幕間

転生

 内戦が始まって五日が経ち。様々な事が変わった。

亡くなってしまった人々の労力を補う為、他の組織に潤沢な物資を供給する為、絶えず魔術を借りている。加えて、病気や怪我の治療で呼ばれれば直ちに向かい、その日のうちに治してしまう。

そんな日々が続いても疲労の色一つ見せずに私の後ろをついて回る。

常に笑顔で。同じ言葉を発しながら。


「わかりました」


「これも僕の務めですから」


「大丈夫です」


毎日、決して変わらない抑揚で。

時折、温かな声色で語られる優しい言葉も、決められた言葉を繰り返しているだけに過ぎない。一日目に掛けられた言葉は今日までに毎日繰り返されたのが証拠だ。

こんな薄っぺらい言葉で、私の悲しみが癒えるわけがない。


 いや、心からの共感が欲しいわけではない。親身になって慰めて欲しいわけでもない。私以外にも大切な家族を亡くした人だっているのだから。

しかし今日までに掛けられた決まった言葉の数々は、家族を亡くしたばかりの私には軽薄な励ましのように感じた。

いっその事、何も言葉が返ってこない方が良い。そんな事まで考える日もあった。

 加えて、どんなに酷い怪我をしていても未知の病が重篤化していても、元通りに完治させてしまう力。この上なく恐ろしい。

この上なく恐ろしいが、私には欲しくてたまらない力だ。

これさえあれば私の願いは叶う。内戦になんて勝たなくていい。


もう一度家族に会いたい。


ただの人間である私にはどうしようもない願望。そんなどうしようもない願いが浮かんでしまう。

たとえ灰となり土に埋もれているとしても、あれほどの治癒能力を持ってすれば依然と変わりなく元通りに……!


……いや、それは本当に『私の家族』だと呼べるのだろうか。

肉体は、精神は。そのどちらも備わっていなければ『私の家族』とは別の存在と言えるだろう。

それならやはり、無理なのだろうか。死者の蘇生なんてものは。

 これからも薄っぺらい慰めを聞き、死をいとう事しか出来ないのだろうか。

こんな虚しい事ばかり考えてしまうのは、私自身のせいなのだろうか。

それとも―――目の前にある僅かな可能性に期待しているせいなのか。


 ただ一つ言える事は、私はこの『生き物もくせつ』が恐ろしい。それだけの事。

あと二日。私はこの『生き物もくせつ』と共生しなければならない。

それだけが苦痛だ。


 この天使からは『人間に対する感情』が全く感じられない。しかし、だからこそ神々しく尊い存在だと思ってしまう。目の前の植緑バターニカ ・天使アーンギルに平服し逆らえない。

まるで木々の隙間から容赦なく洩れ注ぐ陽の光のように。

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