プロローグ
日本のとある地方都市に、異国情緒あふれる古い洋館が有る。近代的な都市の中で明らかに浮いているその建物の中で、二人の人間が戦っていた。一方は黒い服を着た人間で、もう一方は現代日本ではあまり見ない服を着た小柄な人間だった。
戦いは熾烈を極めた。様々な魔術の撃ち合いにより、壁は崩れ、床は抜け。調度品は散乱した。剣戟により、両者の体は傷だらけになった。
十数分後、決着はついた。
敗北した黒い服の人間が、何故こんなことをしたのかと問うた。目の前に居る人物がこんなことをする理由が全く理解できなかったのだ。何せ自分がやろうとしていた事に間違いなど無い筈なのだから。
小柄な人間はそんなことも分からないのかといった後、笑みを浮かべ、理由を告げる。
これがある天才魔術師の人生における最大の転機であり、後の魔術世界を大きく変える事になる出来事だった。
◇◇◇
——ごめんなさい
喪服を着た少女は一人呟く。
鬱蒼とした森の中であった。昼間でも薄暗いので、普通なら人が立ち入る事は余りない。だが、少女が居る場所だけは木々が途切れ、広場が形成されていた。
「ごめんなさい、人を殺しておいて許されるとは思えませんが、それでもごめんなさい」
少女は美しい顔を歪めて懺悔する。
「私は何回こんな自己満足を繰り返すのかな……後で謝るぐらいなら最初から殺さなければ良いのに」
そう少女は自嘲する。彼女はいつもこうだ。その時は最良の選択だと判断して実行し、実際に多くの人を救うが、後になって後悔する。だが、それでも今の道を変えるつもりは無い。
「いつか、こんなことは終わらせます。もう誰も魔術のせいで死ななくてもいい世界にして見せる。その結果と、それによって私の身に起こることが、私のような重罪人に出来るせめてもの贖罪でしょう」
そう言って少女——霧崎氷華は森の中に消えていった。その後ろには丁寧に手入れされた無数の墓場が建っている。
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