第14話胸騒ぎ(side愛美)

 スクリーンに釘付けになった。カイト君と私は、思わず声を挙げた。

だって、映し出されたその場所は、さっきまで私たちがいた場所。環状線水島駅から少し進んだ線路上。


 私たちだけじゃない。ここにいる観客達も、どよめき立っている。この場所から来たお客さんだっているはず。さっきまでそんな事無かったのに、今撮影してるなんて、どうしても不自然だとみんな思ったに違いない。


「おいおい。この駅!俺の家の近くじゃん。映画館なんて来るんじゃなかったぁ!失敗だぁ」

「いやーん。もうあたしのマンションの目の前じゃないの」


 …………えっ………? そう言う反応………?


 ………ちょっとぉ、そこじゃないでしょう! 気になる所はぁ!


「ねぇ、カイト君」

「あぁ、あの場所は、さっき俺たちがいた水島駅近くの線路上。……そこにバババギャーンがいるってことは」

「そうよねぇ? 電車、電車よぉ!」


 マジマジとスクリーンに釘付けの私たち。でも、おかしい。だって私たちが見たような電車の先頭車両が破壊された後が、さっき見たと思うのと違う。なんで?何でなの?


「おかしいよぉ。これ……」

「だよねぇ? 乗客も、普通に逃げてるってか、普通に見てる人もいるし」


 あれだけの破壊があったのにも関わらず、電車は前方部分だけがちょっとオカシな形に変形しただけ……。更にスクリーンを見ているとジャッカル達が、慌てふためいている。確かにテレビシリーズでも、ジャッカル達は弱いし、怪人が出てくるまでの繋ぎ役だけど……。

 って、ことは、この後怪人出現!? どんな怪人なんだろう?


「へ?」


 カイト君が思わず声に出した。私もオカシな感覚がした。ジャッカル達はバババギャーンに全員やられただけだった。何にも起こらない。そして、映画のメイキング映像が撮られている様に、カメラとスタッフらしき人物達が映った。その時だった。メガホンを撮るサングラスのおじさんが映った。その瞬間に、体に違和感を覚えた。


 えっ……。何?この胸騒ぎのような感じ…。


 あっ…。この人……。雑誌で見た事ある。今回の3部作のシリーズ監督。栄華さんだぁ。でも、この感覚……。ザワザワとした胸騒ぎは何?何なの?


 ザワザワザワ……。


 映像が特典映像の様に、メイキングっぽく映ると、観客達もざわめき立つ。


「この人、栄華さん。イケメンだなぁ。おじさんだけどぉ」


 観客達も、栄華さんを見て惚れ惚れしている。


 そうだ。この栄華さんは、イケメン。大人の格好良さという物がある。私はバババギャーンのレッド、木崎真也さんが好きだけど、真也さんもイケメンだけど、まだあどけなさが残る若者って感じ……。


 でもこの栄華さんは、面長の顔立ちにサングラスで目元は判らないけど、普通に役者やドラマに出れるぐらいの主役級の気品ある顔立ちだろうと思う。髪は白髪ではないアッシュグレーでキメテいるし、少し長髪で耳が隠れた髪型も似合っている。


 あぁ、何?この胸騒ぎ……。ドキドキする…。ときめき。まさかぁー。だって私は真也さん一筋だもん。


「どうしたの? 顔が赤いよ?」

「……えっ、やだぁ。赤く無いよぉ!」

「……そう?」


 カイト君がマジマジと私の顔を見て言う。この暗がりの中、そんなに赤ら顔なんて気づくはずないじゃないの。カイト君もちょっと変。でも、この栄華(えいが)さんが動く姿をみると、どうしても動悸が治まらない。どうしちゃったんだろう?私…。


「じゃあ。すぐに映画館に向かいますねぇ。皆さーん、少しのトイレ休憩を挟んでお待ち下さいねぇ」


 ピンクの鳥居いずみさんがカメラ腰に観客達に促した。またざわめき立つ館内。そして10分間の休憩が館内スタッフから告げられた。


 カイト君と私はトイレに席を立つ。カイト君も頭を傾げ、逐一私にあの場所の事を聞いて来ていた。私は動悸が止まらないので、トイレで吐こうとしたけど、指を口に突っ込んだけど、何も出て来ない。仕方なく席に戻ると、カイト君が足組みをして考え込んでいた。


「なぁ?絶対おかしいよな?さっきまで俺たちあそこの線路にいたもんなぁ?それで俺が怪人になったんだよぉ」

「……そうなの?」


「そうなのって、ちょっと待ってよ。判らない? 電車の外壁が飛んで来た時、時間がスローモーションになって、時田さんの声が聞こえたんだよ?」

「……えっ、どういう事?」

「あの時、スローモーションになって、その時、時田さんが、もう限界。早くしてぇ! って叫んだんだ。その後に、同じ声で、早くしろ、馬鹿が! って怒られたのに……。覚えてない?」

