第27話 竜の巣へ

起きて、四人で朝食を食べ始める。

まったく別のメニューを食べているファイナを見て

マクネルファーは不思議そうな顔で

「この姉ちゃんは、味覚が違うんか?」

「そうではありませんわ。ゴルダブル様たちがわざと

 不味いものを食べて、修行しているんですのよ?」


マクネルファーはニヤニヤしながら

俺とバムを見回して

「そういうことか。よく分かってないんじゃな。

 まあ、良い。違う他者を受け入れるのも

 または大事な事じゃ。まあ、わしは滅多にせんけどな」


「で、今日の竜退治のことですけど!」

いきなり目を輝かせてきたファイナに俺は

「いや、ファイナさん、目的が入れ替わってるよ」

「プラグナ二ウムを取りにいってもらうだけじゃよ。

 竜は退治せんでいい」

「おじいさんは行かないんですの?」


「適材適所と言う言葉がある。わしはこの宿で寝とくわ。

 留置所のベッドは硬くてのう。年寄りには堪える」

バムは頷いて

「まだ料理大会までは時間がありますし

 とにかく、行ってみましょう。無理そうなら

 すぐに戻ってきますからね?」

マクネルファーはベッドに寝転びながら

ニヤニヤと右手を挙げた。


三十分後には、俺たちはミルバスの南門から

河にかけられた大きな橋を渡って

南西の山を目指していた。

二十キロあるので、行き帰りで二日がかりのつもりである。

「あー楽しみですわ。私の魔法が

 ドラゴンを燃やし尽くし、冥界へと連れ去る……」


早くもバムに肩車されてファイナは

活躍する自分の姿を想像するのに余念がない。

「なあ、ファイナさん、いくつも魔法使えるのか?」

「そうですわよ。私、魔法の天才だと宮廷魔術師たちからは

 言われていました」

「くれぐれもお手柔らかにな……」


あんな冥界に連れていかれるような

禁呪をぶちかまされるのかと思うと

竜たちが気の毒になってきた。

マクネルファーから貰った剣は、しっかりとバムが

皮パンツの腰に提げている。


ゆっくりと歩き続けて、昼前には

森に囲まれた険しい山々が見えてきた。

バムがその中心を指さして

「あれですね。あそこが、竜の巣です」

「ドラゴン見えませんわね?」

「そうですね。寝ているのでしょうか」


とにかく俺たちは、森の中へと足を踏み入れて

方向感覚抜群のバムの案内で歩ききり

山の麓へとたどり着く。

見上げると木々の生えていない

岩だらけの尖った山頂へと細い道が続いているが

かなり曲がりくねっていて、所々では

崩れているような場所も見える。


「どこが竜の巣なんだ?」

「恐らく、中腹当たりの穴の中に棲んでいるはずです」

バムが山の中ほどに大きく抉れるように空いた

大穴を指さした。

「ふむー。いまいち、面白みがありませんわねー」


不満そうなファイナと共にとりあえず昼食を食べていると


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォオオオォオオオ……」


という地が震えるようなうめき声が

いきなり中腹の大穴からこの麓まで響いてくる。

「いっ、今のが、竜の鳴き声……」

「間違いありません。居たんですね……」

「素敵ですわ!待っていなさい!大魔道ファイナが成敗しますわ!」

テンションが上がったのはファイナだけで

俺とバムは、不吉な予感しかしない。

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