第12話ニューラライザー(side栄華)
「フォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
激しく頭を抱え、空に向かって雄叫びを挙げる怪人。それはあたかも私の念が通じたかの様に、もがき苦しんだ様子だった。
その時、右耳のインカムから通信が入る。
「所長。今救出カーゴをそちらに向かわせてます。大丈夫ですか!?」
まだだ。まだ早い!
私はその通信に応える事はせずに、カイトであろうその怪人に訴えかけた。
「カイト。お前は一番ヒーローに憧れていたよなぁ。そうだよぉ。お前はヒーローになりたかったんじゃないのかぁ。応えろ! カイトォォォォォ!」
「フォォウーーーーフォオオオオオオウ! フォオオオオオ!」
上空から、怪人に向けて光りが射した。その目映さは、まるで天国にでも連れて行くかのような光り。光りに包まれる怪人!ゆっくりと浮き上がるカイト…怪人の体。ウネリ叫びながら、怪人は…。いや、怪人だけではない。巨体のアリと共にその近くに倒れている女の子も一緒に上空へと舞い上がる。
「なっ、何が起こってるぅ!?」
私はただそれを見る事しか出来ない。攻撃を加えればその光りに弾かれるか、またあの怪人が襲いかかって来るかもしれない。今の私では太刀打ち出来るパワーは無い。まずは撤退する事だけを考え、その上空に伸びる光りへ舞い上がるのをただ見詰めるだけだった。
そして大きな黒い雲が覆い被り、その2体、いやアリも含め4体は光りに消えて行った……。
一瞬にして青空が戻った。
「何が……」
我に返り、すぐ様先程の通信に応える。すると線路上空に、救出カーゴが既に見えて来た。救出カーゴは、コンピューター制御により自動で生命体、我々の元へと移動する機能が備わっている。インジゲーターの数値を頼りにここまでやって来たのだ。
乗客達が、慌てふためき見る。呆然とするものもいた。それはそうだろう。現実世界にこんな物が存在するなど、日本国民は知らないはずだからだ。ゆっくりと上空から線路上へと舞い降りるカーゴ。ハッチが開くと同時にロボットテスターがキャタピラを回し地上へ降りて来る。生命反応が弱いバババギャーンの5人から救助を始めるテスター達。
ロボットテスターとは、人間と会話を交わし、意思疎通が出来る人工知能搭載の人型ロボット。救助の時に役立つ為に、医師免許を持った人間の知能と電子工学の知識が備えられており、すぐ様カーゴ内の医療室、すなわち生命維持装置へと運んで行った。
私もカーゴ内に入り、テスターとは別の作業用ロボットのスイッチを入れた。
この作業用ロボットは、破壊された物の修復作業を行う。
様は元に戻す機能を備えたロボットだ。線路上に散らばった電車の破片を片っ端からトレースして行く。
トレースが終わると組み立てた。それもこの作業用ロボットも人工知能を備えており、ある程度電車を修復する。後は撮影部隊の準備だ。
誰も線路上からは何処にも行ってない事を確認すると、私は、ペン型のニューラライザーを手に取った。これは余り使いたく無い。しかし、戦いの後処理としては使わざるを得ない。
これは、一種の記憶消滅装置。光りを見た物はある一定の記憶が無くなる。全く人体に害がない訳でないが、これも表向きに我々の活動を見られては困る事もあるから仕方の無い事だ。本来ならば、この後処理は、表向きのヒーロー、バババギャーンにやってもらうつもりだったが、奴らが今は治療中だ。私も久しぶりにこれを使う。緑のスーツから私服に着替えて、特殊サングラスを着用した。
「みなさーん。もう安心です」
「何が安心なんだ。あれは一体なんだぁ。さっきの奴らはなんだぁ。お前も怪しい」
「そうよぉ。私たちは見たわよ。こんな惨劇にしちゃって」
「テレビの撮影か何かか。溜まったもんじゃないぞ。死にかけたんだ。負傷している者もいる」
まぁ、言いたい事はわかる。私も普通の人間だったらそう思うだろう。
「大丈夫です!負傷した人たちは、我々が何とかしますので、ご安心下さい!」
「我々って。お前ら何者なんだぁ」
「そうだぁ」
乗客がざわめき立つ。
「まぁ、怒る事も分かります。とにかくです……まずは…」
その瞬間、ペン型のニューラライザーのボタンを押した。
集まった乗客や、消防士達に光りが注がれた。
半径2kmはこの光りは届く事になっている。一瞬でも光りを見た物は…。一時的に記憶を無くす。ちょっとの我慢ですよ皆さん。気づいたら全て元通りです。
私はカーゴを上空へと移動させ基地へと帰路をとる。しかし、あの怪人は何処へと消えたのだろうか…。
私はWORLDに通信を入れた。
「撮影部隊の準備は整っているか?」
「はい、問題なく!」
「では、急いでくれ。バババギャーンの撮影現場として映画の舞台挨拶にすり替える」
「でも大丈夫なんですか? 木崎さん達は……」
「まぁ後10分もすれば、インジゲーターは20%は回復するだろう。人間としての活動だけなら問題ない。行けるな。木崎?」
カプセルの中の木崎は親指を立てた。
「撤退する!」
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