10.尋問と水魔法
「何も言うことはあれせん」
黒ローブ(マギ・アソシア)二人に見捨てられ? 置いて行かれた一人を俺たちは連行し、現在は冒険者ギルドにて尋問中だ。
襲われた時は気にしていなかったが、捨てて行かれたこの人、女の人でした。現在は黒ローブはそのまま、フードは剥がされて顔が晒されております。艶のある黒髪黒目の美人さんでした。ちょっと雰囲気がキツい感じに見えるのは……、絶賛尋問中だからですね、はい。
後ろ手で椅子に縛り付けられ、なんともボディラインは窮屈そうに自己主張してますよ……。なんだか背徳的なナニカを掻き立てますな、これは……。
「……」
おっと! シルファ嬢にえらく険しい視線を向けられた! ま、まさか俺の考えが読めるとか、そんなことは無いよな!?
大丈夫、きっとシルファ嬢はまだ成長期なんだ! まだまだ期待は捨てたらいけないっ!
「ふごっ!」
シルファ嬢の空手チョップが俺の顔面に叩きつけられる。
「めっちゃ失礼なこと考えとるでしょ……?」
「い、いえ、滅相も……」
マギ・アソシアは、これまでも強盗まがいな方法で冒険者を襲うこともあったらしく、冒険者ギルドとしても今回構成員を捕縛できたことはチャンスと考えているらしい。しかし、強面のオッサンが脅しつけるように尋問しているが、今のところ有益な情報は得られていないようだ。ちなみに、この強面のオッサンは冒険者ギルド ラビリル支店のギルド長だそうだ。知らなかった。
「はぁ、えっらっ! だめだわ、全く喋らせん!(はぁ、疲れた! だめだ、全く喋らん!)」
黒ローブ女の尋問室から、疲労感を露わにしたギルド長が出てきた。
「"マッドメット"あれせんからなぁ、あれがあれば……」
「まっどめっと?」
なにやら聞きなれない名詞だ。
「"
俺の独り言に気づいたシルファ嬢が、"マッドメット"の説明をしてくれた。魔法アイテム的なものかね?
「ギルド長、アンタが壊してまったんでしょうが……。"
はいはいはいはいはい? 何言ってるんすか? よく分からん。
「普通はあまり使わせんからなぁ~」
ルゥ氏が唸りながら言う。どうやら彼女は聞き取れたらしい。謎言語にもだいぶ慣れてきたけど、今のは良く分からんかった……。
「はぁ、まーいっぺんやってみるか……(もう一回やってみるか)」
ギルド長はうんざりな様子で再び尋問室へと足を向ける。
「ふふふ、ここは俺の出番かな……」
「え、味噌?」
ギルド長からは「やれるんならやってみやぁ」というお言葉で、尋問を行う許可をいただいた。早速ギルド長にお願いして、黒ローブ女を椅子のまま、やや広い冒険者ギルドの鍛錬場へ運んでもらった。「早速俺を使うんか?」と小言をいただいたが……。
「味噌、尋問なんてできるん?」
「バールで叩いたらかんよ?」
一応シルファ嬢とルゥ氏も付いてきている。"バールのようなもの"で叩いたりしないっての。爆散しちゃうでしょうが!
黒ローブ女は、相変わらずアレが目立つような状態で椅子に縛り付けられたまま、鍛錬場のど真ん中に鎮座されている。俺は10m程の距離をとり、黒ローブ女と相対する。
「さぁ、素直に情報を吐くなら今の内だ」
俺の最後通告にも、黒ローブ女は「ふん」と一言声を出すだけで、目線すらこちらに向けてこない。ならば覚悟してもらおう。お楽しみの時間だ。
俺は女に向けて右手を翳す。
「水上級魔法 ジェット!!」
「なっ!」
シルファ嬢が驚愕の表情とともに、悲鳴のような声を挙げる。
水属性魔法(出典:魔法辞典)
上級:ジェット 超高水圧のカッターで対象を切断する
そう、まさにウォーターカッター。この魔法は岩石どころか鋼鉄すらも切断する……、らしい。俺以外が使えばな。
高速で発射された水の刃は、黒ローブ女に命中し、
「ひぐぅっ!」
女が身をよじる。放出され続けるジェットから少しでも逃れようとガタガタと身を動かすが、縛り付けられていてはそれもかなわない。
「う、うぐっ、ぐぅ、ひ、ひゃん!」
身もだえ、ぐっとこらえる女。ちょっと色っぽい声が出てきたぞ? 周り様子見をしていた冒険者たちも目の色を変えて見つめる。
「ぶっ、うぐっ、ひ、あぁん!」
ジェットの水流が止まり、女はぐったりとうなだれる。
そう、毎度のことだが、俺の水上級魔法ジェットは殺傷能力ゼロだ。鉄どころか紙すら切断できない。だが、ものすごくくすぐったいのだ。もう、堪えようもないほどに。あまりに何も切断できないため、戯れにシルファ嬢に向けて撃ってみたとき、それはそれは眼福なひとときを過ごしました。まぁ、その後フルボッコでしたが……。
ぜぇぜぇと息を切らせた黒ローブ女は、僅かに顔を上げる。水を存分に吸った女のローブは、ぺったりと体に張り付き更にボディラインを浮き上がらせている。頬に張り付く髪が更に色気を醸し出す。やべぇ、楽しくなってきた!!
