熟慮
内戦もいよいよ終盤。
いやはや、未だ勝利が傾くのはどちらか定かではないというのは、この老いぼれの肝を冷やすには丁度良いやも知れぬ。
我が息子ザンドが尋常ならざる重傷を負い、十八名の組合員が黄金に包まれこの地を去った。非常に痛ましい。
それは我が盟友である土呼も同感だったらしく、我らゴログ族が戦線離脱状態にあるのを責めはしなかった。その上ザンドの治療の為に迅速な対応をし、感謝の念しかない。
あの幼子のような姿をした
初めは疑っていたものの、我らゴログ族の将来を案じて策を提示する様にその考えを改めさせられた。当然、疑い不心得な思考をした事を謝罪し、今日まで互いを信頼するに至る。
土呼の提案により、我らゴログ族は生存する事だけを念頭に置いて生活していた。
集落は高く頑丈な壁で囲われ、人の出入りも補給物資のみであった事もあって実に平穏な四日間を過ごしたのだ。
しかし、何もしていなくとも襲撃はされた。いや、何もしていなかったから襲撃されたのやも知れぬ。
あの小娘は嗤いながら多くの命と未来を奪っていったのだ。
俺たちが絶望を抱き、心身ともに燻ろうとしていた時。土呼はこう言った。
「命ある者たちが何を嘆いておるか!嘆くなとは言わぬ、されど地に膝をつくのは余が許さぬぞ!」
その叱責は俺たちに活力を与えた。
内戦が始まる前、俺たちはゴログ族の未来を案じて様々な行動を起こしたのだ。それを忘れてどうする、まだやるべき事は残っている。
我々は生きねばならぬ。
そこから今日に至るまでの団結はこれまで以上のものだ。恐らくこれから先も潰える事はないだろう。
この帝国に誕生した一つの生命として、我らゴログ族が成せる事は限られているやも知れぬ。これまでにない困難が降りかかる事もあるだろう。
しかし、それでも我らゴログ族は前を向く。生きている限りだ。
土呼が思い起こさせた珠玉の言葉。これは代を重ねても語り継がねばなるまい。
もう少しで土呼も元の場所へ戻ると聞いた。
多くの知見を語り聞かせられ、得たものは皆に語らねばなるまい。知識という宝石の山を独り占めするのは我が理念に反する。
完全にこれまで通り、とはいかない状況で希望を捨てずにいられる。それだけで土呼から得たものは大地より広く深い。
まるで肥沃な土壌自らが幸多き手順を知らせ呼んでいるかのようだ。
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