第7話ヒーロー

 バババギャーン!


 この惨状に、現れた5人の勇敢な爆裂戦士!皆が大歓声を挙げて、周りを囲み始めた。

 この惨劇の中でも、ヒーローが現れれば、人は直ぐさまそちらに目を向ける。悲鳴と歓声に包まれる一帯。


 スマホでぱしゃぱしゃと写真を撮るもの、体をベタベタと触りに行くもの、握手を求めるもの。

 それぞれいたが、爆裂戦士達は、落ち着きながら、大声を張り上げた。


「俺たちも救出に参加させて下さい」


 主演の木崎真也が、救出中の硝煙立ち籠める場所に現れて一言。その答えはyesだ。

 間近にこんなスターを見る機会、しかも人間味、いやヒーローとしての登場は皆待ちわびた感情の様で笑顔になって行く…。


 ただ一人を残して。


「あん? どこぞの人気者かしらねーが。被災現場にテレビの戦隊物なんていらねーんだよ。ここは、あんたらみたいなのが来る場所じゃねーぞぉ。邪魔だ。帰れ!」


 えっ? さっき俺に指示を出した刑事の一言で、周りは緊迫したムード一色になった。

 それでも尚、俳優陣達は、頭を下げる。


「分かってます。場違いな事ぐらい。でも私も、他のメンバー含め、以前消防で働いた経験と看護士の経験がある連中ばかりです。そう仰るあなたは、多分救助などのプロかとお見受けするのですが、違いますか?」


「フンッ。俺は救助はプロではないが、こう言う現場には慣れている!全くの素人ではないと言うが、何が出来るんだ!? 時間の無駄だ。人気稼ぎは別でやってくれ。おーい君。消化はもういい。こっちを手伝ってくれ」


 5人の戦士に強い口調でご機嫌斜めな刑事。俺は5人を斜めに見ながら、刑事の指示に従った。

 消防隊が長いホースを手に傍に近づきやって来る。


「こういう時は、一人でも救助が多い方が迅速な活動が出来ますよ。気にしないで、我々に従ってください」


 消防士が一人5人の戦士に声をかけた。


「よぉーし、やるかぁ。みんな!」

「えぇ!」

「おうよぉ!」

「はい!」

「うん!」


 それぞれ、レッド、ブルー、グリーン、ピンク、イエローが声を挙げる。

 それを見てか、さっきの刑事が、嫌みに鼻を鳴らした。

 近寄りがたい雰囲気だったが、俺はその刑事の側に駆け寄り手を貸す。


 瓦礫が散乱しているので撤去だ。


 消防士から手を怪我をすると、手袋を渡されての作業。流石に、結構な大変な作業だった。倒れた電車の破片が飛び散った惨状。


 ん?そう言えば、さっきから重要な人物が一人…いない。

 あれ?時田さんは?辺りを見渡すが、彼女の姿が無い。


「時田さーん。どこだぁ?」声を張り上げるが返事は無い。

「どうした? 彼女がいないのか?」

「えぇ、そうなんですよ」

「ったく、手伝うって言っときながら…怖くなったか?」

「いえ、そう言う子ではないと思いますけど…。時田さーん!?」


 倒れた電車の方に物音が聞こえた。

 そう思い、足を進めようとすると刑事が呼び止めた。


「君は、ここにいて、俺が探して来る!電車の中とかだと危険だ!」

「あっはい…」

 瓦礫の撤去に掛かろうとした時に、頭の中で大きな音がした。


 パララパッパラーーン!!


 へ? 自分の頭の中の音に自分自身びっくりして、その場に尻餅を付いた。

 なんだ? この音。いや、電車も。


 刑事が側面から倒れた上部の窓付近によじ登る。

 その時だった。倒れた車内から、突然爆発の光りのようなものが上空に伸びた。

 しかし、爆発ではない事がすぐに分かった。


「えっ?」


 刑事が窓から入った後、また光りが上空に伸びた。

 さっきの刑事の叫び声!


「うっうっうわぁー!!」


 皆が電車内に目を向ける。

 危険を察知したのか、爆裂戦士達が、急に電車側に集まりポーズを決めた。


「やつらか?」

「えぇ多分……」

「ピンク、救助は後だ!」

「皆準備はいいな!」

「おうよぉ!」


 テレビシリーズで見た事ある悪と戦う前の台詞と同じ。

 その言い放つ爆裂戦士を見て、面食らった。


「えっ?」


 ココは、そう言う場所じゃねーし。第一あんたら、今人間じゃんかよぉ。


 まっまさか?変身でもする気か。する気なのか。

 出来る分けねーだろうが。

 タイツ着るのか。こんなところでぇ。

 そんな思いとは裏腹に、勝手に戦闘モードの爆裂戦士バババギャーン。


「へーん! しん! トォ!」


 それぞれが、言葉を発し、ボーズを決める。

 いきなり、腰付近に回るベルトが現れた。

 そこから、光りに包まれて行く5人の戦士達。


 まっマジか!?


 特撮でも何でも無い。現実世界での変身。

 服を着替える訳でもなく、魔法の様に光りに覆われた後、それぞれの戦闘スーツに形を変えて行く。


 ヒーロー!


 これは、テレビでも何でも無いんだ。

 ホントに目の前で起こっている事なんだ。


 ほんの数秒で、5人それぞれの色の戦闘スーツに身を変えた。

 そして、腕には、ショットガンとソード、ナックルなどの武器が装着されている。

 それぞれの得意な武器だ。何処からあんなもの。


 数秒の出来事、唖然と見詰める俺と乗客たちは、呆気に撮られて、空いた口が地面にまで届きそうだった。


 変身した5人の戦士達は、ジャンプして電車内に飛び込んで行った。

 その時、また電車から、光りが上空に伸びた。

 いや、光りじゃない。これは爆発だ!


 今度は轟音が発せられて、俺たち乗客が投げ出された場所まで爆風が届き、髪が靡く。

 俺は顔を背けながら、手で顔を守った。


 爆風で髪が大きく靡く……。


 そして、もう一度爆発音!


 バギューーーーーーーーーン!

 ボガーーーーーーーーーァァン!


 鉄の車輪が、空中に待っていた。

 

「バババギャーーーーーン! 愛美ーーーーーーーーーーー!」


 俺は、爆風立ち籠める光りに叫んだ。

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