぐ様やって見せたまえ!」


 大王会長が言い放つと、大荒おおあれ部長が手を指した。その手から光が放たれた。避けることができない俺は、それをモロに食らった。


「アガァガアガァ!」


 電流が身体中に走った。痛みと痺れとで一気に気力を失ったが、気絶まではしなかった。上半身を少し起こし、俺は、再び床でのたのたうち回った。


「もうよい。それぐらいでいいだろう……見せたいものもあるしな」


 大王会長の掛け声で始まり、大王会長の言葉で攻撃をするのやめた大荒おおあれ部長。


「人間である今のお前に俺の攻撃は染みるだろうよぉ? グヒヒッ!」


 気持ち悪い笑い声を挙げながら、攻撃を止めて、只野主任ただのしゅにんと共に、動けない俺の鎖を外し、抱え上げた。俺は、気力尽きた口調で、大王会長に「どっどこに連れて行く気だ……」その言葉に大王会長は大笑いをした。


 気品のかけらもない笑い声だった。笑った後、強い口調で言い放った。


「ギャラギャラギャラギャララッラ!! ワシが大王として君臨する時はもう目の前だぞ。それをお前にも見せてやろうというのだ!」

 俺は弱々しい声で、それに応えた。

「……なっ何がはじまるんだ……」

「たかが一匹の怪人が。ワシに反抗出来んように、ちゃんと躾をしないとなぁ? ギャラギャラギャラァ!」


 鎖を外した先に、重い鉄球を両手両足に、付けられる。体重がグンと重たくなり、うなだれるしかない俺を、軽々しく持ち上げる只野主任と、大荒おおあれ部長たちに、俺は、大広間に連れて行かれた。


 赤いジュータンが数メートル、引かれた先に、大きな煌びやかで、豪華とはほど遠い、不気味な一人がけの赤紫のソファ。その両脇に、バババギャーンのTVシリーズに出てきた、怪人補佐役のジャッカルたち。


 腕をか構えて一様に「ヒューイ!」と声を挙げる。


 足を引きずり抱えられながら、俺は、その不気味なソファ前に、投げつけられて倒れた。そして大王会長が君臨するかの様に、ゆっくりと赤紫のソファに座り、ジャッカル達に叫ぶ。


「開始しろ。カイト。お前の驚愕する目を早く見てみたいからなぁ?」

「ヒューイ!」


 するとジャッカルは、何やら壁面のボタンを押した。天井から100インチはあろうか巨大スクリーンが降りてきた。


「ギャラギャラギャラグヒヒッ! よく見えておけ!これからの戦いの行方を。お前の出番はもうすぐだぞ?」


 スクリーンに映し出されたものを見て、俺は、驚愕した。そこに映っているのは、俺の住む街の水島市の住宅街。外に人たちが群れている。人だかりの中、のたうち回る人々の姿。


 そして、頭を抱えて叫び声を挙げる男女。

 幾人もの人たちがそれを繰り返すと、頭部から、この部屋の両脇にいる黒ずくめの、ジャッカル達と同じ姿に変貌していく、人たちだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る