11話 そして二人きりになった
皿に盛りつけられたパンケーキ、2つのプライパンで交互に焼き進められていた。カマドの前に立っているのはララである。瑠偉は、その様子を見る事もなく、完成したパンケーキの方を見ていた。
「お嬢様、2枚重ねにしてソースをかけてください」
「はい、解りました」
瑠偉は言われた通りに、皿に盛り付けソースをかけ始めた。彼女は顔を近くに寄せ、その香りを楽しみながら盛り付けていった。日頃の固いパンに比べ、そのパンケーキはふっくらと仕上がっている。それは彼女の目から見ても、明らかであった。
「では、二皿をレッグさんの所に運んでください。お嬢様とレッグさんの分です」
「りょーかいぃー」
ウキウキ気分で我を忘れていた瑠偉は、何の疑問も持たずにトレーに載せレッグの待つ部屋に進んでいった。部屋に入ると6人ほどが座れるテーブルに、レッグは中央に座っていた。手にはコップを持ち、何やら飲んでいた。彼はドアに現れた瑠偉は見ると、嬉しい笑顔を彼女に見せた。
「待ってましたよ、どうぞお掛けください」とレッグは、対面の席を手を差し伸べた。
「あぁー、ちょっと待ってくださいね」
瑠偉は二人きりになるの事を避けるようと、ララを呼んでこようと考えた。パンケーキをテーブルに置き、レッグの顔を視線だけで見た。彼女の予想通りレッグは、笑顔で見ていた。その視線を体で感じ取った瑠偉は、ゆっくりと首をレッグの方に向けた。
「ところでルイさん。特定の男性と、お付き合いなされているんですか?」
レッグは瑠偉が振り向いた瞬間を、見計らって直ぐに声をかけた。
瑠偉は、ついにこの質問がきた… と思い、レッグを微妙な表情で見返した。彼女は考える、居るか、居ないか… どちらを答えれば正解なのか。居ると答えると、その男性について詳しく聞いてくるだろう。しかし、いないと居れば、更に猛アタックが始まだろう。では、どうしよう… としばらく考え、彼女は一つの選択肢を考えついた。
「ええぇーと、特定な人は居ないですね。でも私の国に、思っている人は居ますよ」
「そうですか・・・」
レッグは残念な表情をしていたが、その目は明らかに瑠偉に狙いを定めいる感じだった。レッグは、今後どのように彼女を、誘おうかを考え始めた。
「そうだ、ララさんを呼んでこないと」
瑠偉は居た堪れなくなり、その場から逃げる様に退室した。二人きりにならない様に、ララに側にいてもらうためだ。貸しが増えるのは仕方なし… と彼女は、ララを頼ることにした。
レッグは瑠偉が、ドアから去っていくのを眺めていた。振り返るときの髪のなびき方、そこから放たれるであろう彼女の香りを、目を閉じ全身で感じ取ろうとしていた。
瑠偉は廊下を小走りで、調理場に向かう。出るときに開きっぱなしにしていた先を抜けると、中に居るであろうララに声をかけた。
「ララさーん、ヘルプー・・・・ っえ? ・・・いない」
瑠偉は部屋を見渡す、そこに居るはずのララが居なかった。そんなはずはない… と彼女は思いながら、部屋の中を隅々まで歩き回った。机の下に隠れているんじゃ… と考え、机の下も見た。しかし、ララは居なかった。ふと机の上を見ると、日本語の文字が書かれている紙を見つけた。彼女は机に両手を置き、その紙を読み始めた。
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城島 瑠偉様へ
マスターより『地球に戻るぞ』と言う命令を受けました。残念ですが、ここでお別れです。マスターより『10カ月の休学は確定でしいるので、いまさらだな。残りの期間、旅を満喫してくれ』とのことです。10カ月後に迎えに来ます。10カ月の間に、帰還するための準備があります。詳細は裏面に書かれています。必ず見てください、必ずです。
~~~裏面へ続きます(すぐに、必ず見てください)
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「なにぃぃぃーーーー!」
瑠偉は、その衝撃的な内容に、思わず大声を出してしまった。そして黙って、その紙を見つめ始めた。すると、次第に目から涙があふれていた。
「なんで・・・・ なんで置いてくの? 酷いよー」
心細い声でつぶやくと、瑠偉は涙で湿った目を擦りながら、その紙を取る。
そして裏面を見た。
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と言うのは、嘘です。
マスターに、パンケーキを届けてきます。そして先に、宿屋に戻ってます。
レッグさんと、楽しい時間をお過ごし下さい。
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「バカァァァァァァァァーーーー!!!!」
瑠偉は、持っていた紙を、床に投げつける。その紙は、ヒラヒラと左右に振れながら、ゆっくりと床に落ちた。彼女は、そのまま部屋のドアに向かい、そこで止まる。廊下の先に見える、レッグの待つ部屋を見ながら彼女は考えた。このまま帰るか、レッグと一緒にパンケーキを食べるか… 当然レッグの部屋に行けば、男女二人きりであり、何が起こるか分からない。帰れば、パンケーキを食い逃してしまう。
彼女は目を閉じる、腕を組み小さな声で唸り、じっくり考え始めた。結果、食欲が勝った。そして、重い足取りで歩いて扉の前に立った。そしてレッグの待つ部屋の扉を、ゆっくりと開けた。
「ルイさん、侍女の方は?」
「なんか、帰ったみたいです。・・・ははっ」
一人で会現れた瑠偉に、レッグはすぐに声をかけた。瑠偉は再び重い足取りで、パンケーキの置かれている、レッグの対面に腰かける。テーブルの上に載っている、パンケーキの甘い香りが彼女の鼻を刺激していた。
「では、食べさせていただきます。・・・こ、これは」
レッグはパンケーキをフォークで切ると、その柔らかさに驚きの声を上げる。そして口に運ぶと、目を見開き瑠偉を見た。瑠偉もフォークで切り分け、美味しそうに笑顔で食べていた。
「この柔らさは、いったい・・・・ 甘いソースは、果物か・・・」
レッグは、もう一口食べる。真剣な表情で、口を動かしている。
「美味しいです。とても、とても美味しいです。初めて食べる味と食感です」
「そうですか、よかったです」
驚きの表情で瑠偉を見るレッグ、瑠偉は彼から目線をずらし相槌を打つだけで精一杯だった。
「ルイさん。これは何と言う料理ですか?」
「パンケーキと言うものです」
「なるほど… 作り方を聞いてもいいですか?」
「ええぇー・・・と」
瑠偉はララが、先ほど作っているのを見ているので答えられる。しかし、食塩水の電気分解… ペーキングパウダーと言う存在… 理解できないだろうと考えた。まず、この世界には電気が存在しない。よって、そこから説明しなければならない。これは、無理だな… と彼女は思った。
「これは、私の家に代々伝わる秘伝です。教えるわけにはいきません」
「そうですか・・・ 残念です」
レッグは、そう言ってパンケーキを全部食べると思いきや、少しだけ残した。あとで料理長に見ても貰い、同じものができるか意見を聞くためだ。
「ところでルイさん。好みの男性のタイプは? できれば教えていただきたい」
「あ… ああ… えーーっと、何と言いますか・・・」
それからは、レッグ家のメイドに、お茶を入れてもらい。瑠偉とレッグによる、恋愛談議が繰り広げられた。最終的に、レッグは瑠偉と一緒に狩り行く約束を取り付けるのであった。
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