第26話 竜的な恐ろしいアレ

「わしはな、子供のころから味覚が他人とは違ったんじゃ。

 みんなから馬鹿にされながらも、疑問がどうしても消えんかったわしは

 ずっと様々な文献を調べ、研究もして、

 ある答えに辿り着いた。それはなつまり

 "食王がこの世界の味覚を狂わせた"ということじゃ」

バムの話と同じだ。


口を挟みたそうなファイナをバムと俺で

見つめて止めて、マクネルファーに続きを話して貰う。

「文献ではな。百二十年前の世界の料理の作り方と

 今の料理の作り方は全く違う。スパイス一つとっても

 当時の製法はまともじゃったのに、今のものは

 吐き気を催すような味ばかりじゃ」


「前食王は、何年前にこの世界に来てたんですか?」

マクネルファーの代わりにバムが

「ちょうど百年前です」

「そうじゃな。この世界が味覚の狂った者だらけになって

 今年でちょうど百年じゃったわ」

そんなに前の事なのかと俺は驚く。


「それで、わしは、この世界の狂人たちにも

 旨いものを何とか分からせようと、自力で

 "味覚の妥協点"を探るために、研究施設を立ち上げたんじゃが。

 どうしても、機械が安定せんでのう……」

バムと俺と同じ目的なのに、二人で驚く。

「それで定期的に爆発してるんですね」

マクネルファーは頷いた。


ファイナが面白そうな顔で

「どうしたら、その機械は安定するんですの?」

マクネルファーは眉間に皺を寄せて

「プラグナ二ウムという、特殊な鉱石が必要なんじゃが……」

「買ってさしあげてもよろしいですわよ?」


「いや、買える代物ではない。

 ここから、南西に二十キロの地点にな。

 "ドラゴンの巣"と呼ばれる険しい山がある。

 その山頂に、僅かにあるはずなんじゃが。

 そこは、文字通りスカイドラゴンたちの巣でな……」


「それは、他の手を考えるしかありませんね……」

バムは絶望的な顔をする。

「あ、あの……ドラゴンも、この世界に居るの?」

ドラゴンと言えば、あの竜的な恐ろしいアレだろうか。

バムは真面目な顔で頷く。


ファイナがグイッと前に出てきて

「行きましょう!私たち、三人なら楽勝ですわ!」

「いや、ファイナさん……さすがにドラゴンは……」

バムが顔を青くして止めようとしていると

マクネルファーが決心した顔で、靴を脱いで

中から鍵を取り出す。


「これはな。家の地下倉庫の鍵じゃ。

 いつかはわしのためにこういう勇者か現れると

 思ってな。竜と戦える伝説の剣を用意しておいたのよ」

「さすがですわ!竜退治ですわね!」

ファイナは部屋の中を跳び回りはじめた。


いや、ちょっと待て、何か話がどんどん

妖しい方向に進んでませんかー!?

困惑する俺とバムを差し置いて、

すっかりやる気なファイナは、マクネルファーと

部屋を出て行き、俺たちも慌ててその背中を追う。


再び、夜道をマクネルファーの焼け焦げた家の前に

向かった俺たちは、その黒焦げの焼け跡の床から

マクネルファーが地下倉庫の扉の鍵を開けるのを眺める。

開いたその中に、カンテラを持った

彼に続いて入っていくと、中には怪しげな実験器具や

ガラクタのような鉄くずが、大量に転がっていた。


「一応、食料も備蓄しておる。爆発したら

 家を再建するまで、ここで寝泊まりせねばならぬからな」

マクネルファーはそう言いながら、埃を被った鉄くずの中から

一本の鞘に入った剣を取り出した。

「これじゃ。竜殺しの剣じゃ」


バムが受け取って、鞘から抜いて中身を確かめる。

「……正直、驚いています。普通の刃物ではないですね」

「ま、まさかの本物なのか?」

「いえ、そこまでは分かりませんが……」

ファイナは、実験器具を珍しそうに見回している。


とにかく剣だけ持って鍵を閉め、俺たち四人は

再び、宿へと戻り、寝る準備を始めた。

二つあるベッドはマクネルファーと、ファイナに譲って

俺とバムは寝袋である。


「兄ちゃんは、女子二人も連れとるが

 二人とも彼女なんかな?」

寝る前にマクネルファーに尋ねられて首を横に振ると

「勢いが大事じゃぞ。こう、いけると思った時に

 一気に行く。それが秘訣じゃ」

とニヤリと笑って彼はベッドに入った。


「……」

いや、そんなこと言われましても……。

いけると思った時は全部行ったけどダメだったよ!

ちくしょおおおおおおおお……。

俺は心の中で釈然としない想いを抱きつつ

とにかく寝ることにする。

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