「わっ私が? キャハハハ! 私そんな事言う訳ないじゃん」

「じゃあ、あの時どこにいたの? 急にいなくなってさ」

「えっ…? 電車の方から声が聞こえたから、電車の方に行こうとしたら……。あれ?」

「したら……どうしたの?」

「うーんと……。電車の方へ歩いて行った事は覚えてるんだけど……。その後の記憶がないの。キャハハハ」


 私どうしたんだろう? その後……。言われるまで忘れてた……。馬鹿だ。私。あの電車に乗った時、ってか……。ココ最近の自分の意識が無くなるのと何か関係あるのかな? でも、こんなこと……。カイト君に言っても信じて貰えそうにもないし。


「どうしたの? 浮かない顔してさぁ?」

「キャハハハ。何も無い。なぁーんもないよ?」

「何か考え事?ちょっと久しぶりに会ったら、変わった?」


 ……。変わってるの? 私……。


「うそぉ。何処がよぉ。おっかしな事言うねぇ? 今日のカイト君もおかしいよぉ?」

「そうなんだよぉ。俺、あそこでバババギャーンと戦ったんだよ」

「えっ嘘。何でそんな事するのよぉ。バババギャーンはヒーローじゃない。って、カイト君もエキストラで出たの?」

「暢気だなぁ。本当に戦ったんだってば」


 カイト君がちょっと怒ってる。何で?


「コラァ。ちょっとそこ。静かにしてもらえない? もうすぐキャストが来るんだからさぁ。気持ちはわかるけどよぉ」


 後ろの席から、私たちに向けて怒る男の人。


「すんませーん」


「そうだよぉ。ゴホッ、ゴホッ。し…静かにね……俺風邪薬飲んだのに、まだ治らないやぁ」


 カイト君が後ろの席に謝った。後ろの席で咳き込む観客がいる。あっちも煩いじゃない!でもちょっとカイト君投げやりだ。こんなカイト君見るのも初めて。やっぱりカイト君もちょっとおかしい…。今日ココに来るときから、ちょっと変。


 場内のアナウンスが響き……。


 ブーーーーーーーッとブザーが鳴り、幕が開いた。


 するとそこに現れたのは、今回3部作のキャスト勢揃い。

主役のバババギャーンから、悪役のボスキャラの小枝徹平と怪人役の古谷尚人……。


 大歓声が場内を包んだ。席を立ち、拍手をして迎える。皆総立ち。私たちも会話を止めて、壇上に釘付けになった。拍手だけじゃない。バババギャーンのオープニングテーマが場内に響いて、みんな一緒に歌いだした。

 背の小さい私は、全員総立ちで、前が少し塞がれて、ピョンピョンジャンプをしてみた。

中心から、主役たちが立ち並ぶその一番右端……。


 あっ!


 一番右端に……さっきの特典メイキング映像に出てた映画監督の栄華さんがいる。その姿を見たら、私の動悸がまた始まった。


ドクンッ。ドクンッ。ドックン!


ダメだわ。ダメよ。何で? 何でぇ!


「えぇ、皆様、お待たせしましたぁ。我ら爆裂戦士バババギャーン3部作一挙公開、ようやくスタートです。このような歓声に包まれて、上映開始されると言うのは、大変光栄に思います。僕たちはとっても幸せです!皆もかーい!?」


 レッドの真也さんが訪ねてくれる。みんな歓声が一段と挙った。もう場内は熱い空気に包まれた。私も……。ちょっと熱すぎるぐらいに火照っている。体中から何か、熱い物が迸る。でもそれは、レッドの真也さんを見たからじゃない。この火照りと動悸は、栄華さん…。あなたを見てから…。


 どうしちゃったんだろう私……。


 ………あれ?


 ドクンッ。ドクンッ!


「さて、皆さんには、上映が終わり次第、撮影に参加頂きますのでぇ!お時間のある方は、是非ともご参加下さいねぇ!あっもちろんチップも少しは出ますので、よろしく………」


 ドクンッ!

 ドクンッ!


「おい、時田さん……時田……さ……ん?」


 ドクンッ!


 微かに、カイト君の声が聞こえた……。


 ……何、カ……イ……ト……く……ん……。わ……た……し……。


 目の前……。えっ……。壇上が下に見える。


 目の前に、蚊が飛んでいた。


 私は、何故か浮き上がっていた。浮遊した状態で意識が飛びそうだ。でも目の前の栄華さんの顔だけが、はっきりと脳裏に焼き付いていた。

 後ろの方で声がするような感覚だった。


「なっ何だ!? あの子……。浮いてる。これも撮影!?」

「時田さん、何でぇ!」


 その声を聞いた後、私は何の声も目の前も見えなくなった。


 ……わたし……どうしちゃったんだろう?


 ドクンッ!

 ドクンッ!

 ドクンッ!

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