7-1 1人目の仲間

「え?ぇぇぇぇぇぇええ!」 

「どういうことですか!?早く戻らないと兄上たちが」

「大丈夫だって、隣国まで来てるしあいつらに俺たちの行った先なんて分かんねえよ」


しかしアインの表情は焦っているようだった。

 

「そんなにあいつらのことが怖いのか?まぁ、あの様子だと小さい頃からあんな仕打ちを受けてんだろうが、やっと解放されたんだぞ」

「もともとあんな兄たちではありませんでした」


 急に暗い雰囲気で語り始めた。


「3か月前セルジオを目指して馬車に乗って移動していた途中魔物に襲われてしまいました」

「貴族は基本的に先頭から順に位の高い順で乗っていきますので、僕は一番後ろの馬車に乗っていました。」

「前方から兄たちの叫び声が聞こえたので急いで向かいました。護衛たちの死体があちこちに見えその先には……死んだ父の姿がありました」


 そんなことがあったのか。

 

「そこで見てしまったんです」

「何をだ?」

「兄たちの体に入っていく魔物の姿を」

「それって魔物が兄貴の体を乗っ取ったってことか?!」

「おそらく……」

 

 魔物って人間の体を乗っ取ることができるのかよ。

 ここで一つの疑問が思い浮かんだ。


「なぜお前は殺されなかったんだ?」

「父や護衛たちを殺し僕まで殺してしまえば、自分たちの正体もわからず下手に行動できなくなるからだと思います」

「なるほどな情報源ってことか」

「なので王都に着いたら事情を話し魔物を退治してもらう予定だったんです」

「奴らは内部から地道につぶしていくはずですからこのままでは王都が」


 確かにそれは危険だな。王都には猛者たちがいるだろうが不意打ちでもされたらさすがに太刀打ちできないだろう。

 ましては勇者なんかが乗っ取られたらこの世界の危機にすらなりかねない。それに……ミレーもいるしな。


「明日のコック選抜試験はいつ始まるんだ?」

「1時から始まります」

「そうか。ならその前に片づけないとな。兄貴たちはコックになるために来たんだろ」

 

 アインの表情が明るくなっていく。


「手伝ってくれるんですか?!」

「当たり前だ!それに、そうなったら俺も困ることがあるんでな」


 とっさにミレーの顔が思い浮かぶ。

 別にそういうわけじゃねぇよ!と心の中で突っ込んだ。


「じゃあ早速戻りましょう!」

「それは無理だ」

「どうしてですか?早めに行っておかないと間に合わないですよ?」

「あの魔法は一度使ったらMP全部なくなるから今日はもう使えない」


 それにしても使い勝手悪いよなぁ。


「ならどうすれば?」

「一度寝れば回復するみたいだ。だが明日行くとなると早めに出発しなければならないからかなり早いが今のうちから寝て、明日に備えるぞ」

「なるほど!」

「よしそうとなったらまずは宿を探すぞ!そして飯だ!」

「そうですね!」


 アインは貴族だ。金ならあるはずだからちょっとくらいいい宿に泊まっても…


「どうしたんですか?悪人のような顔になってますけど」

「あ、あぁ何でもない」


 危ない危ない。顔に出てしまっていたようだ。


「アイン!ここはどうだ!」


 早速高そうな宿屋発見!


「いいですね!ここにしましょう!」


 中へ入っていく。


「いらっしゃいませ。何泊されますでしょうか?」

「明日の早朝には出るから一泊だ」

「了解いたしました。金貨2枚です。なお、お食事は別料金となりますのでご了承ください」


 やはりかなりの値段だ。

 ここはお金を落としたってことにしておこう。


「や、やっべぇ!お金どっかに落としちまった。アインすまないが払ってくれないか」

「ちょ、ちょっと!僕が持ってるわけないじゃないですか!」

「そんな冗談はいいから。ほら後ろで別のお客さんも待ってるし早く」

「冗談じゃないですよ!最初から僕にはらわせるつもりだったんですね!」


 しばらくあほみたいな言い合いが続いた。


「いい加減にしてください!お金を持っていない人を止まらせるわけにはいきませんので!」


 そう言って二人とも追い出された!


「はぁ、今日も野宿か……」


 ぐぅぅぅぅ


「おなかも減ったし」

「僕はこんな人と明日兄上たちを救えるのだろうか……」


 言い返す気力もない。

 とりあえず人気が少ない場所を見つけ、今日はそこで野宿することにした。



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