1.エラースキルとゴミスキル

 "管理者"と称する神様的な存在? とても見た目はそうは思えない様子だったが、半ば強制的に異世界に送り込まれ、そして放り出された。そしてこれまたお決まりのように、放り出された場所は木もまばらな草原だ。

「お?」

 俺は自身を見下ろし、服装が変わっていることに気が付いた。腰には剣も帯びている。もしかしてこれが最強の武器と防具か? ということは、"ギフト"というのは貰えているらしい。どうやって確認するんだ?

「もしかして"鑑定"?」

 俺の言葉に反応したのか、それとも"鑑定"しようという意思に反応したのか、いずれにせよ視界には俺自身の鑑定結果が表示された。


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 名前:三国みくに みさお

 能力:

 ・生命力(HP): 200

 ・魔法力(MP): 50

 ・膂力: 20

 ・体力: 15

 ・敏捷: 17

 ・知性: 56

 ・器用: 45

 ・魔力: 5

 ・幸運: 1

 スキル:言語理解、鑑定、亜空間収納、探知、警戒、全武器マスター、全属性魔法マスター、逃走、転移、製作

 武器適正:なし

 説明:

 異世界からの転移者。要求が多すぎて面倒だった。

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「ひどい本音がだだ漏れだ!!」

 説明に"面倒"とか書くなよ!! 誰かに"鑑定"かけられたらこの説明文まで見られるのか!? こんなことなら"隠蔽"とか"改ざん"とかも要求しとくんだった。

 それはそうと、"転移"があれば"逃走"は要らないと思ったけど、両方付けてくれたらしい。案外気が利くのかも……。


「服も鑑定してみるか」


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 名前:ゴッド服

 説明:

 神が作り出した服。神族にのみ扱える特殊な布地でできている。驚くべき防御力を持ち、絶対に壊れない。

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「名前雑!!」

 名前にセンスのかけらも感じられない。やっつけ感がヒドイ……。


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 名前:ゴッド剣

 説明:

 神が作り出した剣。神族にのみ扱える特殊な金属でできている。驚くべき攻撃力を持ち、絶対に壊れない。

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「語彙力仕事しろ!」

 剣もひどかった。説明文がコピペっぽいし……。しかし、説明文を信じるなら、特別な金属でできてるらしいし、たぶん"最強"の武器と防具なのだろう。

 俺は早速剣を鞘から抜いて──


 ぼよーん


 そして手から弾けて飛んでいった。



「……え?」

 ゴッド剣は2m程先の地面に突き刺さっている。うん。デザインはシンプルだが、確かに何か力強い波動のような物を感じる。やはりこれは最強の──

「いや、そうじゃなくて!」

 セルフツッコミしつつ、俺は突き刺さったゴッド剣を拾いに行き──


 ばいーん


 横に弾けて飛び跳ねたゴッド剣は、近くの木にサクッと刺さった。切れ味が良いのは間違いない。それほど勢いがあったわけじゃないのに、軽く木に突き刺さった……。


「はっはっはっはっ、まさかねー」

 俺は木に突き立てられたゴッド剣を……、そろそろこの名前がゲシュタルト崩壊しそうだ……。とりあえず、突き立てられた剣を抜くために──


 ばしゅっ!


 剣は木の反対側へと飛び出していった。おおぅ、すごい威力だ。さすがゴッドな剣……、

「持てねぇじゃねぇか!!」

 なんだこれ! これか、これなのか! 鑑定結果に出てた"武器適正:なし"なのか!? なんだこれ、俺って剣持てないの!?

「いや、違う!」

 武器適正が無い……。それはつまり、武器は持てない!?

「"全武器マスター"のスキルがゴミかよ!!」

 俺は鞘を地面に投げつけた。くそぅ!!


「……、ゴッド剣拾えなくね?」

 鞘から抜いたが最後、ゴッド剣は石けりの石のように、あてどなく何処かへ旅立とうとしている。もういいかな、そのまま放っておこうかな……。

 とりあえず一旦投げ捨てた鞘を拾い上げる。

「この鞘で掬うように剣を収められないかな……」

 なんともマヌケな姿だが、この際仕方ない。この鞘で剣を"収め"て──

 その途端、剣はスポンと鞘に収まっていた。

「は、え……?」

 どうやらこの剣、勝手に鞘に戻ってくる機能が付いているらしい。

「……、収納」

 俺は空間に空いた黒い穴に、ゴッド剣を収納した。"亜空間収納"はちゃんと使えるようで何よりです。


「まあまあ、他にも手はあるさ」

 物理がダメなら魔法だ。ふっふっふっ、俺は全属性魔法もマスターなのだ。


「ここは、やっぱりあれかな。"ファイアーボール"!!」

 俺はかっこつけて右手を翳し、その手のひらからは……、何も出てはこない。

「違ったかな? "ファイヤーシュート"!!」

 相変わらず何も起こらない。

「"ウオーターボール"!!」

「"ファイアー"!!」

「"ファイヤー"!!」

「"サンダー"!!」

「"アブラカタブラ"!!」

「"ひらけごま"!!」


「使い方がわからーん!!」

 力尽きた(主に精神的に)俺は、地面に両手両足を付いてうなだれる。

 どういうことだよ! 全属性魔法マスターしてても使い方わからんかったら意味ないやろ!!

