第28話 竜の頼み

昼食を食べ終わると、俺とバムは荷物を手分けして背負い

勇んで山道を駆け上ろうとするファイナを

必死に止めながら、ゆっくりと山道を登っていく。

小声でファイナに

「と、とりあえず、竜は無視する。

 いいか?まずはプラグナ二ウムを取るからね?」


そう言い聞かせて、細い山道を

慎重に三人で登り続け、ようやく一時間半くらいして

山の中腹に差し掛かったところで、ファイナが

「地味ですわ!こんなの納得いきません!」

といきなりブチ切れる。バムと俺が同時に口を塞ぐが

もう遅い。近くにぽっかり空いた大穴から


「グルアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


という大声が響くのと同時に、

真っ青な体長十メートルほどの大きなドラゴンが

飛び出してきた。


その恐ろしいが、何とも美しく青光りする鱗や棘のついた尻尾

シュッとした頭、理知的な目、そして左右に広がった

真っ青な両翼にバムとしばらく呆気にとられる。

ファイナはさっそく呪文を詠唱し始めている。


ドラゴンは宙にホバリングしたまま

ジッとこちらを見つめて口を開き

「禁呪は美しくない。やめたまえ」

と何と人間の言葉で、俺たちに声をかけてきた。

慌ててバムがファイナの口を塞いで、むりやり詠唱を止めさせると

「それでいい。君たち、何か食べ物は持っているかい?」


俺が慌てて、荷物の中からサンドイッチを

取り出して見せると、ドラゴンは頷いて

「全部、置いて行ってくれ。それで見逃そう」

俺は勇気を出して

「あ、あの!ここの山頂にあるプラグナ二ウムを

 少し頂きたいんですけど!」


そう空中に浮かぶドラゴンに大声で言い放つと

「持って行けばいい。ただし、今日中には下山してくれ。

 うちの子の具合が悪いんだ。休ませてあげたい」

「分かりました!失礼しました!」

俺とバムはあるだけの食べ物を取り出して

その場に置くと、また何か呪文を詠唱しだした

ファイナの口を塞ぎつつ、二人で彼女の身体を担いで

必死に山頂へと走り出した。


途中でバムが、文句を言いだしたファイナの首筋を叩いて

気絶させる。そして俺が荷物、バムがファイナを担いで

難路を何とか切り抜けて、必死に登っていく。

一時間ほど、後ろを振り返らずにファイナを担いだまま

山頂を目指すと、黒光りする鉱石が

大量に岩場に点在する地点へとたどり着いた。


「これだよな?」

「そうですね。詰められるだけ詰めましょう」

バムとピッケルを振るって、鉱石を急いで採掘していく。

今日中には下山しろと、ドラゴンは言っていた。

夕暮れまで時間が無い。


鉱石を詰めてずっしりと重くなったショルダーバッグは

バムが背負って、今度は俺がファイナを背負い

足早に下山していく。

何とか中腹の大穴付近まで下りたところで

夕暮れに差し掛かり、焦りながら

険しい山道を降りていくと


大穴の中から

「ちょっと待ってくれないか!」

と先ほどの竜の声が響いて、再び俺たちの上空に

飛んで出てくる。

「な、なんでしょうか……何か失礼でも?」


バムとビビりながら、ホバリングしている大きな飛竜を見上げると

「子供が、美味しいって言うんだ……。

 君たちの食べ物のうち、いくつかを……」

感動した顔で言ってくるので二人で首をひねっていると

「治りそうなんだ。よ、よかったら、もっと

 君たちの食べ物を分けて欲しい!」


竜は何と俺たちに頼み込んでくる。

バムが冷静な顔で見上げて

「分かりました。私たちはミルバスの街に滞在しています。

 一度、街へと戻ってからまた来ます」

夕暮れに照らされて浮かぶドラゴンは

俺たちを見下ろしながら


「そんなには待てない。私が君たちを街の近くへと

 連れて帰るから、その街で食べ物を作って

 すぐに出てきてくれ。お礼はいくらでも渡す」

俺とバムは顔を見合わせる。

どうやら、このドラゴンには子供のための

食料が今すぐ必要のようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る