2章戦闘力

第9話緑の戦士立つ(side栄華)

 時は、巨体カブトムシが電車を襲撃した事件から、数時間さかのぼる。


「うっうっ……」


 怪人かいじんカイトと戦った夜、攻撃を受け負傷して基地に戻って治療を受けている緑のヒーロー英雄ヒデオとピンクの百花モモカ。生命維持装置の回復液体が入った中で、意識朦朧としている英雄ヒデオ百花モモカは疲労困憊で、完全に眠っている。


 私は、WORLD支部の所長を勤めている栄華えいが


「回復具合はどうだ?」

「えぇ、英雄ひでおさんは、ある程度衝撃に耐えうるレベルまで達してましたが、百花モモカさんは、かなり無理が利いているようで、少し時間が掛かりそうですね」


 オペレーターが回復具合を教えてくれる。ここWORLD支部は表向きは、電子工学やコンピューター類を扱い、世界トップシェアを誇る大企業。先代の会長シェーマス・ジョシュアがこのままだと世界は危ないと危惧した事件があった。


 それは15年前に世界大恐慌と共に起こったアメリア国、国防省やアメリア国の象徴であるWORLDビルへの襲撃事件だった。


 大国家への無差別テロ事件がきっかけとなり、その国防省参加であったこのWORLDに白羽の矢がたったのだ。すでにコンピューターや電子工学の先端を極めていたこのWORLDは、対テロ対策ユニットを設立した。しかし生身の人間と武器では太刀打ち出来ないと悟った会長ジョシュアは、工学理論とコンピュータ技術を元に、人間兵器を開発した。一件何の変哲も無い人間型。


 それは人体に及ぼす電子工学技術を生かす事で完成した。コンピューター制御により脳組織をハードディクス化して、OSのバージョンアップと、それに伴い鍛え上げられた肉体と精神の力、様はそれを内蔵メモリとして増幅させる事で戦う事が出来る人間兵器。ヒーロースーツを着用する事で、CPUと人間の融合した力を持つ事が出来る。


 その第一号が先代のヒーロー緑の戦士だった。全身緑のタイツ、平和と安定の色とした事。そのタイツを着ると生命の力が無限に拡大されて、人並み外れたパワーを引き出す。先代ヒーローは、その後アメリア国が始めたテロ対策ユニットに組み込まれ、見事テロの首謀者を殲滅した。表向きは軍事介入とされている。それが史実。しかし先代は、その後WORLDへ帰還したが、ある難病に苛まれた。



 世界的コンピュータートップシェアを誇る会長が突然の死を遂げた。そうだ。その人こそ先代ヒーローのシェーマス・ジョシュアその人だった。難病に掛かりながらも、先代は、ヒーロースーツ改良を行い、時代の進化と共に生命維持装置、それにそのスーツの欠点だった、スーツを纏うとかかってしまう難病の克服をする装置を作る事で今に至る。だが、自分自身の病は治せずに逝ってしまった。


 その後、世界各地に支部が設立されて、ジョシュアから今の会長へと引き継がれた。


 その日本支部を任されている私も、つい数年前まで、緑のスーツを身にまとい戦っていた。この英雄ヒデオたちが覚醒するまで…。無作為に選ばれる訳ではない。このWORLDへ入社すると受け継がれる試験を突破してのヒーローの誕生だ。


 緑以外にそれをサポートするピンク、平和の象徴の色、ホワイト。このホワイトはシェーマス・ジョシュアが渾身の兵器として開発した最後の傑作。しかし、このスーツを纏う者は未だに現れていない……。


 このスーツには特殊な加工があるからだ。そのスーツは、人間そのものの心に反映する。3つの要素を備えない限り、戦っても戦闘力は高々知れている。


 そしてもう一つの戦士達がいる……。


 朝を迎えた。


 私は基地内部で朝を迎えた。まだ英雄ヒデオ達はカプセルの中。

あの怪人が、また何かするかもしれん。早く回復して欲しい。



「所長。英雄ヒデオさんが目を覚ましました」

「おっ、やっとか!」


 生命維持装置から液体が排水溝へと流れ、カプセルのシャッターが開いた。


「くそぉ、カイトの野郎。なんてパワーだ。モモカ。百花モモカはどうなんです? 栄華えいがさん?」


短髪の髪を拭いながら、声を張り上げるヒデオ。


「今はまだ、眠っている所だ。しばらくは時間が掛かるだろう……」

「もう少し俺にパワーがあれば、こうはならなかったぁ。くそぉ!」

「仕方が無い。そう悔やむな。まだ余地はある。しかしあのカイトくんなのか?」

「えぇそうですよぉ。俺もビックリしたんだぁ。最初情報を得た時には……」

「………そうか。昔の事を思い出すか?」

栄華えいがさんこそ。そう思うんじゃないですか?」


英雄ヒデオは私を見てほくそ笑む。


「フッ……懐かしいなぁ……」


突然、基地内部にサイレンが響いた。


「何だ。どうしたぁ?」

「立った今の情報です。環状線水島駅付近、未確認の物体出現!レーダーが捉えました」

「チェッ。こんな時に……百花抜きじゃ」

「うむ。敵は何体だ?」

「おそらく一体かと」

「俺、行きます」

「いや、俺が出る」

「えっ、栄華さん。大丈夫なんですか? もう引退したんじゃ?」


「フッ、馬鹿にするな。俺も元は緑のヒーローだったんだぜ。年は取ったが、まだ戦える」

「すっすみません……」


 私は、すぐさまスーツ専用ホルダーへ移動する。

 光りに包まれた。

 緑のタイツが全身に包まれた。


「ハッチ開放。出撃出来ます」


 スーツ専用ホルダー上部のハッチがゆっくりと開き、オペレーターの声が、緑のスーツの耳元からする。


「準備完了だ。出るぞぉ」

「ご武運を」

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