第9話 驚愕①

 退院の日が来た。今日からまた仕事を頑張らなきゃな…と言っても暦は12月26日冬休みに入った。次の出社は年明けの1月6日だ。「今思うと矢野支店長、妙に優しいというか…変な感じしたよな…」と言うもののいつもの調子の矢野支店長なら遅れを取り戻せと冬休み返上で働くようにいいそうなものだが実際は「体に気をつけて」程度で愚痴の1つもなかった。「まあー病み上がりの人間にはな…」そんなことを考えて入院費の支払いのために受付に行く。

 「坂本さん~」看護師が俺を読んだ。「坂本さんそれでは国民カードをお出しください。」「ん?身分証明書でいいですか?」よく分からない単語に思わず聞き返した。「いや、だから身分証明書にもなる国民カードですよ。財布の中のそれじゃないんですか?」看護師は不思議そうにいう。俺の財布の中には確かに免許証のようなカードが入っていた。国民カードと書かれたそのカードには俺の顔写真と住所、国民番号という12桁の数字書かれている。なんだ…これ?身に覚えのないカードに困惑していたが、看護師ははやくしろと目線を送ってくる。

 その目線にびびってカードを出してしまった。「はい。確認します。…はい、坂本さん確認できました。ありがとうございました。お大事~」流れ作業のような言葉に俺は「え、金額は?」とたずねると看護師は不思議そうな顔していった。

 「お支払いってなんですか?」…そのとき俺は自分の財布に金が一円も入ってないことに気づいた。

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