2.バグスキルと謎方言

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 名前:神の像

 説明:

 明日休めるなら、今日死んでもいい……。

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「……」

 見るんじゃなかった。なぜ俺は「神の像(デスクワーク中)」を"鑑定"してしまったのか……。俺は神の像をそっと収納に仕舞った。


 ひたすらスキルの確認に時間を費やしてしまったが、なにはともあれ、異世界で「健康で文化的な最低限度の生活」を送るためには、適切な"衣食住"を確保することが重要だろう。ゴッド服があるので"衣"はいいとしても、"食"と"住"を何とかせねばならない。"マズイ草団子"でひたすら食つなぐという事態は避けたい……。

「やはり人の居る場所を探すべきだな」

 そう思って見渡してみるも、周囲に見えるのは草原と疎らな木のみ。ただっぴろい草原を当てもなく彷徨うなど、俺の体力が持つ気がしない。

「これしかないかなぁ……」


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 名前:転移

 説明:

 視認した位置への瞬間転移と、行ったことのある場所への長距離転移を使用可能。

 瞬間転移は瞬間的に即実行可能だが、長距離転移には目的地をしっかり思い描き、そこへ飛ぶというタメが発生する。

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 ここに来て再びスキルに頼ることになるのだが……。これまでの状況から嫌な予感しかしない。


「長距離転移は"行ったことがある"という条件があるから、今は使えないな。瞬間転移で距離を稼いでみるか……」

 俺はとりあえず遠くに見える背の高い木を目標として、"転移"を意識する。


「……」

 じっと木を見る。


「……」

 まだまだ木を見つめる。


「……」

 や、やりかた間違ってるのかな──

 直後、目の前に巨大な木が現れた……、いや違う、俺が木の間近まで転移してきたんだ。


「遅い! 遅いよ!! "瞬間"さ加減が少しも見えないよ!!」

 20秒近くも見つめ続けたぞ!? ってかドライアイなるわ!!

 俺は嫌な想像が思い浮かび、長距離転移を使用してみることにした。一応"行ったことのある場所"なので、瞬間転移で移動する前に居た草原のど真ん中に向けて転移してみよう。


「目的地を思い浮かべるんだよね、さっきの草原の──」

 ──目的地が不明です転移に失敗しました


「はやっ!! まだこれから思い浮かべようとしたよね!? 反応速すぎない!?」

 あー、つまりアレだ。"瞬間転移"には発動までの「タメ」があって、長距離転移は即時発動なわけだ。だからドライアイになるほど見つめないと"瞬間転移"できなかったのね……、

「タメ逆だろ! 瞬間転移と長距離転移でタメ設定が逆転してんじゃねぇか!!」

 これ、"長距離転移"は完全に使えないな、目的地を思い浮かべる時間が無い。"瞬間転移"は辛うじて使えないこともないが、俺の目がどこまで耐えられるか……。


「仕方ない、とりあえず歩くか……」

 どちらに向かおうか。先ほど"転移"で少々移動したためか、周囲には木が増えている。森とまではいかないが、ちょっとした林程度には木々が生えている。歩くにあたって、やはり木が少ない方が良いだろうか。俺は木の少なくなる方向へと歩き始めた。


 がさっ


 草木が風に揺れた、とは違う。何かの物音がする。もしや、これは初戦闘イベントでは!? だとしたらマズイ! 今はまともな戦闘能力がないぞ!? そもそも武器が持てない!!

 周囲から更に聞こえる物音が、更に俺の焦りを掻き立てる。


「くっ」

 悔しいが、やはりここはスキルに頼るしかないか……。


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 名前:探知

 説明:

 自身を中心とした一定範囲の中で、特定の条件に該当する対象を探知することができる。いわゆるレーダー。

 探知対象は黄色の点(ポイント)として表示される。

 各種条件の指定により探知対象を絞り込むことが出来る。

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 "いわゆるレーダー"って、身もふたもないことが書かれているけども、この際使えれば何でもいい。俺は"探知"と念じる。直後、頭の片隅に円形のレーダー画面らしきものが浮かぶ。円形の画面は黄色一色だ。


