閑話 沼への誘い
ゴールデンウィークも終わり、風ちゃんが教室に来るようになって1週間が経った休日。
私と奈緒ちゃんは風ちゃんの家に遊びに行った。
女の子はただ話すことが多く、お年頃の話題は最近のアイドルグループの話や衣服の話など、元おじさんには辛い。しまいには恋愛トークに花を咲かせる。
「ねーねー、2人は好きな人はいないの?
「…私はいないよ。ってか、作る気もないし」
「あぁ〜、転入の時に言ってたね」
「男子が残念がってたよ?学校1の美人なのに性格が残念だって」
「性格が残念なのは私だもん、仕方がないよ。けど見た目は夏姫ちゃんだもん、可愛いに決まってるじゃん」
「「?」」
「どっちも夏樹ちゃんじゃない。同じじゃない?」
「なっちゃんって意外とナルシスト?」
「違うともいいきれないけど、違うよ」
「そういえば、夏樹ちゃんを助けてくれた人の息子さん。えっと、冬樹くんだっけ?あの子は?」
「あの子は弟と言うか、身内みたいな感じだからそう言う対象じゃないよ」
「えー、あの子将来イケメンになると思う!!」
「そうだよ。田島 春樹さんに似たら絶対背が高くなるし、奥さんも美人だからいいと思うよ?」
「いとこでも結婚できるって言うしね!!今のうちにキープしとけば?」
「…キープって、ないないない」
「「えー!?」」
「えーって。ていうか、風ちゃん。春樹さんに会ったことあるの?」
「ないけど、ちょっと待ってて?…あった、これ」
「これって、クラブの会員誌?」
「そう、これにアキ選手との対談が載ってるの。ファンクラブの会員誌だからあんまり出回ってないの」
「うわ、ほんとだ。2人の写真付きだね。アキ選手に比べると落ちたおじさんって感じだけどかっこいいね」
「…おじさん」
「身長も性格も正反対だけど、互いが互いをリスペクトしてて、認め合ってるの」
「ほんとだ、お互いに自分より相手の方を上げていて、けど最後はこいつがいなければいい意味でも悪い意味でも今の俺はなかったで締めてる。なんかウザ…」
「ウザっ…」
「けど、その春樹さんがどうして有名になったの?」
「それは夢だったアンダー世代の合宿で怪我をして再起不能になったの。その夢をアキ選手が春樹さんの分まで叶えるために代表まで上り詰めたんだもん。テレビでも紹介されてだくらいだもん」
「なんかありきたりな少年漫画みたい」
「…泣」
「そんなことないよ!!かっこいいじゃん!?」
「…喜」
「けど、風ちゃん、よく知ってるね。そんなにアキ選手のファンなの?」
「違うよ?私は春樹さんの方が好きかな?背が高くてかっこいいし」
「…!!照」
「それに、どう考えてもアキ選手は受け!!私は受けより攻めの方が萌えるの!!」
「!?」
「やっぱりそっちか…」
「やっぱり春×秋でしょ!!怪我で自分のせいでサッカーができなくなった春の夢を叶えるために健気に戦い続ける秋とそれを責めずに叱咤激励し秋を支え続ける春樹さんの包み込む優しさに萌えるのよ!!これは絶対!!」
「もうやめて!!」
「あ、夏樹、ごめん。嫌いだった?」
「うん。ダメかも…」
「最初はダメかもしれないけど…、あなたも分かるようになるわ…」
「出た、風ちゃんの沼への誘い…」
「…えっ?」
「さぁ、いらっしゃい。沼はあなたを優しく包み込んでくれるわ。まずは私を沼へと誘った春×秋本から…」
「いやあぁぁぁぁぁ………」
その日、私はBL沼への使者によって開けてはいけない扉を開いてしまった。
しかも、風ちゃん自作の生前の自分とアキが題材とした薄い本だった…。
まさか、自分が沼へと誘う発生源になっていたとは思ってもいなかった。
…一言声を上げて言いたい。
「現実でBLはありえません!!」
私が沼へと誘った幼気な少女に、私の声は届かなかった。
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