第5話 回顧③

 壁を感じる。自分が一流という人間になるためには厚くて大きい壁がある… 

 俺は大学4年の6月まで就職活動を続けていた。友人からは内定も2つ出てんのに遊ばないなんて勿体ないと笑われたが自分の腹の中にあるモヤモヤが解消されず、もがいていた。誰もが羨む大企業への切符を優秀な俺が手に入れなければ…

 そんな気持ちの根底には耐えがたい嫉妬があった。入学当初腹の中で見下していた金持ちの坊ちゃん達が次々と大手企業へ内定を決めていた。今考えれば当然だ。大手食品メーカーの役員の息子ならマスコミにとっては安くスポンサーを手にいれるチャンスだし、地元の有力企業の息子なら取引先の大手企業が引き取るだろう。しかし、そんなことはつゆ知らず俺は貴重な大学生活を浪費していた。そして、結局大学4年の夏休み前に大手企業の採用が落ちつき、自分は特別な人間ではないと悟った。

 ここから先の決断は凄く単調であった。みごとに就職活動で心が折れた俺は地元の専門商社に進むことを決めた。力のない自分では地元の銀行では生き残れないと考えたのだ。この決断には両親も大学の就職支援課も大反対。当時付き合っていた彼女からふられることになった。

 こうして周りから誰も共感されることなく俺の就職活動はいや、大学生活は終わりを告げた。しかし俺自身はある意味晴れやかな気持ちであった。自分の小ささ愚かさを知ったことで、数字とは違う幸せを見つけよう。そう考えていた。もう、収入や人の目なんていいじゃないか。のんびりゆっくり小さな企業で自分のしたいことを大切にしよう。自分のペースで…

 しかし、現実は非常なものである。結局仕事をする以上いや違うな…生きていく以上金をただ追いかける。待っていたのはそんな現実だ。…俺はどこで間違えたのかな…就職先を決めたときか…自分を優秀だと勘違いしたときか…心で友人を見下していたときか…もう今はそんなことはどうでもいい…とにかくこの抜け出せない奴隷生活の中で足枷として鎖として、金が俺を縛り上げている。これは紛れもない事実である。

 

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