第19話fanky800(side木崎真也)

「ムニュニューーウゥゥ。何を言ってやがる。お前なんて弱ッチィラララァ」

「フンッ、やってみれば、わかるさ。来いタイマー」


 息巻いて見たが、体力回復値は20%……。万事休すには変わりない。俺は感情と気力で持ちこたえたものの、体力値のインジゲーターは20%を示して……。


 否!こっこいつは。ドンドンとインジゲーターの数値が上がっていく。何だ、何が起こっている。そう思った瞬間だった。前方映画館。天井側とは別に、先ほどピストルのような銃弾を受けた距離から、ジャッカル一匹が掛け声をあげながら何や咳き込む声……。


「ヒューイ、ゴホッゴホッ、ヒューゴホッ!」


 どうもリアル感が削がれる。

 ……と思った瞬間だった。またもやジャッカルが咳き込みながら、こちらに腕を挙げてピストルを構えるような仕草!

 あっ、あれは、確か俺たちのバババギャーンTVシリーズでも同じポーズを取ると、空圧弾と言う技を繰り出し、一発の威力は弱いが、ジワジワと効いてくるヤツか?


 もしかしたらあのジャッカルは、TVシリーズとは違い、一発の威力はそこそこあり、しかも、連射してくるマシンガンタイプ?そんな事が頭によぎった瞬間。

 またもや空圧弾らしき空気の層が見えた。先ほどは、その空圧弾の発射タイミングさえ見えなかったのに……。


 そうか。これはインジゲーターの回復値が上がっているからだ!見える!見えるぞぉ!

 俺は難なく、その空圧弾をジャンプしてかわす。するとスクリーンに数十センチの穴が空いた。


「後ろを振り向く暇があるのかぁ? レッドォ、ヒューイ!」


 今度は、上昇中の赤い斑点の紫髪のタイマーが叫び、髪の毛を前方に振り乱し、髪を束ね、その髪が、俺に向かって突進してくる!


 フンッ、作戦は読めた。

 次は……。そう思い、俺は無心になる。


 頭横の耳元のギアチャンネルを回して周波数を変える。これは、自分にギアを入れるために作られた専用チャンネル。要は、自分の好きな音楽を爆音で耳元でかけて陶酔しながら戦うという戦法だ。


 これをすると、TVシリーズでもおなじみの挿入歌が、本当にTV画面から流れてくるというシステム。


 赤い斑点模様の怪人、タイマーの口元が、いつもと同じ技『ヒューイ!モーション!』と口ずさんでいるように見えたが、俺にはその声は届かない!そうだよぉ!


 俺は今、レッドお気に入りの挿入歌、funky800のロックサウンド、『明日のために』を爆音で聴きながら、そのタイマーに迫っているからだ!どうだぁ!お前の弱点!それは必殺技の掛け声を相手に聞かせないと、相手はスローモーションにはならないんだぁ!


【funfunfun!!Let's camon! ♪funfunfun!!Let's camon! ?funfunfun!!Let's camon!俺の行く先には未来がある!俺の行く先には希望がある!? Let's camon! tommorow never knows!?】


「いっけぇ、波動砲。パワーブレード! 爆裂切り!」


 俺は、赤い斑点模様の怪人、タイマーに向けて、波動を発動し、爆裂切りを繰り出した。


 波動爆裂切りとは、ヒーローの技の一つ。気力を一点に集中させて、凝縮させた空圧を空気の弾丸として相手に繰り出す技だ。それを俺はこの初陣から5年でやっとマスターした。波動爆裂切りは、爆裂戦隊バババギャーンの中でも、俺しか扱えない得意技だ。


「どうせ、お前は『ムギュー、ラララァ』と叫んで、飛び散るんだよぉ」


 空圧がタイマーにヒットした!その瞬間。叫び声を上げるタイマーの引きつった表情が浮かび上がった。そして空圧に飲み込まれていくタイマーの姿……。


 その空圧に白装束が上から下へとビリビリと破けていく感覚がした。そしてその中から、一人の女が現れて、劇場下の観覧席へと落下していった。その下で、叫ぶ一人の男。


 俺はその様子を見て、耳元のギアチャンネルを元に戻して、状況が聞こえるように設定した。

 鈍い音を立てて、座席に落ちた女性の姿を見ていた男が、慌ててその女の元へと近づく。そして女を抱えて叫んだ。


「まっ愛美まなみちゃーん、愛美まなみー!」


 俺は、座席付近に着地した。その男に声をかけようとした。すると後部座席の方から、先ほど空圧弾を発射したジャッカル一人の、咳き込む音が、ゴホゴホと大きくなって行った。それを気にかけてジャッカルの所までジャンプ!


 ジャッカルはびっくりした様子で、口元を押さえた。ゴホゴホと咳き込んだ後、何やら粉の様な物をいきなりえづきながら、吐き出した。白い粉末が、口元をから出て、上空、いや映画館館内、後方から前方へ広がって行く。俺の後ろで男が叫ぶ。


愛美まなみ、愛美、愛美、愛美!」


 男は、眉を8文字もんじに垂らして、鼻水も垂らし、口元をハの字に曲げて、雄叫ぶように声を挙げて泣いている。

 その姿に、情けなさと、同時に悲しいんだよなと言う、同情の感情が入りじまる。

 俺はその男に手をかざして、頭を下げて謝る様に叫んだ。


「すまん、こうするしかなかったぁ。しかーし、その子は意識を失っているだけで……」


 その言葉を投げかけた時、声は激しさを増し、段々と怒りを込めた感情で、泣き喚き散らす様に名前を叫んだ。その形相に、仕方あるまい、今はそっとしておいてやろうと、周りを見渡した。空中浮遊している白い粉末は、まだ残っている観客たちをも咳こます様に、館内全域に広がり・・・。


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、な……んだぁ、これ……ゴホッ!」

「おい、バババギャーン。助けてぇ……ゴホッ、ゴホッ!」


 俺は、観客たちに声を枯らせ叫んだ。

「とにかく、口にハンカチか布を当てがって、早く館内から脱出してください!」

「ゴホッ、わかったぁゴホッ」

「皆さーん、こちら、早く」


 ブルーやピンクたちが駆けつけ、観客を誘導する。白装束の怪人タイマーは倒したが、状況がこれでは、何も変わらない。どうする?俺!少々先ほどの勢いがなくなってしまった。しかし、目元のインジゲーターを見ると今まさに70%を上回っていた。これなら、みんなを抱えて映画館の壁を打ち破れるか?そう思って、足元に力を込めた瞬間だった。


 俺の後ろ側で、泣き喚き叫んでいた男の愛美まなみと言う声が、図太く人間とは思えない呻き声に変わっていくのが直ぐさまわかった。


愛美まなみ……マァファフィ。ファファファ、フォフォフォ!」


 何やらおかしい叫びに、俺は後ろを振り向いた。そこにいたのは、先ほどの男でなく、茶褐色に光り、ゴールドのつのを生やした物体が叫びを挙げた!


「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

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