第15話新たな敵(side木崎真也)

 環状線水島駅付近、俺たち5人の爆裂戦士は、所長である栄華さんの指示で怪獣が襲った現場に向かい救出活動の手伝いをした。その際、刑事と一人の女の子を電車の中から助け出したが、その後、急激なオーラ(波動)を持った怪人が出現。俺たちはその怪人になす術も無くやられてしまった。


 栄華さんが駆けつけ、何とかその怪人を何処かに飛ばしたが、栄華さん自身も困惑した状態だった。その怪人は、昔一緒に遊んだ事のあるカイトと言う人物だったらしい。俺たちは救出カーゴの中で、今後の方針を聞かされた。


 まずは、映画方針の変更だ。この2、3日で立て続けに起きた破壊活動に伴って、作戦を変更せざるを得ない事。通常の映画活動に加え、日本国民を守る為に、俺たちは公然と表舞台での戦闘を許可された。


 その為には、国民自身達に意識の変化を伴わせる必要があると…。最後に黒幕を倒した後、ニューララーザーで全て元に戻せば平和が訪れると…。


栄華さん…。あなたの言う事には間違いない。生命維持装置の中で親指を立てて、了解はした。あなたの言う平和はどういう物なのか…。


 終わりまで見届けてやる!絶対に黒幕を暴いてやる!その為には、公然とした戦闘が許された。多分…俺たちがまた映画撮影を行えば、怪人が現れるのではないかと踏んだが、何も無く事が済んだ。予定の舞台挨拶をするため、俺たちは映画館に急いだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 レッドである俺、木崎真也は舞台挨拶をしている最中だった。


「さて、皆さんには、上映が終わり次第、撮影に参加頂きますのでぇ!お時間のある方は、是非ともご参加下さいねぇ!あっもちろんチップも少しは出ますので、よろしく………」


 壇上からの挨拶をしている最中だ。一人の若き女性が浮遊していた。


こっこいつは、何だぁ!?


 俺たちバババギャーン全員が挨拶を辞め、浮遊する女性に釘付けになった。観客達も声を挙げ叫んでいる。


「撮影なの!? バババギャーンの演出ってすげー」


 違う。そんな予定は無い。こっこいつは…。


「愛美ちゃん。どうしちゃったんだぁ! 愛美!」


 上空に浮かぶ女性を見ながら、下で男が一人叫んでいる。


 確かに国民皆で悪と戦うっと宣伝活動はしたが、こんな事は準備していない。やはり現れたか。怪人。


 左端の栄華さんに近づき目で指示を仰いだ。すると観客を会場から避難させる事が必要だと言われた。落ち着いて、俺たちバババギャーン5人はあくまでエキストラ撮影の様に観客達に大声を張り上げた。


「皆さーん、落ち着いて下さい! まずは、ココから避難してください!」


「うぉ! ホントに参加させてくれるのかよぉ!? 太っ腹だな! 爆裂戦士」

「いいから、あなたも危険ですので、会場から早く出て下さい。戦闘は我々に任せて」

ピンクも必死に訴えかけている。その中に一人の中年男性が声をかける。


「ハハハッハ。判った後は頼むぞぉ。爆裂戦士」


 その瞬間、女性が神々しく白い光りを放った。


 あっあれは、あの時と同じ光り。


「ピンクとイエローとグリーンは観客を外へ。ブルーとレッドの俺は戦いの準備をする」


 白く輝く、その後ろ側から男性の悲鳴が聞こえた。


「うぉおおおおおぉおおおお!」


「何だぁ!?」観客が一人叫ぶ。

「みなさーん、避難して下さい。お願いします。大変な事件が起こってます。早く!」


 誘導するピンク達だが、中々移動してくれない観客達。


 観客も安心しきった声で軽く言う。

「ヒーローがいるんだから大丈夫。これも撮影だろう?」


 俺は声を張り上げた。


「何を暢気な事言ってるんだ。これは撮影でも何でも無い。早くしてくれ」

「………えっ? じゃあ何よぉ、あれ……」

「いいから、逃げて下さい」


 栄華さんと撮影舞台が裏手に回る。館内放送が流れた。


【皆様、早く館内から退避をお願いします】


 白く放った光は大きくなり館内全体を明るく照らした。


「レッド、変身するしか方法は無いぞぉ」


 ブルーが声をかける。


「チッ、行くか。後はニューラライザーで何とかなる」

「おうよ!」


「ダメよ。まだ回復率20%でしょう!? どうするつもりよぉ!?」


 出口付近のピンクが声を張り上げるが、俺たちは目の前の異変に人間のままでは戦えないとポーズを決めた。


「へーんしん。トォ!」


 瞬く間に、パワードスーツに切り替えた。変身は完了した物の、子供達があっけらかんと口を開いている。


「君たち、早く退避してくれ」俺は子供達に叫んだ。


 目映く白い光りが館内全体を覆い尽くしたかと思った後、女の声が聞こえた。


「フハハッハハハ。久しぶりだなぁ。レッド、私を覚えているか!?」


 何だ?眩しくて良く見えない……。だっ誰だ!?


 空中浮遊していると思われる人型物体だが、少し違う!

