第13話舞台挨拶(side愛美)

「痛ッ!」


 何かに噛まれた感覚がして、目が覚めた。路地のゴミ箱付近。


気がつくと、小さなアリンコが2匹、私の手を這っていた。

また、チクッとアリンコが小さな腕を私に突き立てた。


「痛い!」


慌ててアリンコを振り払った。

隣にはカイト君が疲労しきった顔つきで目を閉じていた。


「どこだろう。ここぉ。あっ、南区の商店街よねぇ?」


私は、カイト君を揺すった。必死に必死に揺すった。

カイト君とデート…。映画の約束。バババギャーンのぉ。


「カイト君、カイト君、起きて。どうしたのぉ!?」


 そう言えば、電車に揺られてたはずなのに、こんな所に…。

 私、カイト君に抱きかかえられてて…。それでいつの間にか、電車が大変な事になってて…。それから……それから……何だっけ?


 ここの所変なんだよねぇ……。自分自身の意識がなくなる時がある。どうしたんだろうわたし…。最近お母さんから貰って飲んでた携帯用の鼻炎薬が良く無いのかな?だってあれは一番良く効く薬だって、お母さんも大王製薬店の店員さんが言ってたし…って…。あっ!カイト君!


「ねぇ、カイト君。起きてぇ、映画始まっちゃうよ。クッシュン。ハクシュン」


 アァ…ダメだ。やっぱり花粉のせいかな。私は立ち上がり、デニムやグレーのカーディガンに付いた砂を払った。そしてカイト君から少し離れ、ビルの木陰に隠れてポーチから鼻炎薬を取り出した。ハンカチで拭いながら、吸入式の鼻炎薬を鼻にプシュッと入れた。スーーッと鼻がする。あぁ!治った!鼻づまり…。


「カイトォく……あっ起きたぁ」


 私は白シャツに黒パンツのカイト君に駆け寄った。カイト君はゆっくりと目を開けた。頭がボォーッとしているのか、頭を何度も横に振り、また手で自分の顔やら、体やらをまさぐっている。


「どうしたの。大丈夫? 急にそんな事して」

「おっ俺、怪人。かい…かい…かい…かいじーーーん!」

「何慌ててるのよぉ。どうしたのぉ?」

「どうしたもこうしたも。電車、電車はどうなった? 俺、怪人で!それで、緑のおっさんがカイトォって叫んでたんだぁ、そしたら、意識が朦朧として……。って、あれ、どこここ…」

「わかんない……。電車の側にいたよねぇ。私たち……。それにバババギャーンが現れて」

「そうだろ? そうなんだよぉ」


 カイト君はズバッと立ち上がり叫んだ。


「でも…どこここ……」

「南区の商店街みたい……」

「何で?」

「それ私に聞くぅ? 私だって判んないもん。てっきりカイト君が映画見る為に連れて来てくれたんだと…」

「そうだ。映画だ。今日は映画バババギャーン3本立て」

「そう、もういいじゃん! 訳判らん無くたって。映画館横だし!」

「ええええええええええええええええ! いつの間に」


「アハハハハ! でしょう? 可笑しいでしょう? もう気にしないで観よう! 映画!」

「あっうん……でもなぁ? なぁーんか腑に落ちない……」

「私だって、意味不明にバババギャーンに会えたかと思ってたらこんなところ。でも舞台挨拶でまた見れるんだし、ね? 時間もそんなに無いよ?」

「あっあぁ判ったぁ行くか」


 私たちが倒れていた路地横に映画館がある。こんな好都合良くあって良いものかと思ったけど、私達は待ちわびていた映画を見る事にした。前売り券を見せると、バッヂとタオルと薔薇の一本差しが貰えた。前売りの特典だ!何で薔薇の一本差しかと言うと、テレビシリーズで戦士達の宴と言う回があった。


 バババギャーンが戦いに勝った後は、薔薇の一本差しを口に咥え、みんなして踊るのが習わしだ。ファン達はそれを一緒に音楽に乗って踊る。


 その音楽がまた可笑しい。だって、バババギャーンのエンディングテーマであるその曲は、結婚式で流れる入場曲と同じだから。新郎が新婦を迎える時に流れるあの曲。


バババギャーン! バババギャーン! バババギャン、バババギャン! バババギャン!バババギャン! ババババァーーーバァーーーーバババババババババギャーーーーーン!


