13.究極魔法と黒い彼女

「おみゃぁさんらには、どえりゃぁおうじょうこいてまったが、まぁこれで終わりにしたるわ(お前たちには、とても苦労したが、もうこれで終わりにしてやろう)」

 光の中に浮かぶエメルドの周囲に、6つの光球が浮かぶ。赤、青、茶、緑、金、黒。それぞれに火水土風光闇の魔力が籠る。

「全属性の超級魔法で、欠片も残らせんように消し飛ばしたるわ」

 6つの光球はその魔力を強めていく。俺は"理力のバールのようなもの"を取り出そうとして手を僅かに動かす。が、すぐ近くの黒ローブがそれに気づき、倒れているギルド長の首に剣を添える。

「ぐっ……、味噌、俺に構わんでええ……」

 倒れている冒険者全員が人質のような状態だ。どうする、一瞬の隙を突けば、魔法一発くらいなら撃てるか!? 魔法一発で黒ローブ全員を無力化する方法……。くそっ!




 あれしかないじゃないか!!




 俺はエメルドを見上げ、そして凝視する。あと少し、あと少し……。

「くらえ!!」

 ついに6つの光球が発射され──

 次の瞬間には、俺は中空に浮かぶエメルドの真横に居た。

「なっ!!」

「瞬間転移だ!!」

 全然"瞬間"じゃない瞬間転移だ。奴がもったいぶって魔法を溜めてくれたおかげで間に合った。俺は"理力のバールのようなもの"を抜きながら振り抜く。


 バシュゥゥン!!


「くっ!」

 しかし転移の目測が甘かった。エメルドまでの距離が少し遠かったらしく、俺の攻撃がギリギリ届かない! "必殺"が必中攻撃であるとはいえ、攻撃の範囲外では当たらない。だが、そのひと振りで6つの光球は掻き消えた。

「エメルド様!!」

 下に居る黒ローブたちはこちらを見上げ、悲鳴のように叫ぶ。直後、当然空を飛べない俺は落下を始める。突然の攻撃で、明らかに焦った表情だったエメルドも、落下を始めた俺を見て腹立たしいほどのドヤ顔だ。

「だがそれも織り込み済みだ、テンペスト!!」


 風属性魔法(出典:魔法辞典)

 究極:テンペスト 広範囲に暴風が吹き荒れトルネード同様のダメージを与え、ライトニングが降り注ぐ


 落下しつつ、俺は風の究極魔法を行使した。テンペストは風の上級魔法トルネード(暴風によりダメージ)と、超級魔法ライトニング(落雷によるダメージ)を範囲内に乱れ撃ちする魔法だ。だがしかし、俺のテンペストは一味違う。非常に恐ろしい威力を持っている。


「な、う、うわぁぁぁぁ」

「きゃ、きゃぁぁぁぁぁ」

「な、なんだと!?」


 下では黒ローブたちが阿鼻叫喚を挙げている。それもそうだ。全員の黒ローブが盛大にめくれ上がり、足どころは腹まで露わになっている。当然上半身はめくれたローブが邪魔をして、どこも見えないし手も使えない。

「くっ!!」

 目の前に浮かぶエメルドまで、ローブがめくれ上がっている。くそっ!! 見たくもない物を見せられた!!


「さらに! ジャッジメント!!」

 俺は自由落下しながら二つ目の究極魔法を行使する。


 光属性魔法(出典:魔法辞典)

 究極:ジャッジメント 上空に浮遊する光球から、光線が降り注ぎ地を焼く


 俺のすぐ横に光球が出現し、雨のように降り注ぐ光線が大地を抉り……、はしない。俺が使えば"でら派手な範囲回復"だ。


「お、おぉ、体が動くがっ!」

「傷が!」

 ジャッジメントの光線を受け、あっという間に傷の癒えた冒険者たちが立ち上がる。


「ふんごっ!!」

 ついでに地面とキスした俺にも、ジャッジメントの恩恵が降り注ぐ。地面と衝突した鼻が即回復していく。

「み、みな、奴らを取り押さえて……」

 未だ、ローブがめくれあがって動けない黒ローブたちを、復活した冒険者が次々と取り押さえ捕縛していく。めくれたローブをそのまま上で縛られては、どうしようもあるまい!

「味噌! こんな方法あんなら最初からやっとったらええがん!!」

 そう言いつつ、ルゥ氏が俺に駆け寄ってくる。

「嫌だよ!! だって……」

 俺は捲れた状態で捕縛された黒ローブたちを見る。


 女

 男

 男

 男

 女……


「めくれた男なんて、精神的ダメージが大きすぎる!!」

 エメルドのアレな姿を間近で見せられ、俺のライフは既にゼロだ。それなのに、ルゥ氏からは「あ、そう」という冷たい答えが返ってきた。ぬぅ、解せぬ。



「ま、まぁそいつらも、もぉええわ……、全員ここで消えてまえ」

「あ、まだ居た」

 すっかり黒ローブの捕縛劇で一息ついていた冒険者たちが再び身構える。中空のエメルドは、めくれるローブ地獄から自力で脱していたらしい。

「シェイド!!」

 エメルドの姿がブレ、黒い分身体が次々と生み出される。その数20体。

「うわぁ……」

 対して嬉しくもない、たくさんのオッサンが空中に浮かぶという絵面に、俺は自然とうんざり気味な声が漏れた。

「な……」

 空に浮かぶオッサンたちを見上げた冒険者たちは、絶句している。そして、20体+本体の21体が揃って右手を翳す……。


「みんな下がれ……」

 俺は静かに告げた。

「み、味噌……」

「俺に任せてくれ」

 俺は一人、エメルド本体に近づくように歩み出る。


「おみゃぁから死にたいなら、やったるわ!!」

 21の右手は、そのすべてが俺に向く。

「バーナー!!」

 瞬間的に発生した21本の熱線は俺に殺到し、盛大な爆発に飲み込まれた。

「味噌!!」

 シルファ嬢の悲痛な叫びがこだまする。

「はっはっはっ! 骨も残れぇせんわ!!」

「それは、どうかな?」

 爆炎を突き破り、浮かぶエメルドの真横に躍り出た。俺は黒いシルファ嬢を背負った状態で、"理力のバールのようなもの"を振りかぶる。

「な、なにぃぃぃぃぃ!!」

「なぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 エメルドとシルファ嬢の叫びが同時に響き渡る。

「くっ!!」

 エメルドは飛び退き、代わりに分身体が俺に向かってくる。俺は"理力のバールのようなもの"を振り抜く。


 バシュゥゥン!! バフッ!!


 一撃で分身体が爆散する。


「お、落としてまえ!!」

 空中に居る俺に向け、分身体は次々とバーナーを放つ。が、黒いシルファ嬢こと、シェイドを背負っている効果で魔法が無効化される。

「へ、変態!!」

 下からシルファ嬢の叫びが聞こえる。違うんや、これは仕方がないんや。敵は"大魔導士"。なら"魔法無効"は非常に有効な手段だ。だから黒いシルファ嬢を背負うのも戦略上の致し方ない選択であり、背中の感触を決して楽しんでいるわけではない。わけではないのだ……、うん、この慎ましやかでありながらも、それでいて適度な柔らかさで自己主張するあたりが最高だ、なんて思ってなんてないのだ。


 バシュゥゥン!! バフッ!!


 振り落とされてはいけないので、背中の彼女にはしっかりとしがみついてもらいつつ、近くの分身体をかき消す。

 エメルドと分身体は更に上へと逃げていく。


「俺は空までは追えない……、そう思っているな?」

 "理力のバールのようなもの"の光を下に向け、MPを一気に流し込む。光は一気に膨張し、破裂するように吹き出すと俺の体を推し進めていく。

「なっ、なんだとぉ!?」

 エメルドの絶叫を聞き流しつつ、俺は空中で次々と分身体を屠っていく。

「ふははははははははは!!!」

 やっべ、楽しくなってきた!!


「く、お、落ちてまえ! 堕ちろぉぉぉぉ!!」

 エメルドが俺に向かって次々と魔法を放つ。が、それらは全てシルファ嬢のおかげ「ソレ! 私であれせんわ!!」で無効化される。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 エメルド本体に肉薄した俺は、"理力のバールのようなもの"を振り抜き──


 バシュゥゥン!! バァァンッ!!


「ぁぁぁぁ……あ?」

 "理力のバールのようなもの"の輝きが、壁にでも当たったかのようにエメルドの目前で霧散した。

「は、はは、ははははは!! そ、そうきゃぁ! それも魔法の一種か! ほんなら私の障壁を越えられせんがね! おみゃぁさんを殺せんのはガッカリしとるが、おみゃぁさんもわしをやれぇせん! わしは負けとらん!!」

 涙目で鼻水を垂らしながら、エメルドが大声でまくしたてる。 

「ああ、そのようだ。だが、回復魔法ならどうだ?」

「へ?」

 俺はエメルドに向けて左手を翳す。

「フルリカバー」


 光属性魔法(出典:魔法辞典)

 上級:フルリカバー 対象の傷と体力を完全回復し、すべての状態異常も回復する。


「ほ、ぼぎゃっ!!」

 エメルドは口から奇妙な音を出し、ビクンビクンと痙攣しつつ、泡を吹きながら落下していった。

 完全回復と全ての状態異常回復。俺が使えば全て効果が反転する。その内容は……、まぁ、お察しください。

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