「味噌……」
「ご、誤解しないように! これは尋問だ!」
シルファ嬢とルゥ氏がものすごい冷たい視線を向けてきている。大義名分があるもんね。止められまい!!
「さぁ! どうする! 情報を吐くなら止めてやってもいい。この後はさらなる地獄が待っているぞ?」
周囲の冒険者からは「はよはよ!」と言いたげな熱い視線を感じる。シルファ嬢とルゥ氏からは絶対零度の視線。ふふふ、今のこの空気においては、彼女らの視線などどれほどのものか! 皆の期待には応えねばな!!
ハイテンションな俺に、黒ローブ女は恨みがましい視線を向けてくる。そうこなくては!
「後悔するなよ?」
大公開はするけどな!!
「いくぞ!! 水超級魔法 フラッド!!」
俺の声に呼応し、突如どこからともなく出現した大量の水が、鍛錬場を埋め尽くす。
「ぎゃぁぁぁぁぁ……あ?」
「うわぁぁぁぁ……へ?」
水没した冒険者面々から上がる悲鳴。だがそれらもすぐに戸惑いの声に変わる。
水属性魔法(出典:魔法辞典)
超級:フラッド 大量の水を生み出し、大津波のように範囲を押し流す
上級を超える超級。その魔法は大津波を発生させるものだ。ここは密閉された鍛錬場であるため、水が室内を埋め尽くし、全員が頭まで水没するほどの水位になった。なったのだが、俺のフラッドはやはり一味違う。どういうわけか、呼吸が出来る。溺れない。押し流されもしない。相変わらずの謎現象である。
冒険者たちからは、「これのどこが尋問だ?」という視線を感じる。まあ待ちたまえ、これはあくまでも"準備"だ。本番はここからだ。
「さぁ、恐怖しろ。水魔法の極みを味わうがいい。水究極魔法 ジェイル」
俺が発した声に応じ、フラッドの水は一斉に黒ローブ女周辺へと集約凝縮され、女と閉じ込めるための球体を形成する。
水属性魔法(出典:魔法辞典)
究極:ジェイル フラッド後のみ使用可(大量の水があればフラッドでなくてもOK) 水の檻に拘束し、内部をジェットで切り刻む
「全周囲、360度からのジェット乱れ撃ち、もはや一息つく間すら与えない。存分に味わえ」
直後、水の球体は内部にいる哀れな子羊にむけ、情け容赦のないジェットの暴風雨を叩きつけた。
「う、う、ぐ、あ、あん、あぁぁぁぁ」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」
うん、冒険者たちから歓声が上がった。おい、ギルド長まで混じってんじゃねぇか。
「だ、も、たす、やめ、あぁん、ぃゃぁ、だ、めぇ、んっ」
ここで予想外の展開が発生した。俺のジェットは殺傷力ゼロ。そのはずだった。だが、どうやらジェイルから撃ち出されるジェットは威力が増していた。
「ば、ばかなっ!!」
既に手遅れか、水球内に漂う欠片、次々と打ち出されるジェットにより今もなお削り取られていく!
ジェットが衣服を削り取っていく。 体は完全に無傷だ。衣服だけを"綺麗に"はぎ取っていく。
「これは
「「「おぉぉぉぉ……」」」
冒険者たちからため息に似た、何か熱い吐息のような声が漏れる。なぜか皆さん少々前傾姿勢じゃないかい?
何がすごいって、一番主要なところは削れない。あくまでも腕やら足やらお腹やら。なぜか狙ったように一番大事なところだけは削れないのだ。その部位が一番前に突出しているはずなのに!! 素晴らしい焦らしプレイ!!
「ぁ、あぁっ、ぁっ、ぁ、あぁぁっ、あぁぁぁぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
「「「お、おぉぉ~、おぉぉぉ、惜しい!! おぉぉぉぉ!!」」」
「いいかげんにしやぁ!!」
「ぶごっ!!」
ルゥ氏に後頭部強打され、スト○ップショー、じゃなくて尋問は中断となった。
その後、黒ローブ女(今は半裸)は、「なんでも話す」と言って、ぺらぺらと情報を吐いてくれたようだ。ふっ、自分の才能が怖い。
最後に小声で「だもんでまっぺん……(だからもう一回……)」とか聞こえたような気がしたが、たぶん気のせいだろう。
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※余談:えらい
某言語において、「疲れた」の意味で「えらい」という言葉が使用されます。
本文中においてギルド長が、「はぁ、えっらっ」と言ってますが、
はぁ、疲れた → はぁ、えらい → はぁ、えっらい → はぁ、えっらっ
と、だんだん音が短縮された結果、「えっらっ」になっております。
なぜ「え」と「ら」の間に「っ」が入るのかって? そういう言語なのです。
※余談2
「"
↓日本語訳
「"
某所で見かけた「地方早口言葉」を少しアレンジさせていただいてしまいました。この場を借りてお礼申し上げます。
"
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