第3話波動

 大型スクリーンに映し出された3体の動く物体。緑とピンク、そして茶色い甲羅を背負った姿の自分……。超スピードでビルからビルへと飛び移り、壁に穴を開け、よじ登り、また隣のビルへと移ったかと思えば、駅の高架へと消えて行く。


 そしてまた今度は地面に着地して車をヒックリ返し、投げ飛ばす。深夜のバトルは衝撃破と衝撃音を放つ。マシンガンを発射したようなケタタマしい音が鳴り響く。


 近所のビルからは、人が空を見上げたりしている姿。そのバトルを目で追えないのか、辺りを見渡すだけのようだ。歩道に歩く人は無く、まれに車が猛スピードで通り過ぎるのが確認出来た。深夜の駅前ロータリー近く。


 そのバトルの一部始終、どうやって撮ったのかこのカメラは追っていた。蹴りとパンチを交互に繰り返しながら、呻き声が一瞬鳴り響いたかと思えば、ハサミから光線らしきものが、茶色い物体から放たれ、緑とピンクのタイツ…。


 英雄ひでお達が飛ばされて行った。その方向へと大きくジャンプして、茶色い物体の姿は見えなくなった。


 拳を高らかに挙げて喜ぶ人物達がいる。意気揚々とした顔つきで画面に食い入る俺以外の3人。カメラが3体を追えなくなった瞬間、映像は途切れた。食い入る様に見ていた会長が、突然こちらに向き、満面の笑みを浮かべ言った。


真野しんのくん! これは君なんだぞぉ! 見させてもらったよ。君の勇士を。これから君はこの大王製薬起っての改造人間。すなわち怪人かいじんとなる!今後の活躍を期待している!」

「あっあの…。やっぱり、これは私なんでしょうかぁ?」

「なぁにを言っている! まさしく君の進化した姿だよぉ。これは我が社きってのプロジェクトだったんだ。今日ココに呼んだのも、君の本当の姿を拝みたくてねぇ…ヒヒヒッ!」


 その言葉を聞いた瞬間、会長の引きつり笑いと共に、所長と主任が笑う。その様が異様に思えて笑えない。笑えないと言うより、こんな映像を見せられて、怒りに似た感情がわき上がる。俺がプロジェクトの一環? どういう意味だ。


「さぁ、グイッと行きたまえ! シャンパン……」


 裏があるような目つきで、会長はシャンパンを差し出した。その異様な顔つきに引きつり、飲むのを躊躇った。

 絶対に裏がある。さっきの映像が本当に俺の姿だとしたら、とんでもない事だ。

 こんな場所にいられない。会長や他の2人もおかしな眼差しだ。


「朝からシャンパンなんて飲めませんよ」


 会長の手前、強引に断る事はせずに、大人の対応を心がけ低調に断ったつもりだったが、他の二人が顔を覗き込む。ギロッと光る目つきで身体が硬直した。

 うっ動けない。どうしたぁ。その瞬間グラスが手から離された。


「遠慮は要らんよぉ、祝い酒だ」


 只野主任ただのしゅにん大荒部長おおあれぶちょうが、後ろに回り、腕を掴む。会長自らグラスを取り、俺の顎を強引に開けさせてその酒、否、液体を流し込んだ。吐き出そうとしたが、何かに囚われているような感覚で、喉を鳴らしてしまった。


 朝からの酒は胃にキツくしみ込んだ。

 この感覚は、昨日英雄ひでおに飲まされたワインの味に近い感覚だった。飲み込むと同時に突然胸の中心からザラザラとした感覚を味わった。


「はっ? な……ん……だ……こっこ……れ…は!」


 言葉が付いて出た瞬間だった。会長が悪代官の様に引きつり笑いをした。自身の体から繭のようなものが腹の中心から這い出し、それが全身を覆って行く!

 驚きを隠せず足を前後に、腕でその繭を振り払おうとするが、透明なのか目に見えているが、繭に触れる事が出来ない。


「あっあっ、うっ、なっ……な……ん……だぁ。こっこっこれっ。うおぉおおおお」


 グルグルと繭が覆い被さる様、その繭は黒く光りを放ちながら全身に纏わり付く。


 体をどう動かそうとも、坐っていたソファーから立ち上がり、テーブルを蹴吊り飛ばすが、こぼれるのはシャンパンが入ったグラスのみ…。前方の大きなスクリーンに、足を何とかすり足で動かしながら、繭と格闘している内に目の前が一瞬暗くなった…。


 意識が飛ぶ感覚……。奥底に自分が追いやられる。

 そんな感覚を味わった。体から漲る力と茶色と黒、交互に全身が光っている様に思えた。目の前は魚眼レンズが当てられた様に、突起して全部が見渡せる。ドクンッ! ドクンッ! と鼓動が走る!


