12話 作戦会議を始めよう

 瑠偉とレッグが、楽しいひと時を過ごしている頃。

 隣町の宿屋の一角で兼次とルディは、ベッドに腰かけ対面していた。一方麻衣は食事の後、変装道具を買いに行くと言って、宿屋を出払っている。兼次はルディを無言で見つめている。ルディは、そんな彼を不思議な表情で見つめ、何か言ってくれるのを待っている雰囲気だった。


「ルディ、聞きたいことがある。とっても大事な話だ」

「…大事な …はなし?」


 兼次は腕を組み、真剣な表情でルディと再び向き合う。


「お前の姉に、恋人はいるか?」

「こいびと?」


 大事な話と聞いて、ルディは若干身構えていた。しかし想定外の質問に、目を丸くして兼次を見上げた。そんな兼次は、ルディから見て真剣な表情である。ルディは、過去の姉の行動と、周りの関係を思い出す。


「いない… と思う」

「そうか、いないか・・・ ふふふっ、よろしい」


 ルディから目線を外し、なにやら不敵な笑みを見せる兼次。ルディは、そんな彼を見ながら、彼の臭いを嗅ぎ始めた。彼に気づかれない様に、鼻から息を大きく吸う。そして、その臭いを自身の記憶と照らし合わせる。


「猫族の臭い …いっぱいする」

「気づいたか… これは大人の楽しみだ、お前にはまだ早い」


「大人の楽しみ?」

「気にするな、いずれ分かる。それで、お前たちは何故この街に居る。敵情視察か?」


「わかんない… 住む土地見つけるって、おねえちゃん言ってた」

「そうか・・・ 解らんなら、お前の姉から詳しく聞くか・・・」


 話すことが無くなったのか、子供と話すのが嫌いなのか、兼次はルディを見たまま黙り込む。彼は、組んでいた腕を後頭部で組み直すと、上半身をベッドに寝かせ天井を見始めた。


「麻衣の奴、おせーな・・・ 会話が持たねーぞ・・・」


 兼次のつぶやきの後には、ひと時の静寂が部屋全体に広がっていた。窓の外からは、人々の行き交う声のみが、部屋を満たしている。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 ルディが、突然大声を張り上げた。部屋の入口の方を見て、目をおきく開き、口をパクパクさせている。そして、ゆっくりと右手で見ている方向に指した。


「ひぃ… ひ… ひとが… ひとが…」

「どうした?」


 ルディの声を聴いて兼次は、首だけ起こしてルディを見る。ルディはドアの方を指して、震えながら固まっていた。兼次は、ルディの指している方向を見ると。そこにはテレポートで突然現れた、ララが立っていた。ララは両手に皿をひとつずつ持ち、頭にもう一皿乗せていた。


「マスター、スイーツをお持ちいたしました」

「ご苦労、テーブルに置いてくれ」

「はい」


 ララは音もなく静かに、バランスよく歩き頭に載っている皿は、全く動かず静止している。テーブルの前に来ると、その上に皿を並べた。彼女は、そのままルディの方を見た。


「これが例の犬族ですか?」

「ああ、ルディと言う」


 ララは、怯えているルディの方に近寄る。ルディに顔を近づけ、右手でルディの後頭部の服を摘まみ、そのまま持ち上げた。ルディは、突然部屋に現れたララを見て、固まったまま黙ってララを見ていた。


「こらこら、摘まむな…」


 ララは摘まんでいたルディを、ベッドに下すと兼次の方を向いた。


「それでは、私はこれにて戻ります」

「うむ、ご苦労であった」

「では、失礼いたします」


 そう言い残すとララは、テレポートでその場を後にした。

 そんなララを、目の前で見ていたルディは、再び驚き声を上げる。


「消えた… 消えた…」


 ルディは兼次の方を見て、「消えた… 消えた…」と何度も小声で繰り返していた。兼次は起き上がり立ち上がると、ルディに歩み寄る。そして彼の頭に右手を優しく乗せた。


「ルディ・・・ 何も見ていない。いいな?」

「でも、現れた・・・ 消えた・・・」


 兼次はルディの頭に乗せている手に力を込め、彼の頭を強くつかむ。そして、鋭い目つきで彼を、じっと見つめた。


「ルディ、何も見ていない。言ってみろ」

「な… 何も見ていない」

「よろしい、いい子だ」


 兼次は力を込めていた手を緩めると、そのままルディの頭を撫で始めた。そんな時、部屋のドアが突然開いた。勢いよく開いたドアは、壁にぶつかり大きな音を立てる。ドアには息を切らした、麻衣が立っていた。


