3章親子

第22話安定剤(side栄華)

「くそっ!カイトめ!あのやろう、ここに来ていたとは……」


 私、栄華えいがは戦闘はバババギャーンたちに任せて、映画館内の観客たちを外へと逃すため、通路側、映画館の支配人たちと、話をしていた。そこへ大きな衝撃波が放たれ、瓦礫と化した建物。

 3階部分は見事に崩れ、逃げ惑う人たちで階段は溢れかえっていた。悲鳴を挙げる女性客たちを、優先的に逃がしている時だった。館内中に白い粉末が流れ出し、観客たちの口の中へと、吸い込まれていく。

 私の口にも入ってくる始末。激痛が身体中を占めたが、鍛え上げられた身体とヒーロースーツを下着部分に装着していたため、異常を感じたWORLD支部のオペレーターから通信が入った。



「栄華さん。あなたの身体の中で異常反応です。直ちにスーツを前頭部まで装着してください。栄華さん」

「りょ……了解した」


 私は、すぐさまサングラスを外し、緑のヒーロースーツを上着したから出し、頭部まで装着した。すると漲る力と、漲る生命力を得た身体で体内から、白い粉が、金色に光り発出された。見ると白い粉が出てくると、一瞬にして消え去り、なんとか意識を取り留めた。


 直ちに観客たちと、オーナーたちを、2階部分へと、移動させながら、私は館内B3のスクリーンへと急いだ。衝撃と怒号が鳴り響くのが近づいてきた。

 B3の扉付近、観客たちが逃げ惑うのを、誘導しながら逆に、スクリーンB3へと入っていく。すると、ジャッカルたちに、変化へんげしていく人たちを、まじまじと見せつけられた。


 グリーン含め、バババギャーンたちが、その変化へんげしたジャッカルたちと、戦闘している。その最中、上空から強い衝撃波。

 見るとその上空には、水島駅であったあの怪人カイトの姿と、女性一人が浮かんで行き、消えて行った。


 バババギャーンと、ジャッカルの戦闘も気になるが、私は、すぐさまバババギャーンに告げた。


「お前ら、ジャッカルの首元急所を突け。そうすれば息ができなくなり一時は動きは止めれるはずだ」

「えっ? はい」


 そう言い渡し、私は出入り口へと急いだ。ごった返す映画館玄関口。苦しみながら変化へんげしそうな人たちの首元を手先で突き、意識を失わせていくが、一人では事足りない。次々に、ジャッカルに変貌する人たち……。


「くそっ、万事休すか。こいつら……」


 その時だった。数名の男女が、私に声をかけてきた。慌てた様子で、私に言葉を投げかける。


「私たちは医者と看護師です。今、診療の帰りで道がごった返していたら、変化していく人たちを見て、助けなきゃって……」

「あっあぁ、すまんが、今は医者など……」

「大丈夫です。私たちに任せてください」


 看護師と医者たちは、手際よい処置で、苦しむ人たちを介抱していく様だった。

 手にハンコ型の医療器具を持ち、それを苦しむ人たちの腕に充てると苦しんでいた人たちの呼吸が安定していくのがわかった。

 この医者たち何者だと思ったが、状況が状況なだけに、私は、苦しむ人たち以外を、外へと出し、安全を確保するほかなかった。


 しばらくすると騒ぎは治り、数百名が、映画館外で座り込む。

 パトカーと救急車が来る騒ぎになっていた。ごった返し、次々と、救急車に搬送される人たち。先ほどの医者たちも、救援に向かって、救急隊と話したり、人たちを、そのハンコの医療器具で楽にさせていくのがわかった。

 私は、その医者という人たちが気にかかり、声をかけた。


「君たち、その医療器には一体?」

「あぁ、これはですねえ、一種の安定剤が入っているんですよ。効き目は約2時間ですが、病院に運ばれるまでは効果を示すでしょう。即効性ある安定剤ですので、ご安心ください」

「その安定剤とは、どういったものなんだ?大丈夫なのか?」

「もちろん。私ども、提携の正当せいとう製薬、唯一の代物です。認可はちゃんと降りてますよ?」


 その言葉に、怪訝な感情が湧き出たが、状況がそれを物語っているため、それ以上突っ込む話を止めた。

 救急隊にもそれを持参しているのか、すぐさま治りを見せて、楽になって行く。

 救急車で運ばれるものはなく、ものの30分もすると救急車は履けていった。残るは事情現場検証の県警だけになった。県警の刑事の一人、山崎という人物が、声をかけてくる。


「ちょっと……いいですか? あなた栄華さんですよね」

「あっあぁ、そうだが…」

「国家の存亡があなたに掛かっています。昨夜の駅前マンション事件と列車の爆破といい、今回の映画館……。ヒーローとしての役目お願いします。

 私どもも、これ以上国民にシラを切るのは、なかなか出来ないので……。お願いしますよ」

「すまない……決着は、すぐにでも付けたいが、あなた方の情報も、少し薄いのでは?製薬会社というだけの情報では、この日本にどれだけの数が、あるかわかってらしゃいますか?」

「そこなんだよぉ……先ほど掴んだ情報だと、大王製薬と正当製薬が怪しいと言ってきましてね?」

「何!?」

「どっどうされました?」


 私は、先ほど治療を施していた医者と看護師たちを慌てて、その場から見渡した。しかしその姿は既に無かった。


「チッ、やられたぁ。救急隊を喚び戻せ」

「どうされました?」

 山崎という人物が再度声にする。


「どうもこうもない。さっきまでここに医者と看護師たちがいただろう。救急隊もだ。そいつらが怪しいんだよぉ!」

「なっ、なんですと!? 直ちに、呼び戻します」


 そう言うとパトカーの無線で、何やら言ったすぐ後だった。数名の警官がパトカーに戻り、山崎一人だけを残して、パトカーもその場から、去っていく……。

 何やら不快な思いをした。私は、山崎の覆面パトカー1台に近づき、山崎の肩を叩いた。


「おい、どういうことだ」

「ケケッケケケケ。作戦完了の合図したまでですよぉ」

「なっ、なんだとぉ。お前は一体!?」


 肩を置いた手の上、振り向きざまの顔が歪んで、口元から伸びる長い舌が、そいつも怪人だと示していた。目は蜂の様に突起して、触覚が眉から伸びていた。


「ケケッケケケケ。お前の死に場所は、ここだよ。ヒーロー。否、元ヒーローか?」

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