第23話幻覚(side栄華)

「貴様ぁ、何者だ!?」


 肩に手を置いた後、振り向いた山崎という刑事の顔が、目が突起して、触覚を伸ばした怪人に変わった。

 それを見た瞬間、そいつの顔目掛けてパンチを繰り出した私だったが、顔にはヒットせずにドアミラー付近で腕が止まった。

 力を込めたはずが、後ろの何者かによって引き止められたこぶし。行き場所のなくなった拳を後ろ手に肘を飛ばした。


「グハァ!」


 私の肘打ちがヒットした。後ろの物体は叫びを挙げた。そして私の腕を掴み、動かせない様に必死になる。

 それが1匹2匹3匹と増えていき、4匹で必死に私の腕を掴んで引き止めた。いずれも目が突起して触覚を露わにした怪人……。その怪人がいきなり私の名前を連呼する。


「栄華さん、栄華さん、栄華さん、やめてください!」


 そして車で、舌を出した後ろの怪人も、私の名前を叫んだ。


「栄華さん、あなた正気に戻って」

 その言葉で私の目の前はグラグラと揺らぎ、身体中に痺れが走った。耳元から聞こえるオペレーターの声と英雄ヒデオ百花モモカの声が目の前の景色を変えた。


「ウゥウゥッ!」


 見ると私の肘を4人のバババギャーンが掴んで動かせない様していた。首を左に向けると、先ほどの刑事が怪訝そうな顔つきで、私の名前を呼んだ。


「栄華さん!しっかり!意識を保って……」

「あっああ、だっ大丈夫だ……すっすまなかった」


 幻覚を見せられていた。聞く言葉も、目の前の景色も、全てが違って見えていたと、気付かされた。我にかえると、私は、刑事に謝りを入れた。刑事の山崎という人物も手を挙げて応えた。


「いやいや、びっくりしますよ。栄華さん……どうされたかと」

「すまない……幻覚を見ていたようだ」

「そう見たいですなぁ。周りの人たちもそれに気づいて、今はこのとおりですよ」


 周りを見渡すと、座り込んでいた人たちが、元気に笑顔を見せて人それぞれ一様に喜びの声を挙げていた。

「何を見せられていたんだ?この世の終わりに見えたぞ?」

「あぁ、助かったぁ……」

「よかったわぁ……わたし元どおり……変な声も聞こえてないし……」


 それを見せた山崎は、私に言葉をかけた。


「ところで、栄華さん、今先ほど見たのはどんな映像でしたか?」

「あっあぁ、多分白い粉のせいだと思うが、あなたが触覚を露わにした怪人に見えたんだ」

「そうですか。先ほど、うちの刑事一人も、観客から同じ様なことを聞かされていましてね?」

「うむ、今回の一件……何か裏がありそうだな」

「そうですなぁ……。やはり、正当製薬せいとうせいやく大王製薬だいおうせいやくの裏に、何か良からぬことが起きていそうですな?」


 口元にシワを寄せて、山崎という刑事が口元を歪ませた。そして政府から公にはせずに、調査の手をのばせるように、手配を今したと言う。

 本日中には審議があり、決定が下される筈と言い残し、連絡は追ってWORLD支部へと通達すると伝え去って行った。


 私たちは、バババギャーンが人間の姿に戻ると、観客からも事情を聞くことにした。突然咳き込む人が館内にいた事。


 そしてその人物がジャッカルに変身した後、口から白い粉末が放出された事。それにともない大騒ぎになった事を、全て聞く事ができた。その後、グリーンの山本に周囲の観客達にニューラライザーを使い、記憶を飛ばすように命じ、私たちは一部の人たちの協力を得て、数名WORLD支部にて、検査を行う事を了承していただき、私たちは一度支部へと、退却する事にした。


 帰るとオペレーター数10名と、英雄ヒデオ百花モモカが回復して出迎えた。検査医室へと、映画館の観客達を、連れて行く。問診と超音波と内臓検査に入った。大方、検査結果は、夜中までには出ると、検査医に説明された。

 そしてバババギャーンレッド、木崎の捜索をスタッフ一同にあたらせる様に命じる。

 しばらく戦闘が続いたため、疲れていた私は、支部長室へと閉じこもり、飲み物をグラスに注き、一息ついた。


 いつの間にか気づけば、窓から漏れる光がなくなっていた。疲れて寝ていたのかと思い、部屋に明かりを付けた。すると、支部長室のスピーカーから、オペレーターの通信が入った。


「支部長、大変です。水島市の大度目おおどめ地区で大暴動が起きていると通報が入りました。至急対応願います。支部長!」

「わかったぁ。すぐ指揮ルームに向かう。状況を随時把握、英雄ヒデオたちはもう全快なのか?」

「えぇ、たった今、出撃して行きました。バババギャーンも、現場に向かっています。ただ、レッドの木崎さんの捜索は、依然、難航しております」

「チッ、木崎ぃ。どこに飛ばされたんだ。すぐ指揮ルームに向かう。この際だ。東郷とうごうにも連絡つけておけ!」

了解ラジャー!」


 私は、支部長室を駆け足で飛び出し、すぐさま指揮ルームへと、向かった。

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