「大変、大変、たいへーーーん!」


 麻衣は「大変、大変」と連呼しながら、兼次の側まで来た。そして、兼次がルディの頭をなでているのを見て、彼を勢いよく指した。


「・・・大変、大変、わーーー変態ショタコン!」

「誰が変態だよ! 言い聞かせていただけだ。で… 大変とは?」


 麻衣は走って来たのか、大きく息を吐き呼吸を整え始めた。


「なんでも敵国の密偵を捕まえたって。そして、午後に公開処刑があるって! きっと、ルディちゃんの、お姉さんよ!」

「ふむ・・・ 無駄に行動が早いな。しかも公開するとは・・・」


 ルディは公開処刑と聞いて、先程の消えたララの事など忘れたかのように、麻衣を見つめ続けた。


「おねーちゃんが・・・」


 心配の表情で麻衣を見上げているルディを、麻衣は彼に近寄る。そして側に座ると、彼を横から優しく抱き寄せた。


「大丈夫だよ、必ず助けるから。絶対助けるから」


 麻衣はルディの頭を撫でながら、兼次を見た。その表情から、早く助けに行こう… と訴えている様だった。


「まだ時間はある、じっくり対策を練るぞ。で… 変装道具は買ってきたんだろうな?」

「当然よ。そして、なんと、夜巳ちゃんへのお土産も買ってきたよ」


 麻衣は、よほど嬉しかったのかルディの姉の事より、まず先にお土産の事を先に話始めた。


「やけに遅いと思ったら、やっぱり寄り道か・・」

「ふふふふ、なんと、魔鉱石を買ってきちゃった! 魔鉱石だよ!」


 麻衣は買い物袋から、拳大の石を取り出し兼次に見せた。それは、所々に金属ぽい光沢が見えるが、ほぼ石であった。


「騙されてるんじゃないのか? 普通の鉱石に見えるが?」

「違うんだってば! なんと、持ってるだけで力が湧くんだよ! そして温かいだよ!」


 持っていると、温かみを感じ、更に力も沸く… 兼次はその言葉に、嫌な予感が過った。


「その石、貸してみろ」

「なにするの?」


 兼次は麻衣から鉱石を受け取ると、握りしめその感覚を確かめた。


「確かに、なんか温かいな・・・ 嫌な予感しかしないが」


 兼次はスマホを取り出しその鉱石に向けた。


「ララ、物質分析を頼む」


 そして、その鉱石の成分がスマホ画面に表示された。


  ★ウラン 55.98%(同位体を含む)

  ★ネプツニウム 0.01%未満(同位体を含む)

  ★プルトニウム 0.01%未満(同位体を含む)

  ★二酸化ケイ素 22.5%

  ★酸化カルシウム 16.4%

  ★鉄 5.1%

   結果:純度の低いウラン鉱石です。

   注意:放射線が出ています、また発熱もしております。


 兼次はスマホを、ズボンのポケットに入れると。右手に持っていた鉱石を、強く握りしめた。その右手は、力の入れ過ぎなのか、細かく震えていた。


「ウラン鉱石じゃねーか! アフォかぁーー!」と彼は勢いよく立ち上がると、部屋の窓に向かっては走る。そして窓を開けた。「俺の嫁、殺す気かぁーーーーーーーーー!」と叫びながら、彼はその鉱石を、勢いよく空に向かって投げ捨てた。


「うわあぁぁー、私の金1がぁーーー!」


 麻衣は窓から消えゆく鉱石を、右手を上げ悲しく見送った。更に「伝説の魔鉱石が・・・」と小声でつぶやいていた。

 兼次は窓から離れると、麻衣の前に立った。麻衣の隣にいるルディは、どうしていいか分からず、兼次と麻衣を交互に見ていた。


「お前、出発前に言っただろ? この惑星の住人は、放射線をエネルギーとして体内に溜め込めると。つまり、ウラン鉱石を持っていると、その放射線で力が湧くんだよ。そして地球人は癌になって死ぬ。わかったな? 以後この惑星の物を、地球に持ち込まない様に!」


「魔鉱石じゃないの?」

「放射線をまき散らしている、ウラン鉱石だったよ。無駄な買い物してんじゃねーよ」


「まぁいいわ・・・」と麻衣は、うっすらと笑みを浮かべ立ち上がり、兼次の側に寄り添った。そして右肘で、彼の体を突き始めた。


「ねぇねぇ… さっき、俺の嫁ぇーーって言ってなかった?」

「そうだ! ララからスイーツが届いているぞ。食べながら、救出作戦でも練ろうぜ。ルディの分もあるぞ、お前もこっちにこい」


 兼次は麻衣から逃げる様に離れ、ルディの方を見ると彼をテーブルへと誘った。


「ほーら… また話を逸らした。意外に恥ずかしがり屋さん?」

「麻衣… お前の分無くなるぞ?」

「わぁぁぁ、ちょっと待ってよ! ルディちゃん、食べるわよ!」


 麻衣はルディを引きつれテーブルまで来た。先にルディを座らせ、彼女も腰かけた。テーブルに載っている、パンケーキを見て顔を近づけ、その香りを鼻で勢いよく吸いこんだ。


「フルーティーなパンケーキね! しかも、フワフワだぁ」

「さすが自称銀河最強だな。こんなローテク文明の星で、ここまで仕上げてくるとは」


「おねーちゃん、これ何?」

「ルディちゃん、これはパンケーキって言うのよ。おいしよー、食べてごらん」


「ルディ、姉の事は心配するな。俺が助けてやる。とりあえず食って元気出せ」

「う… うん」


 ルディはパンケーキを切り分け、その一部分を口に運んだ。口に入れた瞬間、彼の目は大きく見開きた。隣にいる麻衣を向くと、彼女はルディに向かって優しく微笑む。


「ルディちゃん、おいしい?」

「うん… 甘いし、柔らかい・・・ 初めて食べた」

「そうよかった」


 そんな二人の様子を見ていた兼次は、眉間にしわを寄せ悩ましい表情で二人を観察していた。そして、パンケーキを半分食べ終えた頃。


「では、ルディの姉の救出作戦を練るぞ!」


 と二人に向かって、強く宣言した。

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