第8話レベルアップ

 爆発音と爆風が瓦礫の惨状に傾れ込む。


「クッ!」


 強烈な爆発だ。カブトムシの時とは違うもっと凄い爆裂……。

 ん? 爆裂!? こっこれは! もしかしたら……。


 そうだぁ!


 あの勇敢な戦士の戦い方。しっかし、滅茶苦茶だなぁ。

 周りの事考えてないのか?テレビシリーズで、よく見た戦い方。

 爆発を何度も起こし、敵を消滅させる戦法。


 レッドはソードを振ると、爆裂切りという技を持っている。

 ブルーは、ナックルをそのまま敵に打ち込むと衝撃爆発する。

 イエローは、吐く息が爆発する。

 グリーンは……ん? なんだっけ?


 もちろんピンクは、戦士達にバリアを張って防御! バリア?

 そうだぁ! バリアってことは……。


 バババババババババババァーーーーーーーギャーーーーーーーン!!!

 バババババババババババァーーーーーーーギャーーーーーーーン!!!

 バババババババババババァーーーーーーーギャーーーーーーーン!!!

 バババババババババババァーーーーーーーギャーーーーーーーン!!!


 何度も戦士達の名の如く、爆発音が響き渡る。

 爆発で電車の外壁が飛び散って来た。


「うわぁ、こっちにぃ!!」


 乗客達がまだ項垂れている場所、俺もいるその場所に大きな電車の車体破片が飛んで来た。

 叫び声を挙げた時、先程電車で味わった浮遊感と同じ感覚を味わった。


 周りが全てスローモーション。


「うそっ!? またぁ?」


 その時、頭の中に声が響いた。


【早くしてぇ! 限界が来る!】


「えっ!? この声……」


 聞いた事のある声が頭の中に響いた。


 スローモーションで車体の外壁がゆっくりと向かって来る。

 爆音も全てがスローモーション。周りも……。俺以外は全て……。


【早くしろ!馬鹿が!】


 今度は、さっきより強い口調。またぁ。

 そうだぁ。救出。6人ぐらいが呆然と爆風と爆音の中、座り込んでいる。

 でも、どうすれば、どうすればいい!? どうすれば!!


 考えが及びながらも、とっさに乗客達が集まるその前に立ちはだかり、受けきれる訳がないその飛んで来る車体の外壁を手で押し戻そうと体勢を整えた。


 パラララーン!!

 頭の中で、またさっき聞こえた音が鳴る。


 こっこんな時になんだよぉ!俺は一体何をしている。

 こんなんで止められる訳……。

 人間一人で大きな電車の外壁なんて支えられる訳……。


「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 勝手に声が出た。無理でも無理でも、やらなきゃ皆がぁ!


 その瞬間夢で見た、あの会長にシャンパンを飲まされた時と同じ繭が腕から這い出して来た。その繭はギュルギュルと茶褐色に光り……。

 光りが……包んで行く……。


 バババババババギャァーーーーーーーーーーーーーーン!

 前方車両が全て吹き飛んだ。


「フォォーーーーーーーーー!」

 俺は一息大きく息を吐き出した。


 後ろも全体が見渡せる。360度視野。死角はない。

 後ろに、先程どうやったのか、大きな車両の外壁が乗客達の左右に割れて転がって白煙を上げていた。

 目の前には、爆発炎上している電車の床部分のみ。


 その炎上部分からゆっくりと5人の戦士達が、ピンクのバリアに包まれて浮かび上がって来た。


 問題なのは、そこじゃない。

 爆発し、床だけになった車両には、巨体のアリンコが呻き声を挙げて2匹立ち上がっていた。


 バリアに包まれた、爆裂戦士バババギャーンレッドの腕には、さっき飛び込んだ刑事が抱え上げられていた。

 時田さんであろう女の子がブルーに取り押さえられている様に、抱えられていた。


「フォーーーーーーーーーー!」


 俺の意識とは無関係に、また息を吐き出す。

 意識はあるが俺とは違う何かが定着している。

 会長にシャンパンを飲まされた時に変身した茶褐色の物体と同じだか、腕が少し違う。

 あの時ハサミ型の腕をしていたが、今回はちゃんとした5本指が付いている。


【レベルアップ完了。思う存分に戦え!】


 先程の女の声とは違う、灰汁の強い嗄れた男の声が、頭に響いた。


「フォーーーーーーーーーー!!!」


 息を吐き出したその時には、既に爆裂戦士ブルーの目の前だった。


 (何をする気だ? 俺……)


 右拳が勝手に動いた。ナックルのブルーの頭をぶん殴った。

 ブルーを高速で地面に叩き付けた。時田さんが宙を舞う。


 その時田さんを進化した俺が、抱えて地面に降ろした。

 目は見えているのに、俺の意思とは無関係にこいつ、動きやがる。

 レッドがバリアを抜けて、ソードを俺に向かって振り下ろした。

 茶褐色に光った体が鉄の如く固く、ソードがマッスルな肉体には効かない。


「フォフォフォフォフォッフォフォ?」(なっ?今度はなんだぁ?)


 レッドにその場から瞬時の動きでタックル!

 またもやレッドは宙を舞い、地面に叩き付けた。

 グリーンとイエローは巨体のアリンコと格闘している。


 ピンク!

 ピンクがバリアをもう一度張った。

 そのバリアに俺の定着した怪人と言うべきなのか、それはビームらしき衝撃破を繰り出した。


 あぁああああああ。おっ俺のピンク……鳥居いずみちゃん。

 頭の中ではそう叫んだものの、声に出る事は無かった。


「フォオオオオオオオオオ!!」


 アリンコがグリーンとイエローの爆発に押されている。

 その光景を見たら、怒りが湧いて来た。

 グリーンとイエロー目がけてジャンプした。

 瞬時の出来事。アリンコが大きくうねる。

 そのアリンコをしもべの様に扱い。


 中指を立てて下に降ろした。すると巨体のアリンコはグリーンとイエロー目がけてタックル。それぞれ地面に叩き付けた。

 周りの乗客達は、呆然としながらこちらを見ているのが三百六十度の視野で確認で来た。


「フォフォフォフォフォッフォフォ!!!」


 俺の進化した怪人かいじんは、呻き声を挙げて喜んでいた。

 勇敢なる爆裂戦士バババギャーンは、瞬時にして俺自身の手で動けない状態になった。

 頭の中に先程の男の声が聞こえた。


【お前の僕(しもべ)だ。大事に使え!それを使って再起不能にしてやれ!】


「フォフォフォ!」


 巨体アリンコに指を立てた。クッ!体が勝手に、俺の意思とは無関係に。

 ちっ畜生! 巨体のアリンコは戦隊達が項垂れる地面目がけて、大きな巨体を突進させた。


 赤い物が宙を舞った。


 ヒーロー達の戦闘の証である血が吹き上がっていた。

 甲羅に包まれた体の中で俺はそれをジッと眺める事しか出来なかった。

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