12.オリハルコンゴーレムとバールのようなもの
『|大変申し訳ありません、主の命で、ここで足止めさせていただきます《ゴアゴアゴォォォォォォォン》』
オリハルコンゴーレムが、寺院にある釣鐘のように響く声で吠える。
「え、れ、礼儀正しい!! って標準語!!」
どういうことだ! 翻訳スキルのバグだと思ってたのに、オリハルコンゴーレムだけ謎言語じゃない!? ここに来て、実は翻訳スキルは正常だった疑惑が……。
「味噌! 前!!」
「うぉっ!!」
俺はシルファ嬢の声を信じバックステップ。瞬間、直前まで俺がいた場所にオリハルコンの塊が叩きつけられる。
『
大振りで、まさに"必殺"の威力を纏った巨大な拳が、俺目掛けて何度も振り下ろされる。
「ま、ちょっ!」
俺はそれらを全て紙一重のタイミングで回避する。マジヤバイ、あれ食らったらゴッド服あっても即死だ!
「ラピッド!」
シルファ嬢の補助魔法、光中級で動きを早くする"ラピッド"が俺目掛けて飛んできて……、そして目の前で打ち消されるされる。
「補助魔法までレジストすんじゃねぇぇぇぇ!!」
あらゆる状態変化を打ち消すらしいです。さすが神の服。
俺は"収納"を起動し、空間に黒い穴をあける。
「な、なんかないかなんかないか」
収納の中身を次々放り出してはオリハルコンゴーレムに向けて投げつける。神の像がその拳で砕かれ、吸魔石はカツンと当たって転がり、赤い回復薬が頭で割れ、塩パンが肩にへばりついた。
そして、収納からゴッド剣が飛び出し
ぽよーん
「いけ! ゴッド剣!!」
カンッ!!
俺の手から弾かれて飛んだゴッド剣は、オリハルコンゴーレムの首に当たり、そして傷一つ付けることなく弾き返された。
「くっ! 来い!!」
俺の手に向かって高速で戻ってくるゴッド剣。
ぽよーん カンッ ヒュ
ぽよーん コンッ ヒュ
ぱよーん カンッ ヒュ
ぽよーん カツンッ ヒュ
ぽいーん カンッ
「だ、だめだ……」
さすがのゴッド剣も、ただ弾かれて飛んでいくだけではオリハルコンには刺さらないらしい。
『
オリハルコンゴーレムの巨体が見下ろすように立ち、巨大な腕を振り上げる。やべ、死──
横合いからの熱線がゴーレム側頭部に命中し、弾かれて天井を焼く。
「し、シルファ嬢」
オリハルコンゴーレムが僅かに横を見る。
『
シルファ嬢が稼いでくれた一瞬で、俺はオリハルコンゴーレムの股下へと飛び込み、ギリギリでヤツの振り下ろしを回避する。
「ぐあっ!」
背後から襲う石礫により吹き飛ばされ、床をゴロゴロと転がる。あいつが放つ打ち下ろしの余波だけでダメージを受けそうだ。
「くそっ、こうなったらダメ元だ」
俺は起き上がりながら腰にある"バールのようなもの"を抜く。アイアンゴーレムにも聞かなかった"必殺"が、奴に効くとは思えないが、どこかに"弱い所"くらい有れだろう、っていうか有れ! 有ってくれ! 有るまで叩く!!
ふと、俺は地面につけた左手に異物感を感じ左手を見る。そこには"吸魔石"が落ちていた。さっき投げた──
唐突に"バールのようなもの"と"吸魔石"が光を放つ。
「せ、製作!?」
光の中、二つの素材は一つに合成され、俺の手の中には一つのアイテムとして生まれ変わった。
「こ、これは……」
手の中にあるのは短い持ち手のみ。だが、次の瞬間、その持ち手から閃光が迸り、光の刃……ではなく、光で構築された"バールのようなもの"が姿を現した。取っ手部分からは、俺のMPをどんどん吸収していっている。俺は焦って闇中級魔法のジャンプを使用してMPを補う。
「きたっ! 俺の新装備!! その名も"理力のバールのようなもの"!!」
"理力のバールのようなもの"はその光をひと際強める。
『
「はっ!! セリフまでヤラレキャラっぽくなったぜ!!」
オリハルコンゴーレムは俺に向けてその巨腕を振り下ろす。俺は"理力のバールのようなもの"を振るい迎え撃つ。
バシュゥゥン!!