「そうだ、"鑑定"してみよう」

 こういう時の"鑑定"だ。"鑑定"の説明に何かの手がかりがあるかもしれない。


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 名前:全属性魔法マスター

 説明:

 火水土風光闇、あらゆる属性魔法の習熟度が最大。

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 という、淡い希望を持っていた時期が、私にもありました……。でも手がかりはあった。属性は6種類あるってことはわかったし……。


「ぐっ……、まだ大丈夫だ。とりあえず"製作"で何か作ってみよう」

 こんな草原にポツンと一人だ。そろそろ何かのイベントが発生する可能性が高い。そのまえに最低限の戦力は準備しなくては。製作スキルで使い捨てアイテムとか作れるかもしれない。


「……、え、どうやるの?」

 "製作"スキルの使い方がまるでわからん。

「……。"鑑定"してみるか……」


******************

 名前:製作

 説明:

 アイテムを作成できるスキル。レシピに沿った材料があれば、様々なアイテムを作成可能。

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「だから、そのレシピが分からんのだと!!」

 当たり散らす先が見るからず、おれは地団駄を踏んだ。まさかアニメやコミックのように地団駄踏むキャラの気持ちがわかる日が来ようとは……。


「ま、まだだ、まだあきらめるような時間じゃない……」

 そう、材料側なら何かの情報があるかもしれない。俺は最後の望みを賭けつつ、近くに生えた草を鑑定してみた。


******************

 名前:草

 説明:

 ただの草

******************


「説明雑! 雑草という草はないんだぞ、コラ!!」

 思わず某植物学者のお言葉を拝借してしまった。

 まさかと思い、俺はあちこちのいろいろな草を鑑定してみる。


******************

 名前:草

 説明:

 ただの草

******************

******************

 名前:草

 説明:

 ただの草

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 名前:草

 説明:

 ただの草

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 名前:雑草

 説明:

 雑草。抜くのが面倒。

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******************

 名前:草

 説明:

 ただの草

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「どんだけ面倒なんだよっ!!」

 レシピどころか、まともな説明、もとい、まともに名前すら書かれてねぇ。そして、しれっと雑草が混じってやがる。なんで"草"と"雑草"を分けたんだ!? 基準はなんだよ!!


「これはヤバイ……」

 "全武器マスター"と"全属性魔法マスター"につづき、"鑑定"までポンコツ疑惑が浮上した。なんだかこうなってくると"製作"スキルも怪しく見えてくる……。なにが最大の問題って、製作レシピが完全に不明なことだ。

「くっ……、どうしたら……」

 俺は"雑草"を抜き、そして手の中のソレが光を放ち丸い塊に姿を変えた。

「え?」

 あまりに自然な流れに、俺は呆気にとられるしかない。

「あ、製作できたんだ?」

 レシピ不明なら、確認画面なども無し。なにこれ怖い。


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 名前:草団子

 説明:

 まずい

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「初製作がこれか……」

 食べてみたら、ちゃんとまずかった。説明文は正しいな……。


 一応、「作ろう」と思わなけらば出来上がらないことはわかった。さっきは焦燥のあまり暴発させてしまっただけらしい。まぁ、出来上がったのはマズイ草団子が3つほどだが……。

「これ、手あたり次第試すしかないのか……?」

 レシピが分からないでは、素材になりそうな物を手に持って"製作"してみるしかない。俺は落ちていた木の枝を拾って"製作"……、手に持った枝が光を放つ。

「お、案外行けるのか!?」






 ばいーん


 木の矢(鏃無し)ができあがり、そして手から弾かれて飛んでいった。

「泣ける……」

 シュールすぎる絵面だ。枝を持った俺が手から光を放ち、そしてクルクルと飛んでいく木の矢(鏃無し)。


 ピカー ばいーん

 ピカー ぼよーん

 ピカー ぴょーん

 ピカー ぼよーん

 ピカー ぴよーん

 ピカー ばいーん


「ゴッド剣はすごいね。木の矢(鏃無し)では刺さらないわ……」

 木の矢(鏃無し)がそのあたりに散乱している。

「なんぞこれ、俺は木の矢(鏃無し)の山に埋もれるために異世界に来たんチャウ……」

 俺は流れでもう一本木の枝を拾いあげる。いや、ちょっと枝にしては太い。かなり太めの枝だ。そしてその枝は光を放ち──


 箱ティッシュになった。


「あー、これぞ天啓……」

 これで涙を拭けってことだな。いや、あの神(管理者)はそんな気が利いた感じはしないな……。

 俺は地面に体育座りで、脇にティッシュを置き鼻をかむ。

「あー、ソフトだわ……」

 きっとこれで異世界無双するんだな。やわらかティッシュ無双だ。たぶん俺が主人公のネット小説タイトルは「"やわらかティッシュ"から始める異世界生活」だな。


 うずくまる俺の目の前。辛うじて片手で持ちあげられる程度の石が落ちている。何かの予感に後押しされるように、俺は石を手に取る。

 石は光に包まれ……、そして神の像(デスクワーク中)になった。


「ふっざけんな!!」

 投げても神の像(デスクワーク中)は壊れなかった。


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※余談:鑑定スキル

 自身や他者のステータスを閲覧でき、アイテムの鑑定も可能。そもそもこの世界にはステータスという物が存在しないため、ステータスを見れるのは鑑定を持つ主人公のみ。


 無理やり作りつけたシステムであるため、ステータス値は暫定のテスト数値が常に表示されている。さらに、スキルやアイテムの説明文は、かなりのやっつけ仕事。

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