第16話過去(side木崎真也)
「ヒューイ!」
後ろ側の変身した怪人らしき物体から何かが飛んで来た。
「レッドォ!」
ブルーの声が聞こえた。まずい…。回復率20%の戦いしか出来ないのか…。俺は、壇上の蚊が飛びちった場所に項垂れた。……怪人が……もう一匹……いたのか???クソっ。意識が……。
「ハハハハハ!まだ弱いままだなぁ!レッドォ!」
女怪人の声が聞こえた後、意識が飛んだ。
「………………………………」
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俺たちバババギャーンが設立されるちょっと前の話だ。栄華さんがまだ現役ヒーローだった頃。俺たちは、WORLDに入社して数年経ち、ヒーロー試験に合格した、有事の無い平和な日だった。この風景……。目の前に青空……。覚えている…。あの日の出来事を……。
声が聞こえる……。体が勝手に動いている……。夢か?
苦しい重みが腹にきていた。
「2495。2496!」
クッ、キツい!
「2497。あともう少しだ。頑張れ」
2500回の腹筋をこのWORLD訓練施設で行っていた俺たち5人。
「2498!」
後……2回……。
「2499!」
こっこれは、4年前の景色…。俺たちがまだバババギャーンになる前…。
「2500!」
ハァーーーーー! 終わりだぁ!
連続腹筋2500回4回目で終わると思っていた……。が……。教官は容赦なく俺たちに続ける様に回数を数える。
「2501!」
マジか。
そのかけ声を聞いて、俺たちは地面から起き上がれずにいた。
「ハァハァハァ。勘弁して下さい。栄華教官」
山本勝(現グリーン)が教官である栄華さんに体を地面に転がされ、息カラガラに訴えかけた。すると警棒を持った栄華教官は、厳しい口調で言い返す。
「馬鹿野郎。そんな事では、到底ヒーローにはなれんぞ」
「しかし、いつまで訓練なんですか。俺たち試験は突破したはずです」
「フンッ、平和の時こそ有事に備えて、日々鍛錬だ!罰として連帯責任だぁ。グラウンド100周」
「えぇえええええ」狭山信吾(現ブルー)と柄本要(現イエロー)が口を揃えて言う。
「仕方ないじゃない!頑張りましょうよ!」鳥居いずみ(現ピンク)が声を挙げた。
グランドを走りながら、俺は山本勝に説教をした。
「お前が、へなちょこだからダメなんだぞ。馬鹿が、それで良く試験に合格したよなぁ?」
「何ぃ!?」
「フンッ、まぁヒーロースーツを着れるのは俺だ。後はサポート役と言えば女子である鳥居だな? お前らは、必要ねーよ」
そんな事を説教っぽく一緒に走っていると、鳥居が喧嘩を宥めようと参加する。
「ちょっとぉ、ヤメなさいよぉ。そんな言い方。木崎君ちょっと傲慢過ぎ。幾ら自分に自信があるからって、私たち同期じゃない」
「あぁ、そうだ。恵まれない同期だ」
「なんだとぉ」山本が俺に向かい言い放つ。グランド100周しながら喧嘩腰だ。
俺は周りに対し愚痴るばかりの嫌なやつだった。すぐに周りを嫌な気分にさせて、自分より出来ない奴を見るのは、同期でも堪え難かった。嫌味を言っては、嫌われ役だった。それも俺がヒーロー試験に於いて、トップ通過をしたからでもあった。ヒーローになるのは俺なんだと、同期とは少し距離を置いた付き合いしか出来なかった。
訓練には、救出のプロとして当たる必要性があるため、各自それぞれ消防士、救急医療などの勉学も備えなければならない。WORLDの入門はある程度電子工学の部分だけでは幅広いが、ヒーロー戦士になる為、試験を突破した者には追加される勉学が必要になる。
それも俺はトップを走っていた。いつもビリケツいる山本の事を俺はウザいと思っていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
グランド100周も走り終わると、皆息が上がっていた。
「よぉーし。今日の訓練はこれぐらいで終わりにする」
栄華教官が俺たちに向けて終わりの指示を出した。
「いいだろう……。皆良い目つきになって来たぁ。今日午後、会議室へ来い。ひとつ良い話をもって来てやった。お前達には持って来いの仕事だ!いいな!遅れるなよ」
「はい!」
訓練を終わりシャワーを浴びて一息入れる。その中でも4人は集まり、談笑しているが、俺一人は空を眺めいい話の事を考えていた。とうとうヒーローになれる時が来ると…。
会議室に向かい、席に着くと栄華教官ともう一人、少し年上の女性が一人。その女性が俺たち5人に向けて挨拶をする。
「はじめまして、
「おぉおおおおお! という事はぁ!?」歓声が挙った。
長身で、豊満なバストとおしり、タイトスカートから伸びる長い足。ボブショートで黒髪。薄茶色のカラーコンタクト。スーパーモデル級の美女だ!いい女だぁ!年上の女はたまらねぇなぁ…。
「俺たち、ヒーローになれるんですかぁ!?」柄本が声を挙げた。
まぁ待てと言わんばかりに栄華さんが手で止めた。そしてゆっくりと口を開いた。
「お前達には、ヒーロースーツは着せない」
「はぁあああああああ? どう言う意味っすか!? 試験合格したのに」
また柄本が声を張り上げる。
「まぁ待て、良い話と言っただろう? 彼女から説明してもらおうか。では…」
ボブショートのスーパーモデル級の年上女性が口を開いた。
「えぇ、あなた方をヒーローにする事は出来ません。それは何故かと言いますと、まだ私たちが現役で活動している今、何体もヒーロースーツを用意する時間とコストもあります」
私たちってことは、この人、現ヒーロー栄華さんのサポートのピンクか。嘘ぉぉぉぉ。あんな美女が。
少し照れながらその女性を見詰めていると、隣の狭山が小声で顔を寄せる。
「お前……アァ言うのタイプだろ!?」
「なっ、何を言ってるんだぁ?」
「顔が赤いぞぉ?」
小声で話す俺たちに気づきショートボブの東郷さんが声を張り上げた。
「ちょっとぉ、聞くきある? それともヤメる? これ……いい話なんだけどなぁ!?」
「ええええええええええダメダメ! それは、聞きます」
狭山がまた声を挙げるが、俺は黙ってその次の言葉を待った。
「しかし、ヒーローには裏での活動がメインです。ですので、表舞台でもヒーロー役が必要となります。まずはテレビでの活動がメインとして、戦隊ヒーロー物を作るという計画がありました。我々はテレビ局と連携し、あなた方には普段は俳優業として活動を行って頂きます」
「えっ!? マジ?」
狭山がまた口を開く。続けて東郷さんは言った。
「幸いあなた方全員、それぞれ顔立ちも良いですし、それに鍛え上げられた体でのアクションも可能でしょう!スターになれるチャンスでもありますよ?」
その言葉に被せる様に、教官(現ヒーロー)である栄華さんが、口を開いた。
「表向きはテレビヒーローだ。だが、有事、つまり今、世の中で暗躍している怪人テロの事件が起これば、それに出動する。撮影部隊も我々で演出する。番組撮影内で、本当に戦闘を行うという事だ」
「そっそんな事が可能なんですか!?」また狭山が口を開く。
すると、会議室が消灯し、前面スクリーンに映像が映り、東郷さんが口を開いた。
「ヒーローは2体で一つの部隊、ですが、今回あなた方にやって頂くのは、爆裂戦士バババギャーンと言う5人組の戦隊ヒーローです。まずはこの特殊スーツ、言わばパワードスーツを見て下さい」
そこに映し出されたのは、それぞれレッド、ブルー、イエロー、ピンク、グリーンの子供の頃にも見た事あるがそれとは違い、進化した目元が黒のグラスと口元も完全に覆われたスーツ。緑のヒーロースーツとは違い、断然格好良かった。
「俺たちが、このスーツを纏い表向きに戦うんですか?」
今度はイエローが質問する。すると栄華さんが、ゆっくりと説明し始めた。
「君たちは、我々の裏での活動を支援する為に作られるヒーローだ。表舞台で活動出来る様にするため、だが、一つ言っておく。表での活動が公にはまだ許されていない。だから戦闘はあくまでテレビの中と言う設定だ。そしてその主が救助活動にある。何か?質問は?」
「じゃあ、普段はテレビに出演しながら、俳優活動を?」
「そう言う事だ」
「きゅっ救助だけなんですか?」
「否、戦闘はテレビの中でと言った筈だが?」
「マッマジか!俺たちもいよいよデビュー!しかも俳優だってよぉ!」狭山が嬉しそうに腕を組んだ。
「以上だ!」
ヒーローにはなれなかったが、表舞台での活動はこれまで訓練づくしの俺たちにとっては新鮮な環境だった。
カラーのパワードスーツをそれぞれ決められ着用した。サイズはピッタリだった。
そしてもうひとつ。主人公は、お前だと、栄華さんに言われた。
しかし、グリーンはそれを快く思っていなかった。
そして、撮影の初日が来た。広大な草原に建物を建てて、撮影が進む。
空は晴れ渡り、いい天気だった。
怪人役の五郎田さんとのアクションの打ち合わせ、この人もWORLDの人だ。
怪人のサポート役達のジャッカルたちも全員WORLD社員。
そんな中撮影はスタートした。
爆裂戦士というだけあってか、爆破シーンは想像を超えるぐらいの勢いだった。上空に立ち上る白煙と爆煙!その煙と火花が、揺らめきながら風に流されて行く。その白煙がゆっくりと上空から降りて来た。
特殊効果でも何でも無い……。全員モニターに釘付けになった。
キャストの俺たち5人も、突然上空から女の声が聞こえて来る。
「キャキャキャキャキャ!アハハハ。坊や達何して遊んでるのぉ?」
白煙の空を見上げると空中に浮遊している物体がいた。
白装束に赤い斑点模様の付いた髪が紫色の女の 姿だった…。
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