五話 氷華の秘密

◇2019年 9月4日 火曜日 夕方

 エミリアは優斗にいつも通り魔術を教わっていた。とりあえず自らの力をコントロール出来ないと危険だからだ。


「大分上手くなってきたんじゃないかな。とりあえず暴発を防ぐ分にはかなり良いと思う。自分の意志で出力する方はまだまだだけど」

「はい、ししょー」


 エミリアが小声で答える。優斗も大分コミュニケーションが取れるようにはなってきたが、氷華と話す時ほど感情を出していない。まあ、琴音が相手だと殆ど喋らず、ユリウスが相手の時に至っては固まって動かなくなるので大分マシなのだが。


「ああ、そうそう。調べて分かったけど、夜になると出力が落ちるみたいだよ。まあ天照大御神って太陽神だから太陽が出てない=影響が少ないという事になるしね。天照大御神が力の源であるエミリアの力も落ちる訳だ。神話的に見ても夜の世界を管理するのは弟の月読命っていう神だしね」

「じゃ、じゃあ夜になると私なにもできないの?」

「いや、精々半分ぐらいになる程度だな。とりあえず当分は夜の出力でもコントロール出来ないだろうから関係ないね」

「ちなみにそれって日本の時間か、この子がいる場所の時間のどちらです?」

「あ、お姉ちゃん!!」


 氷華が部屋に入って来た途端、エミリアは満面の笑みを浮かべて彼女に飛びつく。仕方が無いのは分かっているが、流石にこの対応の差は悔しいと優斗は内心歯がゆい思いをしていた。それはそれとして、頭をなでられて「えへへ」と笑うエミリアは非常に可愛らしい。

 一応言っておくと優斗は断じて幼児性愛者ではなく、純粋に妹を見るような目で可愛いと思っている。


「多分日本が昼か夜かだね」

「二人ともなんのはなししてるの?」

「悪い、時差知らないよな。……ああ、後多分日本国外だと出力が二割減ぐらいになると思う」

「そうですか。まあ土地に効果が左右される魔術は珍しくないですしね。三種の神器なんかもそうですし」

「あれは国外だと全く効果ないけどな。て言うかどこでも使えたら恐ろしすぎるわ」

「それはそうですよね。あれが有ったから第二次世界大戦の時日本が魔術的侵攻を受けなかっただけの事は有ります。世界最強の礼装と言っても過言では有りません」


 術者の力量によるが、あれを国内で使われたら氷華や氷夜でも恐らく負ける。と言うか勝てるのは第一位ぐらいだろう。


「むーぜんぜんわかんないよー」

「ああ、ごめんなさい。……で、そろそろコントロール出来るようになりました?」

「狙い通りに出力するのはともかく、抑える方は上出来だね。そろそろ外出出来るかも」

「では週末にでも出かけましょうか」

「え!! ほんと⁉ やったーおでかけだー、えへへ」

「なあ氷華、どこへ行くのが良いと思う?」


 ずっと引きこもらせるというのは余り良い事では無いので外出させるのは賛成だが、どこから始めるべきだろうか。


「とりあえず人が少ない所が良いでしょうね。安全上の理由も有りますが、この子が人混みに耐えられるとは思えませんからね」

「それもそうだな」


◇2019年 9月7日 土曜日 金森市内

 氷華と優斗はエミリアを連れて市内を散歩していた。いきなり一人は色々心配だし、万が一暴発したりする事も考えて二人ともついてきたのだ。

 結局特別な所に行くのではなく市内を適当に散歩しているだけだが、初めて見る物が多いエミリアは楽しんでいた。


「あ、信号が赤の時は横断歩道を渡ってはいけません」

「はーい」

「おい、道路を渡るときは車が来てないか確認しろ」

「あ、ごめんなさい」


 このように非常に危なっかしいが。


「不覚だな」

「ええ、彼女が一般常識を知らないという事を失念していました」


 そもそも国ごとに常識は異なるし、向こうですらろくに育てられていないのだから仕方が無い。危なっかしいので氷華が右手を、優斗が左手を繋いで歩く事になった。傍から見るとどういう関係なのかかなり謎だが、最悪魔術で誤魔化せばいいので問題ない。

 その後、服屋にて。


「どうかな、似合う……?」

「似合いますよ。とても可愛いです」

「まあ素材が良いから何着ても似合いそうな気がするけどな」

「そういう事は言う物では有りません」


 確かにエミリアは何を着ても悪くないだろうが、服を選んでいる時にそれを言うのは良くない。それに彼女の場合は清楚な服よりフリルが一杯付いた派手目の服の方が似合うだろうから、何でもいいという訳でもない。氷華もファッションに詳しいわけでは無く、むしろ全く知らないのだが。

 結局フリフリのワンピースを買う事にした。

 その後コンビニに行ったり、ランチを取ったりした。エミリアはとても楽しんで、また出かけたいと言っているので良かった。氷華にとっても久しぶりの心休まる休日だったと言える。

 帰路の途中、街の中にとある人物が侵入するまでは。


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