 何ともオカシな宴の歌。それも戦隊ヒーローとしては、珍しい事もあって、私はハマった。


「ねぇ?皆で踊るのかな?」

「多分ね?楽しそう!」

「そうだねぇ!」


 通路を館内に向けて歩いて行くと、大きな防音扉がある。その手前辺りから、もう既に大コールが起こっている。もう来てるのかと、慌てて大きな防音扉を開けた。既にもう観客が声援を挙げていた。ちがう!これは待ち望んだ歓声とは少し違う。これは激怒の声。


「どうしたんだろうね?」

「あぁ!みんな怒ってる」


「早くしろよぉ!俺たちもう何時間も並んで待ってたんだぞぉ!」

「そうよぉ!子供が泣いてるじゃない!子供のヒーローじゃないの!?」


 気になるざわめきは、前面スクリーン前に現れた映画館のスタッフの言葉で判った。


「皆様、もうしばらくお待ち下さい。申し訳ありません。本日、こちらに登場する予定だった戦士達ですが、今新たなシリーズの撮影中でして、今回はその撮影現場からの映像として、舞台挨拶をさせて頂きます。尚、撮影が終わり次第、こちらに駆けつけると言う事ですので……」


「詐欺だぁ。俺たちは、戦士達を見に来たんだぞぉ。子供が楽しみにしているのに」


 当たり前だ。私もちょっと気分が悪い。折角チケットまで手に入れたのに、一緒にバババギャーンダンスを楽しみにしていたのに……。


「そうよぉ。私たちも楽しみしてたのに、裏切られたわぁ」

「ちょっと時田さん」

「だってぇ、腹立たない? 撮影って何よぉ」


 罵声を挙げる観客達を余所にまたスタッフがアナウンスをして、今度は中継の映像がスクリーンに映し出された。するとさっきまで煩かった観客達が一斉に静まり返った。私もその画面に食い入る様に見詰めた。


 そこに映し出されたのは、バババギャーン、スマッシュレッドの木崎真也きざきしんやの顔のドアップ。


「皆様、待ちわびていたかと思います。まずは、本日は大変ご迷惑をおかけした事を、お詫び申し上げます。我々は本来ならば、東洋映画館にて、舞台挨拶をさせて頂く事となっておりましたが、今回映画監督である栄華えいがさんが急遽面白い事をしようと言い出し、中継での舞台挨拶とさせて頂きました!」


 ザワザワザワッ


「おい、面白い事だって。何だろうな?」


 他の観客が声を挙げた。


 そして、画面は戦士5人の映像に切り替わる。

 バババギャーン、パーフェクトピンクの鳥居いずみさんが話す。


「私たちはココから面白い企画を用意しております。それは、ただ今撮影中である、映画版の続きの撮影をしております。それはこの場所から、舞台挨拶も含め、お客様達にも作品に参加して頂こうという企画です!」


「えっ?どういう意味?」

「おいおい!参加って?もしかしてぇ!」


 更にざわめきが起こった。

 今度はバババギャーン、スマートブルーが話しだした。


「その企画は、あなた方達が、我々と共に出演する、題してぇ!」


 次の瞬間、5人勢揃いの映像に変わり、全員で口を揃えた。


「地球を救え! みんなの力で、バババギャーンと共に。です」


 観客はあっけらかんとした表情を浮かべた。

 シーンと静まり返る館内。

 私も映像に釘付け。


「この話は、日本国全員の方が、キャストやエキストラとなり、一つの物語が紡がれます。さぁ、まずは映画館にいるあなた方が、一番目のエキストラです。さぁ。この現場からスタートです。まずは、私たちの戦闘をご覧あれぇ」


 バババギャーンに登場する雑魚悪役のジャッカル達が「ヒュイー!」と声を挙げてバババギャーンを囲んだ。

 そして、映像は引きの映像に変わった。


 私と、カイト君は思わずその映像を見て、声を挙げた。


「あっ!」

「あぁ、その場所ぉ!」

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