第4話 回顧②

 大学3年の頃就職活動が始まった。夏休みのインターンシップ、OB訪問から始まり、企業合同説明会や自己分析など社会人の今、振り返ればなんてことはない作業ではあるが当時の俺にはキャパオーバーだった。また、周りの友人も皆同様に疲弊していた。 

 「なあー同じゼミの石川ちゃんもう内定とったって!」興奮気味に友人の筒香が食堂でうどんをすする俺に話し掛けてきた。「まだ、大学3年の春休み前だろう!?」驚く俺に筒香は「あれだよ!サイバージェットっていうウェブの」「あーベンチャー系かなるほどな~ あそこなら速いかもな」俺は平然を装いながら内心ホッとしていた。というのも石川ちゃんは見た目ギャルで全然ゼミにも来ない不真面目な生徒であった。ギャルではあるがそこそこルックスはよくたまにゼミに来るとみんなの中心になるようなそんな生徒だった。「やっぱりベンチャー企業は速いんだな~ あー早く終わって遊びて~」のんきな筒香を横目に自分も早く選ばれた側に、いや、少しでも良いところに選ばれたいとそれだけ考えていた。

 長い春休みがおわり大学4年が始まると銀行や証券会社を筆頭に内定が出始めた。筒香も地元香川の銀行に決めたらしい。俺の友人は地方出身者が多く、ゼミ仲間の倉本と梶谷は地方銀行に、サークルの悪友である山崎と今永は自動車部品のサプライヤーに就職を決め最後の大学生活をエンジョイしはじめていた。かくゆう俺は地元の銀行と地元の専門商社から内定を貰っておりどちらに行くか悩んでいた。

 「あんた、まだ悩んでんのー!?悩むことないじゃない。銀行にしなさいよ。地元で1番大きな会社よ。給料もいいし」4月もおわる頃お袋から電話が掛かってきた。「そんな簡単じゃねーんだよ。一生のことだぜ。それに…まだ他の採用も残ってるし…」「あんた、まだ受けてんのー!?いったい何になりたいのよ~今の時代終身雇用なんてないんだし、あわなきゃ転職すればいいのに。とりあえず就職先とゴールデンウィーク帰ってくるか決めたら電話しなさいよ。あと、野菜とかご飯しっかり食べてね。それじゃあね!」一方的に着られた電話を見つめて俺は「一生の就職と帰省を一緒にすんなよ」と呟いたが頭はお袋からの「何になりたいのよ」という言葉が駆け巡っていた。 

 …なりたいものなんてなんもねーよ。ただ誰もが羨む企業の内定が欲しい。自分が優秀という証拠が欲しい。そんなことを考えていた。そしてその考えはいつしか優秀だと周りから認められるには金を稼ぐしかないとそんな考えに変わっていった。

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