神様がくれたスキルはバグだらけ

たろいも

0.【プロローグ】くたびれ管理者と逆切れ

「なんだココ……」

 俺、"三国みくに みさお"、24歳独身彼女無しは、今よく分からないことになっていた。

 すべてが真っ暗で、何も見えず、上も下も分からず、右も左も……、いや、右左はわかるな。とにかく寝ているのか立っているのか、それも分からない謎空間に居た。


 突然、スポットライトに照らされるように、事務机とそこに向かう男が浮かび上がる。男は白いYシャツに黒のスラックス。しばらく散髪していないであろう頭髪はボサボサで、顔色がひどく悪い。机の上で半分書類に埋まったパソコンにかじりつき、ぶつぶつと小言を呟いている。

「机きったねぇ……」

「あー、チッ、くそ……」

 俺の正直な感想に反応するように、こちらを一瞥し、面倒そうな声を出す。今舌打ちしたよな……。


「あの──」

「はいはい、あなたは、以下略。なので異世界にチート持って転移です。成長チートでいいよね、てか成長チートにしろ」

 男はやたら早口でまくしたてる。

「いや、端折りすぎだって! 自分の口で"以下略"って言った? 口に出して言う奴初めてみたよ!!」

「はぁ~、"なぜ死んだ"とか、"どうして転移した"とか、そんなのどうせ読者は誰も気にしないんだから。"プロローグ"ってだけで読み飛ばしOKなんだから、細けぇこたぁいいんだよ」

 男はため息を吐きつつ、再び早口で一気に言った。

「そんなメタいこと言われても、俺は初めてなので説明してほしいんですが……」

 事態も状況も分からないっす。


「はいはい、わかりましたよ……、管理者──、俺の手違いで空いた次元の穴に落ちて死んでしまいましたぁー、もう現世には生き返れないので異世界に転移しますぅー、お詫びとして"ギフト"を授けるますぅー、"ギフト"は"成長チート"でいいですかぁー?」

 そして逆切れ。こいつ相当やさぐれてる。まぁ、見た感じの様子からして"デスマーチ"的な状況をヒシヒシと感じるけども……。しかし、この男にとっては単なる「業務上のミス」なのかもしれないが、俺にとっては人生を揺るがす一大事だ。ここはしっかりと要求を伝えていきたい。

「"成長"とか面倒なんで、初めからカンストしたスキルが欲しいです」

「はぁ!? いや……、えー……」

 ものすごく顔を歪めたのち、とても嫌そうな表情に変わった。

「まず、魔法があるなら"全部の魔法をマスターレベル"で、"武器も全種類マスター"でほしいです。あ、異世界スローライフには"製作系スキル"が必須ですね、これも全マスターがいいなぁ。でも、一応最強の"武器"と"防具"はほしいですね。あー、あと"鑑定"! "鑑定"は必需品です。それに"収納魔法"的な奴? それが無いとザ・異世界って感じしないですよね。もちろんあらゆる"言語が理解"できて……、あっそうだ、戦いたくない相手と戦わなくて済むように、確実に"逃走"できるスキルがあるといいですね、いやでも"転移"があればそれでいいのかな? そもそも周囲を"探知"する能力があれば闘いを予防できるか? それでも遠距離の不意打ちとかも備えるなら攻撃の"警戒"的なスキルが……」

 ふと、男を見ると、俺の言葉を無視するかのようにパソコンに向かって作業をしていた。

「あのー、聞いてます?」

「え、あ、はいはい、聞いてる聞いてる」

 絶対聞いてないな。なんか小声で「新機能とか実装すんの面倒くせぇ」って聞こえるんですけど。

「ですから、全魔法マスターと、全武器マスターと、──」

「分かってる分かってる、じゃ、いってらっしゃーい」

 男は先ほどまでとは打って変わってにこやかな様子で机の隅を叩き、そして俺は再び暗闇の中へと沈んでいった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る