「ん? 何も居ないのか?」

 いや、説明を思い出せ。「探知対象は黄色の点(ポイント)として表示される」と書かれていた。そして今表示されている画面は一面黄色……。

「もしかして、探知対象で埋め尽くされてるんじゃね?」

 そうだよね、草木や微生物まで含めたらこんな林の中で生物なんて数限りなく存在してるよね……。


「た、耐えろ……、OKOK、まだだ、まだ希望はある」

 条件を絞り込めばいいのだ。と、とりあえず"敵"を表示……。画面は一転して一面が灰色に変わる。

「"敵"という条件ではだめか……、なら"モンスター"とか……」

 相変わらず画面は灰色だ。


「"クリーチャー"」

 灰色。

「"敵性存在"」

 灰色。

「"スライム"」

 灰色。

「"おおカラス"」

 灰色。

「"草"」

 灰色。

「"木"」

 灰色。

「"雑草"」

 灰色。


「わからん!! 絞り込めん!! え、条件の言葉が悪いの!? それとも絞り込みが死んでるの!? これじゃ黄色か灰色表示するだけの画面じゃねぇか!!」

 俺は今日何度目か分からないが、地面にうなだれた。予想はしてた、予想はしていたが、目の当たりにするとショックがでかい。


「もうやめて、とっくに俺のライフはゼロよ……」

 もうしばらくこのまま落ち込みたい気分だが、ここが安全とは思えない。俺は自分に鞭を入れ立ち上がり──


 ピキッ


 唐突に右背後から攻撃されるビジョンが浮かぶ。これはまさか"警戒"スキル──

「ごうふぅっ!!」

 右後ろから衝撃を受け、俺はのけ反りながら空を飛ぶ。


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 名前:警戒

 説明:

 自身に対する悪意や敵意を察知する。攻撃が行われる場合には、その攻撃軌跡を予想することもできる。

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 なぜか俺は"警戒"スキルを"鑑定"したらしい。キリモミしつつ宙を舞う俺の視界には、鑑定結果が流れていく。

「へぶっ!」

 俺は上下逆さまの状態で木に激突し、そのままずり落ちて頭から地面に着地した。俺が先ほどまで立っていた場所には、イノシシのような生き物が居た。鼻息荒く、こちらを凝視している。


「け、警戒は、ちゃんと、仕事、してた……」

 問題は、察知できてもそれを避けられるだけの身体能力が無かったことか……。幸い、ゴッド服がかなりダメージを軽減してくれたようだ。ゴッド服すごかった、語彙力不足とか言ってすまん。


やったるがね!フガブキィィ!

 イノシシモンスターは、首を振るい、唾を飛ばしながら言い放つ。言い放つ!?

「しゃ、しゃべった!?」

 マジか、この世界のモンスター(暫定)は喋るのか!? 俺の驚愕などお構い無しにイノシシはこちらに向けて突進してくる。

「に、逃げるしかっ!!」

 そうだ、"逃走"スキルがある! これに賭けるしかねぇ! 俺は焦って体を起こし、少しでもイノシシから離れる方向へと走ろうとし──


『|そんなとろくせゃぁいごきでどこいきゃぁすか!《ブキィィフガッブキィィィイ!》(そんな鈍い動きでどこに行くつもりだ!)』

 しかし、回り込まれてしまった。うん、そうね、そうだと思った。どうせ"逃走"スキルも使えないんでしょ? わかってた。

 戦うしかないのか!? こうなったら神の像で──


「危にゃぁ!!」

 声と共に飛来する赤い光線がイノシシを貫く。

どえりゃぁぁぁぁブキィィィィ……』

 イノシシは謎の断末魔を残し、焼け焦げながら倒れた。


「お、おぉぉ……」

 す、すごい! 俺が苦戦(?)したイノシシを一撃で!


 木陰から現れたのは、女の子だった。濃いブラウンの猫耳フード付き外套を纏い、その中からはベージュ色で膝丈のローブと、革製のブーツが覗く。どうやら手に持った赤い珠の着いたロッドから光線を発したようだ。

 彼女はイノシシがこと切れたことを確認し、俺に目を向ける。少女と女性の中間、ちょうど16か17くらいだろうか。整った顔立ちに青い目。フードから覗く髪は、日の光で輝く雪原のように銀色だ。


「こんな森ン中で、一人でなにやっとるの? 武器も持たせんで、やられてまうよ……」

「ま、まう?」

 何語だ!?



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※余談:言語理解

 あらゆる言語を操り、読み書きすることが出来る。が、そのあらゆる言語は全て胡散臭い方言に変換される。

 モンスターの言葉すら翻訳しているため、まるでモンスターが喋っているように聞こえる。

 

 「とろくせゃぁ」や「危にゃぁ」の「ゃぁ」と記載している部分の発音は、"ア"と"エ"の中間の音です。英語の発音なら"ae"に相当する音で、イメージとしては小さく"ェ"の後に"ァ"が入る感じでしょうか。「危にゃぁ」なら"アブネェァ"って感じです。

注)ちゃんと日本語です


※余談2:探知スキル

 初期状態はあらゆる生命体(植物含む)を対象としているため、画面を反応点が埋め尽くしている。

 条件指定に不具合があり、何を指定しても何も引っ掛からなくなるため、反応点が全て消える。


※余談3:警戒スキル

 例外的にこのスキルは正しく稼働する。ただし、攻撃予測ができても身体能力が高くなければ避けられない。

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