「ぁぁぁぁあぁああああああああがぁぁぁ!」


 叫んだ!自分の声とは思えない低い呻き声。目の前が真っ白になり、違う何かが定着した。腕を見るとハサミ型の手が茶色に輝く。肉体がマッスルで胸板がかなり厚い。昨日味わったヘドロのような液体は出ていなかった。


「完成系か?」


 そう会長が大荒部長に小さく言葉をかける。


「いえ、進化の段階です。これはレベル1。戦闘と妙薬を飲む毎にステップアップしてきます。ウヒヒヒヒ」

「そうかそうかぁ!それは頼もしい!どうだ?真野くん…いや怪人カイト! 変身した気分は? ん?」

「ファンファンフェフェフェ……!」(何なんですかぁ?これは!)


 話そうとするが、言葉が可笑しい。こっこれは…昨日味わった感覚と同じ…。


「うーーーん。そうか心地よいか。アハハハハッハ!」

「フェファフェガ!」(ちっちがう…)


 変身した姿に驚きもせず、これが見たかったと言わんばかりの会長。そして、食い入る様に俺の姿を見ていた。隣の只野主任は、目を見開き、頬を膨らませ狂ったような口元で笑う。


「昨日の風邪薬は最高だったろう! 真野しんの!お前の家系はこうして全て怪人かいじんへとなって行ったんだぞ!」


 続いて大荒部長が目を細め和やかに頷きながら只野主任と笑いながら言った。

「君の親父さんも、今はそうして世界を飛び回っている!ながーい出張だなぁ!?」


「ファ?」(なっ?)

「ん?まだ姉が残ってるかぁ?」

「ファファファン!?」(姉さん!?)

「フフフフフフッそう言えば、結婚して地方にいるんだってなぁ?」

「ファッファファファフェフェファ!」(こっこいつら…姉さんは関係ない!)

「まぁ、そう言うな! 家族丸ごとだってお前の動向次第で何とでもなるわい!」

「フォォファフェフェファ!?」(何っ許せない!?)

「まぁその話は後でいい。今回の君の任務は、この日本を拠点に、破壊活動を行ってもらう!」

「そう、その前に世界…否、WORLDの緑達をどうにかしてもらわんと、我々も動くに動けんからなぁ!」

「君の母親も今や、WORLDへの諜報活動で忙しいから、まずはその通信を待ってから、乗り込もうとしようじゃないか!」

「ファァフォフォファ!?」(母親が諜報!?)

「君は生まれもっての怪人の要素がある改造人間だ!」

「ファファファファ!?」(なっ何を言ってる!?)

「何だ?初耳か?それとも分からなかったとでも?」


 その言葉を聞いた瞬間、茶色く黒光りした体から光りが消えた。


 頭の中では、ここにいる会長含め、全員打ちのめしたい気分だったが、体が動かない…。


 力一杯右腕で、会長をブン殴ってやろうかと思ったが、パンチと呼べるような腕の振りではなく、スローモーションでフラフラと会長の目の前に腕を出しただけだった。


「出来まい!この大王の御膳の前…。家来であるお前に私の波動は越えれんよ!」

その言葉を聞き、目の前に光りが見えた。

「ファファファアフェファフェ!!」(この会長も…怪人?)

「いぃーやぁ?私は怪人ごときではない!フフフフフフッ!」

「!!!!!!!!!!」(……ごときだと…!?)

「この世界を支配する、神とでも言おうか?ッフフフフフフッ!」

「そう、この大王製薬会長こそ、善の神!……いや?魔の神か?所詮は君はパワーはあるが、怪人レベル1だ!部長の私にさえ、今の君では太刀打ち出来まい!お前の考えてる事ぐらいお見通しだぞ?ん?」


 続けて只野主任が強く言った。


「そうだぞぉ! 真野! 私は只の怪人かいじんだが……今の君にはどうという事は無い!」


 3人3様それぞれ役があるのか…。

 今の俺はこの人たちに敵わない! だが…。俺はなりたくて、こうなったわけじゃない! ましてや、昨夜のビルの破壊と英雄ひでおとの戦闘!全く自分自身の意思でやったとは思えない!

 全てが、こいつらの……。


 こいつらの仕業……。だとしたら……。俺はこの場から、脱出しなければ……。


【脱出!脱出!脱出!し…しなければ……し……しな……け……れ……ば……】

(あっあれ? この圧迫感は何だ? この3人から発せられる……)


 波動だ!!!


 グラスを持った瞬間から感じられた……。さっきからこれを……。くっくそっ!

 目の前が真っ暗になり、力が抜け足下から崩れ落ちた。

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