第11話あの日の記憶(side栄華)
不覚!私とした事が……。
一瞬の攻撃を避けきれなかった。
さっきのオーラ(波動)といいこいつはレベルアップしているのか!?
異様な地響き音を立ててこちらに近づく足音。斜め前には巨体をユラユラと揺らせるアリの怪獣。奴が動かしているのか!?
「クッ」
私は、足音がする方向へと体を起こす。
やはり怪人!茶褐色に光った体。
確か、
ロッドの様に腕から伸びる武器。さっきはこれにやられたのか?
目の前まで来てようやく分かった。こいつはやはりヒデオと戦闘した怪人だ。
頭から金色の角。目が突起した凹凸レンズ型。間違いない。
カイト。私だ。
腕を延ばし、ロッドを間近に近づけて来る怪人。その手の平からロッドが飛び出し私の顳かみにヒットし私は呻いた。
「グォ。カイト!」
頭に覆い被っていた緑のタイツが左耳上部分が剥がされて、顔とアッシュグレーの髪の毛がハッキリと見える様になった。
その姿に首をひねる挙動をする怪人。
「私だ。カイト!」
私は、声とともに念を送る様に怪人、嫌カイトの突起した目を見て訴えかけた。
その声を発する度に、怪人は首をひねる。そして足を後退させた。
効いているのか? 思い出せ。カイト。あの日の事を。あの幼き事を。
「カイトぉ。思い出せ。あの日の事を」
怪人が後ずさりをする。効いている。私の念が届いている。
「お前は憧れていたよな。俺たちヒーローに。そうだろう。お前はヒーローに憧れていた」
「フォ?」
「そうだ。聞け。俺の言葉を。そして思い出せあの日の事を」
「フォフォフォフォ?」
「いい子だ。そうだ思い出せ。一緒に遊んだあの日の事を。お前は素直な子どもだったろう?」
「フォフォフォ?」
「思い出せ。カイトォ! あのヒーローごっこをしていた時の事を」
その勢い良く発した言葉で、怪人は頭を抱えた。手で頭を抑えうねる。
「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
木陰に公園があった。街中の偵察も終わった。今日も何事も無く過ぎる。いい事だ。有事は困るからとてもいい事だ。私は、トイレに入ろうと公園に立ち寄った。そこでヒーローごっこをして遊ぶ子ども達を見かけた。
「あっ、カイト。悪はそんなに強く無いの。悪は最後は負けるんだからなぁ!?」
「だってぇ、全然面白く無いじゃん。
「お前がじゃんけんに負けるのが行けないんだよぉ」
ハハッ。微笑ましい光景だ。
「あっ、緑のタイツ着たおじさんがいるよ。みんなぁ。変なおじさんだよぉ」
「だっせー、何あれ?」
「分かんない……」
「カイト。声掛けて来いよ」
「えっ僕ぅ? やだよぉ」
「だってお前怪人役だもん。ヘンテコリンを人質にしろよ」
「あっそれ面白そう」
「ちょっとカイトくん」
「いいじゃんかぁ、百花」
「うわっ、近寄って来たよぉ」
「君たち、ヒーローごっこかい?」
「そうだぁ。なんだぁ。変なおじさん。怪人の仲間か?」
「ハハッ。違うよぉ」
「じゃあ何でそんな緑一色なんだぁ?やっぱりコイツ可笑しいぞぉ」
「君たち、ヒーローは好きかい?」
「あぁ、今流行のドレミンジャーだぁ! 音楽でやっつけるんだぁカッコいいんだぁ」
「そうかぁ。おじさんもヒーロー好きだぞぉ」
「ホント?」
「あぁ、おじさんはヒーローだからなぁ」
「えぇーーーー! 嘘だぁ」
「本当? おじさんヒーローなの?」
「カイトォ、信じるなよ、変なおじさんの言う事なんて」
「そうよぉ……ちょっと怪しい……」
「君たち名前は?」
「僕カイト」
「辞めとけよ。お前どっか悪い所に連れて行かれるぞ」
「
「うん、確かにするねぇ」
「こらぁ!百花までぇ」
私はカイトくんを見た瞬間に素直でいい子だと思った。
「君もいい目をしているね。ヒデオくんだっけ?」
「あっおじさん勝手に俺の名前。益々怪しい……」
「ハハハハハッ。大丈夫だよ。安心して、おじさん何にもしないから。おじさんはね、世界の平和を守るために、こんな格好だけど、普段は普通のサラリーマンだよ?」
「えぇええええ? おじさん世界を守ってるの!? すげー」
「あっ信じるなよそんな嘘!カイト」
「じゃあ何か技は無いの? 技!」
「うーん、そうだなぁ。あっそうだ。そこの葉っぱをちょっと投げ見て?」
「葉っぱ? いいよぉ」
カイト君は私に葉っぱを投げた。
「手刀!」
そう言って私は、その葉っぱを真っ二つに割った。
すると子ども達から歓声が挙る。もっと見せてと何度も何度も。段々エスカレートして来ると、今度は空は飛べないのなど言い出す始末。
実際は飛べるが、有事でない今は飛べないことにした。その嬉しそうに私の話を聞き入るカイトくんたちを私は気に入った。
真剣な眼差しで私の話を聞き入る、特にカイト君は見込みがあると思った。素直でとてもいい子だ。そしてとても正義感の強い子だと、悪役ばかりさせられて詰まらない事も。本当はヒーローに憧れている事も。だから、一回だけ真のヒーローをさせてやりたいと思い、私が悪役となり子ども達の戦隊ヒーロー6人と戦った。もちろん悪は滅んだ。
「おじさん。ヒーローにはどうしたらなれるの?」
唐突に聞いて来るカイト君。他のみんなはそろそろ飽きて来た感じだったが、私は真剣に答えた。
「大人になったら、いや、大人になる前に電子工学を学びなさい!そして会社を選択するなら、是非WORLDに入社してください!それがヒーローになる為の近道だよ?」
「WORLD?」
「うっそくせーーーー! そんな会社全然知らねーし。もう行こうぜ!」
「君たち、ヒデオ君とモモカちゃんだっけ。君達もいい目をしている。だから言うけど、是非WORLDへ入社したまえよ。そしたらヒーローになれるぞぉ!?」
「おじさん……。やっぱり変だね?」
「ちょっとやっぱり……怪しく思っちゃう…」
「僕、信じる」
「そうか! カイト君は信じてくれるかぁ。宜しく頼むよ? 未来のヒーロー?」
「ニャハハハハハ。ヒーローに褒められたぁ」
子ども達が笑った顔は一番良い。そんな時だった。私の頭部のアラームが響いた。
ピピピピッ!
「えっ?頭に目覚まし時計?益々おかしなおじさんだなぁ!」
「ごめん君たち。おじさんちょっと行かないと。じゃあね。また。明日ももし来てくれるのならおじさんと遊ぼう。もっとヒーローについて教えてあげるよ」
私は、警告音を聞き、慌ててトイレの影に隠れて、その場から飛び去った。その時、見られた。カイト君だけに。
「うわっ。おじさん飛んでる。やっぱりヒーローだぁ」
その声を聞きながら私は戦闘へと飛び立った。その後、指令により異動となった私は、戻る事が出来なかった。だが、今こうして元いた街で支部所長として舞い戻って来た。
カイト君。君に逢いたかった。だから目を覚ませ。カイト。あの日の事を思い出せ。純粋で無垢だったあの頃の記憶を。
「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
目の前の怪人は頭を抱え、叫んだ。空に向かって大きな呻き声で……。
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