11.闇ダンジョンとゴーレム祭り
その昔、大魔導士ラビリルはここを終生の地と定め、自身が持つ魔導の力を属性ごとに6つに分け、それぞれを守るダンジョンを作った。火のダンジョン、水のダンジョン、土のダンジョン、風のダンジョン、そして、光のダンジョンと闇のダンジョン。
火水土風の4つは今でも残っているが、光と闇のダンジョンは失われてしまった、そう思われていた。だが、マギ・アソシアの総帥"エメルド・ケーウン"が、大魔導士ラビリルの手記を発見し、そこから光と闇のダンジョンの在処が判明した。
なんと、この迷宮都市ラビリル自体が光のダンジョンであり、元々は都市全体が空に浮かんでいたらしい。そして、闇のダンジョンはその真下にあり、現在は光のダンジョン、もとい、迷宮都市ラビリルの下に埋まっているのだそうだ。
すべての"魔導の力"である宝珠を集め、そして"大魔導の力"を手に入れ、魔導で世界を導いていく。それがマギ・アソシア総帥エメルドの目的であり、それに賛同した者と共に、秘密結社マギ・アソシアを結成したのだとか。
「分かりやすく言えば、魔導で世界征服ってことだな!」
冒険者ギルドの受付前。黒ローブ女がゲロした情報をギルド長が全員に説明したところ、ギルド内は騒然となった。俺が明るく冗談っぽく言ってみたが、誰も反応してくれない……。
「エメルドは、6つの内、5つの宝珠を手に入れてまっとる(手に入れてしまっている)。闇ダンジョンの入り口ももーはい見つかっとって(もう既に見つかっていて)、エメルドはそこに向かっとるらしい」
さらに騒めきが強まる。「俺は関係あれせん」だの「スタンピード起こすような奴に勝てせん」だの、随分と後ろ向きな意見が多いようだ。スタンピードに立ち向かったときはかっこよかったのに……。
チリッ
「へ?」
俺の足元に突然火が付いた。そのまま吹き上がる火柱!
「んごぉ!?」
も、燃える! あ、ゴッド服が防いでくれてる。ってか、これフレイムピラーですよね、誰だ俺に撃ったやつ!! あ、ヤバイ、ギルドの建物燃えそう。
「冒険者が揃いも揃って何言っとるの!」
カウンターの上に立ち、炎に照らされたシルファ嬢が吠える。こんなに声張ってるとこ初めて見た……。
「新しいダンジョンを味噌串カツに先越されてまうよ! 冒険者がそんなんでかんでしょ!!(冒険者がそんなことではだめでしょ!!)」
「あ、新しいダンジョン……」
「そ、そうだな!」
「俺たちがダンジョン制覇だがん!」
「先越させんわ!」
俺を除いて盛り上がる冒険者たち。いやぁ、熱いね、俺は別の意味で熱いけど。あのー、そろそろ消してもらえないっすかね、だんだんと熱がゴッド服を貫通してきたんですが……。あと、ギルドの建物に延焼しそうですし……。
堕ちた黒ローブ女からの情報で、闇ダンジョンの入り口は判明。なんと、地下に張り巡らされた下水道通路に存在するらしい。この街下水道完備だったのね、知らなかった。ファンタジー風世界なんで、下水道とか無いと思ってた。
ギルド長含めた冒険者集団がゾロゾロと下水道を進む。大量に浮かぶ"トーチ"魔法の明るさで、地下通路とは思えない明るさだ。
「あれだ」
ギルド長の示す先、飾り気の無かったこれまでの下水道通路とは異なる。装飾が施された石階段があった。
人間5人でも横に並んで歩けるほどに広い階段が、下へと続いている。
「場所としては、"ブライトネス"の真下あたりかね……」
誰かの呟きが聞こえる。古城ブライトネス。この迷宮都市ラビリルの中央にそびえ立つ無人の古城。迷宮都市自体が元々"光のダンジョン"だったという話だし、ブライトネスもその名残なのかもしれないな。
4,5人ずつ並んで、階段を下りていくと、開けた地下空間にたどり着いた。すり鉢状の広間で、その最下部中央には他のダンジョンに似た入口のようなものがある。
「あれが闇ダンジョンの入り口……」
「でも通してくれる気はあらせんみたいだわ……」
すり鉢状の広間には、黒ローブが30人ほど、こちらを向いて無言で立っている。
──くっ、せめて男が居なければよかったのに!