 その下で、男性が愛美と叫んでいる。


 こっこいつは、一体。その浮遊物体の後ろでゴホゴホと大きく咳き込む人……。

 歓声と悲鳴が入り交じった中でも聞こえるこの咳き込み。


 なっなんだぁ!? 何が起こった!? 白い光りが、縮んで行った。その中心を見ると、白装束に赤い斑点模様が付いた姿で、紫の髪で口元には牙を剥いて、胸の辺りに時計の指針のような物が付いた女の怪人!?


「フハハハッハハハ私のしもべよ。行け、奴らをヤッテしまえ!」


 腕を振り上げた怪人から、巨大化した蚊が高速で羽ばたきながら、スクリーン目がけて突進して来る!その音が凄まじさを演出している。


プーーーーーーーーン!


 蚊の口先がスクリーンに激突した。切り裂く音はまるでトラックが衝突したような衝撃音で上下に大きく引き裂かれた。


「キャーーーーー、何、あれ、いやーーーー!」

「こえぇーーーー、何だ、怪獣だぁ!」


 観客達が悲鳴を上げて、ようやく出口に総勢傾れ込む。


チッ、こいつ。電車での怪人か!? でも、違う。あいつは茶褐色だったぁ。


「早くこちらへ来て下さい。皆さん、避難してください」

ピンクとイエローが誘導を始める。


「お前は誰だ」声を女に張り上げた。


「レッド、お前の事は大好きだぞぉ。フハハッハ! お前は弱いからなぁ。雑魚は引っ込んでろ。蚊とでも遊んでおけ」


「何ぃ、何処に行く気だ」


「裏手に隠れやがって。栄華よぉ。出て来い。私を忘れたとは言わせんぞぉ」


 その白装束に赤い斑点が付いた女怪人は、俺を無視し、スクリーン裏手にいると思われる栄華さん目がけて、攻撃を繰り出した。

 紫の髪が前面に押し出し、その一つ一つが、尖った釘の様に襲いかかる。


 左裏手、そこには栄華さんがいるはず。

ブルーがナックルで、巨体の蚊にパンチを入れた。


「ギュルーーーーーー」


 レッドの俺も、ソードを取り出した。

 しかし、爆裂切りはまずいと踏んで通常の切り落としに変えた。


「スマッシュヒットォ!」


 繰り出した攻撃は、爆裂はしないが直接峰打ちの様にたたき落とす戦法で、巨体の蚊にヒットさせようとした。しかし蚊はこちらに気づき斬りつけたものの飛び上がった。館内頭上から、突進して来る。まっまずい。ここは、仕方が無い。


プーーーーーーーン


 またもや高速音で飛んで来る蚊目がけて、爆裂切りを繰り出した。

爆風の衝撃が館内の照明を揺らせた。爆発して飛び散る蚊…。


 その姿に悲鳴を挙げながら、館内から出て行く観客達だったが、後ろの席からゴホゴホと咳き込む声が鳴り響いていた。その声がウネリとなり、大きく悲鳴のような声が聞こえた。


「ギュエエエエエエエエ!」


「なっ何だ、今度は!」


 白装束の赤い斑点模様の怪人が左側裏手に攻撃している。長い髪を前面に靡かせ、その髪が一本一本細い釘の様に飛んでは裏手側に突き刺さる。


「栄華さーーーん。大丈夫ですか!? お前は何者だ。女怪人」


 声を張り上げた。怪人と裏手の栄華さんに向けて……。すると女怪人は、私を仰々しく見詰めて叫んだ。


「お前!忘れたのかぁ。この恨み。私は決して忘れはしない。レッドォ。お前と戦ったあの日の事を。私は忘れない。お前と緑の戦士にやられた栄華と呼ばれるあいつの事を」


 仰々しく目を吊り上げ、裂けた口元が更に大きく避けて不気味さを感じた。


 こっこいつ……。もしや!?


「そうだぁ。その躊躇した様子。思い出したか。私の名はタイマー。忘れたとは言わせんぞぉ!」


「愛美ちゃーん。何言ってんだよぉ。元にもとに……戻ってくれよぉ」


 そうだぁ。コイツは、タイマー。あの時の。浮遊している怪人タイマーに向けて一人、俺と変わらないぐらいの黒髪の男性が叫んでいる。後方席でゴホゴホと咳き込んでいた男性から黒い光り。


「ヒューイ!」


 その男性が黒い何かに変貌した。その腕から何かが飛ばされた。

 女怪人がポーズを決めて言葉を発した。


「モーション! まずは、これを受けろ」

「ヒューイ!」


 俺たち爆裂戦士バババギャーンに出て来る悪役の雑魚キャラ、ジャッカル達の鳴き声と同じ声を発した物体から……。

 その発射された物を避けようとしたが、スローモーションの様に体の自由が奪われた。

 体中に衝撃が走った。強い衝撃だ。ピストル弾の様な物が胸部にヒットしていた。

 パワードスーツのお陰で、貫通はしなかったが、体中に痛みが走った。


「レッドォ!」


 ブルーの声が聞こえた。まずい……。回復率20%の戦いしか出来ないのか…。俺は、壇上の蚊が飛びちった場所に項垂れた。……怪人…が…もう一匹…いたのか? クソっ。意識が……。


「ハハハハハ! まだ弱いままだなぁ、レッドォ!」


 女怪人の声が聞こえた後、意識が飛んだ。

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