第2話核心

「テレビをご覧の皆様、見て下さい。このビル壁が崩れた跡を。そして2、3m付近から、上部にかけて大きな爪の様な痕跡」


「凄いですねぇ。これは昨日付いたものなんでしょうか? 木玉リポーター」


「そうですねぇ。現在県警のほとんどが動員されて現場検証を行われている模様です。一体このビルで昨夜何があったのでしょうか!? 現場近くの防犯カメラに、不信な物体が写っている事が確認されている模様ですが、現在その映像は県警によって押さえられており、報道が出来ない状態にあります」


「木玉さーん! その物体というのは、動く何か? という事なのか、それともUFOなどの未確認飛行物体なのか、なんなのでしょうか?」


「えぇ……。わたくしどもの見解と県警からの少しの情報によりますと、それは生き物ではないかと言う情報ですねぇ。それが3体、ものすごい早さで動いていたという情報であります。その防犯カメラ映像が入り次第、また報告させて頂きます」


「はい、ありがとうございました……。という訳でして、この番組をご覧の皆様もご注意下さいませ。まだこの近隣に…………」


 見ていたテレビを消した。


 ベッドに横たわりながら、自分の部屋を目で追う。

破れた壁紙、入口の扉は蹴破られたように倒れている。そして、窓…。

普通に開けたようでは無く、窓ガラスが割れて、ベランダに散らばっている。

窓額は減し曲がり、人間が壊したような力加減ではない事が一目見ただけで分かる。


 昨日…。昨日の出来事なのか、そうだ。そのはずだ。

英雄ひでおと出勤時で食わし、会社終わりに一緒に自宅で飲んだ。

ワインを勧められて、飲んだ後、眠気が襲った。

気づけば、ベッドの上。会社の只野主任ただのしゅにんに貰った風邪薬を服用したら、体が急に重たくなり、トイレ……。


「そうだ!トイレに行こうとした瞬間、鏡に写った自分の姿に驚愕した。その瞬間、緑のタイツにピンクのタイツを着た英雄ひでお百花モモカ…」

 その後の記憶が無いんだ…。

 確か…。「ここで成敗だ! カイト! いや怪人かいじんめ!」と言われた事までは覚えている。


 俺が、怪人?

 な……の……か……。


 そして、またさっき目覚めた。

 ベッドの上だった。

 目覚めた瞬間呆然と辺りを見渡した後、テレビを付ければ、この報道だ。一体昨日の夜、何があったんだ。


 一階に降りて行ったが、昨日から母親の姿は無い。

 おもむろに携帯を取り出し、母に電話を入れた。

 しかしすぐに留守電に変わってしまった。

 帰ってないのか…。


 でも、産まれてこのかた、親父はともかく、母親が一日ずっと家を空ける事など無かったはずだ。

 心配の旨を留守電に入れて携帯を切った。


 時計を見ると、もう出勤時間。帰ってから業者に連絡でもしようと、荒れた部屋をそのままに、スーツに着替えて家を飛び出した。いつものバス停。昨日の中学生らしき人物がまたうわさ話をしているのが、聞こえてくる。


「なぁ、今朝のテレビ見た?」

「ん?見てないけど、さっきスマホのニュースで見たよ!あれでしょ?駅前のビルの件」

「そう! 絶対あれさぁ? 緑のタイツのおっさんの仕業じゃね?」

「えぇーー!!? ありえないでしょう?ただ駅前で立ってる緑のおっさんがそんな事するはず……」

「だって、格好からして可笑しいじゃん!そんなのに限って、変な行動するんだよぉ」

「でもぉ……。あんなおっさんが、ビルを壊せる?」

「うーん………」

 そんな会話を小耳に挟みつつ、バスに乗り、会社前の停留所に着く。

バスを降りると、同期の薦野こものが、背中を丸めながら歩いているのに気づいた。

「おい! 薦野こもの……。どうした?」

「ん?あぁ、真野しんのか……。ちょっと昨日深夜まで残業で、疲れが抜けなくてなぁ……」

「ん? そうなのか? お疲れ様だな…」

「お前は……定時に帰れていいよなぁ? 優遇されてねぇかぁ? 主任にさぁ……」

「日頃の行いが良いからさぁ?」

「ハァ……ったく……良いよなぁ……真野しんのは、お気楽で……」

「どういう意味だよ?」

「……フンッ、別に……」

「じゃあなぁ……」

「……新薬課しんやくか…あぁあ、俺もなぁ………生まれが良かったらなぁ……」

「はぁ?」

「じゃあなぁ!」


 部署に着くと、上司がスマホでワイドショーを見ていた。


 どうせ、今朝話題のニュースでも見ているのかと、その画面に食いつく顔が、異様な笑みで少し怖い。


 只野主任ただのしゅにんが、顔を見るなり、和やかな笑みを浮かべて、ミーティングルームに誘った。


「おぉ! 来たか! 英雄殿えいゆうどの! 昨日の風邪薬は良く効いたか?」

「えっまぁ、朝までぐっすり…です……まぁ……」

「なら良い。さぁ! オーナーの大王会長だいおうかいちょうが待ってるぞ!」

「えっ? この時間にですか?」

「何を言ってるんだ。君に会いたいと昨日に電話があってな? でも風邪で定時で上がったと言ったら、今朝本部から飛んで来ると言ってな?早々にいらっしゃってるんだよ」

「はっはぁ…」


 何かただならぬ事でもしたかと、只野主任と一緒に会議室前まで足を運ぶ。中から大きな笑い声と同時に変な言葉が聞こえて来た。


「ギャラギャラギャラ! やっぱり初号機より、2号機、2号機より3号機だな」

「えぇ、そうです」

「つぎ込んだかいがあったと言うものだ。これで世界に一歩近づいた!」


 只野主任が、扉をノックする。すると会長らしき人物の招き声で部屋に入った。


 その瞬間、俺を見るなり、立ち上がる。笑顔で近寄り俺の腕を持ち、ポンポンと肩を叩いた。


「おぉ!! 良くやってくれたなぁ。君は。流石、真野家しんのけの出! やはり家柄が違うか?」

「はぁ? はぁ……」

「まぁ掛けなさない。今日はじっくりと話をさせてもらおうか。今後の君の活躍と多幸を祈って、まずは乾杯と行こうじゃないか!」

「えっ?」

「まぁ掛けなさい」


 只野主任と大王会長、それに営業所のトップ大荒おおあれ部長が、ソファへと案内する。すぐ事務の女性がシャンパンを持って現れた。


「あっあのう…。これは何のお祝いですか? この朝っぱらから……」

「こら!会長に失礼じゃないか!真野しんのくん!」


 只野主任ただのしゅにんがたしなめた。大荒おおあれ部長が、テレビ会議で使う大型スクリーンの電源を入れた。


 会社はこの大王会長が率いる、大手製薬会社。大王製薬の子会社だ。その会長が自ら、この小さな会社の営業所に足を運んだ意味が、スクリーンに映し出された事ですぐにわかった。


 そこに移っていたのは、昨日風邪薬を飲んだ後に、豹変した甲羅に包まれた怪人かいじんいや、俺の姿そのもの…。そして、その姿でビルをよじ登り、緑とピンクの人間らしき人物と超スピードでバトルしている姿…。


 映像は、ビル付近の道路から撮られているものだった。そうか…。この会長に呼ばれた訳…。普通のカメラワークでは追えないような、映像だったが、これは見事に捉えていた。


 俺……。名前の通り……。真野怪人しんのかいと

 いや、真の怪人かいじんなのか…。

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