黒ローブたちが一斉に動き、地面から次々とゴーレムたちが出現する。ストーンゴーレムやアイアンゴーレム、その数約50体。
「味噌! ここは俺らに任せて先に行きゃぁ!(先に行け)」
ルゥ氏はそう言うと、大剣を抜きアイアンゴーレムへと飛び掛かっていく。
「だな! おみゃぁなら何とかしそうだが!!」
ギルド長も飛び出し、ストーンゴーレムを殴り砕く。え、素手で粉砕!? 怖っ!!
俺とシルファ嬢を除き、次々とマギ・アソシアたちに挑んでいく冒険者たち。
「ふっ、信じとるぜ!」
俺にサムズアップしながら、モヒカンヘアの男もゴーレムに向かって駆けていく。え? 初日に絡んできたモヒカンか!? なんか戦友みたいな雰囲気になってるけど、俺たちゴッド剣投げつける仲だからね!? あ、ストーンゴーレムに吹っ飛ばされた。
「味噌、行こう!」
「あ、ああ」
唐突な少年漫画ノリに気分は"置いてきぼり状態"だが、乱闘の中を駆け抜けるシルファ嬢の尻を追い、俺も駆け抜けた。うん、あれは良いモノだ。
「邪魔だぁ!!」
俺は"バールのようなもの"を振り回す。
バシュゥゥン!!
闇ダンジョンの中、俺は立ちはだかったモンスターを次々と爆散させていく。
ロールプレイングゲームとかだと、切羽詰まった状況で初のダンジョンに突入しても、「早くいかなくていいの?」と言いたくなるくらいに中をのんびり探索してたりするが、俺は空気を読んで最速で攻略中だ。道の迷うのはご愛敬。
今日、闇ダンジョンが無くなるわけでもないだろうし、まずはエメルドとやらを止めないと。
「と、こんなことを考えることが"フラグ"か……」
「またよくわっかぁせん(わからない)こと言っとる」
「まぁ追いついて来やぁたか(もう追いついて来たか)」
ダンジョン内の小部屋で、先行していた黒ローブに追いついた。どうやら奴がマギ・アソシア総帥"エメルド・ケーウン"らしい。
ここには部屋を守る中ボスでも居たようで、種類は分からないが、大型っぽいモンスターが燐光となって消えていくところだった。
「おかげ様で、ボスとは戦ってないもんでね」
本来なら途中途中にボス部屋があるんだろうけど、先行するエメルドが倒してくれてるので俺たちは未だに中ボスとは戦闘していない。
エメルドはこちらを振り返る。フードで顔は見えない。が……、
「あ……」
「お、おみゃぁさんは……」
なんとなく立ち居振る舞いでわかった。あいつ俺が転ばせたりキュアリキドぶっかけたりした奴だ……。どうやらあっちも気づいたらしい。そりゃまぁ、俺は顔隠してないしね……。
なんとも気まずい空気が流れる。エメルドはワナワナと手を震わせている。やべ、やっぱ怒ってるわー。
「お、おみゃぁさんらには、中ボスをプレゼントしたるがね!」
苛立たし気な様子でエメルドは数珠繋ぎになった5つの宝珠を取り出し、右手で翳す。それらは一斉に光を放つ。
「じ、地震!?」
闇ダンジョンが揺れ、床を打ち砕いて1体のゴーレムが姿を現した。
「オリハルコンゴーレム行きゃぁ! 奴らをぶっ殺してまえ!!」
エメルドはゴーレムに怒鳴りつけて命令し、先の通路へと走り去っていった。なんだろう、ボスのはずなのに小物感がすごい。
『|大変申し訳ありません、主の命で、ここで足止めさせていただきます《ゴアゴアゴォォォォォォォン》』
オリハルコンゴーレムが、寺院にある釣鐘のように響く声で吠える。
「え、れ、礼儀正しい!! って標準語!!」
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