一瞬の交錯。直後の沈黙。
ゴォォォォォォォンッ!!
遅れて響くのは、斬り飛ばした腕が落下した音だ。
『
切断面から覗く空洞を見せながら、オリハルコンゴーレムは戸惑いの音を鳴らす。
「中身空洞とは、コストケチってんじゃねぇか!?」
俺は跳躍し、オリハルコンゴーレムの頭頂部目掛け、"理力のバールのようなもの"を振り下ろした。
バシュゥゥン!! カッ!!
『
俺の背後で、両断されたオリハルコンゴーレムは静かに崩壊していった。
いい、これすごくいい! ピンチに新装備でパワーアップとか、俺史上最高の盛り上がりじゃね? 正しくクライマックス!!
「す、すごいがん……」
シルファ嬢がぺったりと地面に座り込んだまま、小さく呟いた。いいよ、シルファ嬢。もっと盛り上げましょう。いっそそのまま抱き着いてきてもいいよ!!
「あ、味噌串カツ!」
一瞬の放心から即復活した彼女が叫ぶ。
「あ、そうか」
達成感に浸っていた俺は、シルファ嬢の言葉で強制的に引き戻され、ついでにMP馬鹿食いしてる"理力のバールのようなもの"の光を止め、そして形が変わって腰にさせなくなった"理力のバールのようなもの"に少々困惑し、一瞬逡巡した後、シルファ嬢が既に走り出したために、俺はそのまま手に持って彼女の後を追った。
「味噌カツ!!」
一本道の通路を進んだ先。石造りの広間のにある祭壇の上に、黒ローブの後ろ姿があった。というかシルファ嬢、もう串カツでもなくなったんですが……。そろそろただのカツになりそうだな。
「ふはっはっはっはっはっ!! おっそいがね! もう宝珠は手に入れてまったわ!!」
「なっ!!」
祭壇の上で右手を掲げたマギ・アソシア総帥エメルド、その手には数珠繋ぎになった6つの宝珠が握られていた。宝珠は強い光を放ち、薄暗いダンジョン内を明るく照らし出す。
「これでもーはい、ここに用はにゃぁ! おみゃぁさんらはこん中で遊んどりゃぁせっ!」
そう言うとエメルドは、祭壇の反対側へと飛び降りた。
「待ちゃぁ!!」
祭壇から奥の壁には扉があり、その上には光る看板があり、緑の人が白い出口から出ようとしているあの絵が……。
「くっ、非常口から逃げられてまう!!」
「ダンジョンに非常口あるの!?」
俺の驚きに「え、何言ってるの?」という表情でシルファ嬢が見返す。なにこれ、俺が知らないだけで常識なの!? リレ○トの存在意義を丸ごと奪っちゃうよ?
「向こう側から塞がれてまった!!」
シルファ嬢は忌々し気に非常口の扉をたたく。
「非常口を封鎖するとは何て非常識な……。もしここで火事があったら俺たち逃げ遅れちゃうじゃないかぁ~」
俺は自分で言いつつ、「ダンジョンで火事警戒するとか、もっと他に警戒するものあるだろうが!」とセルフツッコミを行う。
非常口のダメージからなかなか戻ってこられなかった俺は、シルファ嬢に引きずられるように元来た道を戻り、別の非常口からダンジョンを出た。
えぇ~、これまでも非常口あったの……!? ぜ、全然気が付かなかったんだけど……。
「み、味噌、か……。」
「る、ルゥ氏!?」
闇ダンジョン入口にもたれかかるようにルゥ氏が倒れている。いや、冒険者たちは全員傷を負い、一人として立っている者はいなかった。
シルファ嬢と共に闇ダンジョン入口、すり鉢状の地下空間へと戻ってきた俺たちは、息も絶え絶えで打ち負かされている冒険者たちと、それを見下ろす黒ローブたちに迎えられた。
「思っとったよりは、早く出てきゃぁたな」
中空から声が降ってくる。地下空間で合ったはずのすり鉢状広場だが、一部天井が崩落し、そこから光が差し込んでいた。マギ・アソシア総帥エメルドは、後光を背負うかのようにその光の中に浮かび、俺たちを睥睨していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます