「連絡」

 ヤキリたちが帰った後、南西区域の広場ではガドンを中心に多くの人が集まっていた。その中には昼間の激闘を見ていたザンドやブルッグス、事務作業をしていたダグドールもいる。

広場に集まったのは土呼の魔術を行使する者たち。即ち、日頃からガドンの下で働いている組合員たちだ。

 激闘が行われた広場は一見して何も変わりないようだが、所々地面が焼けていたり奇妙なくぼみが散見される。どちらも壮絶な魔術行使によるものだ。

しかし、ガドンの魔術行使によって生成された巨大なやじりは跡形もなく消えている。それもその筈、あれが広場にあっては利用する人々の邪魔になるからだ。

とは言えガドンが生成した巨大な鏃の名残は大地に刻まれた奇妙なくぼみとして残っており、雨が降れば浅い池が二つ出来る程の大きさである。

 人々はガドンを前に弧を描くように集まり、彼が語り始めるのを静かに待つ。彼らはこれからガドンが語る素晴らしい報告を心待ちにしており、その熱い眼差しからは強い期待が感じられた。

 彼らを暫く見渡した後、ガドンは腹に響く大きな声で呼び掛ける。

「急な召集にもかかわらずよくぞ集まってくれた!まずは感謝を述べよう!」

ガドンの言葉に対し、集まった人々は勇ましい雄叫びを上げて答えた。その威勢の良さをガドンは頷き受け止め、話を続ける。

「そして重大な連絡がある!既に知っている者もいるやもしれぬが、我々鉱山工業組合並びにゴログ族は無幻結社と同盟を結んだ!勇猛果敢にもこのガドンに決闘を申し込み見事勝利した、無幻結社のヤキリは信頼に値する人間であろう!」

と、熱弁したガドンに応戦するようにブルッグスとザンドが口を開いた。

「此度の決闘は光栄にもワガハイが審判を務めたのであるが、実に堂々たる激闘であったと報告するのである!双方一歩も譲らぬ熱い闘いであった!!」

「応とも!親父の魔術ばいっちゃん強かち思っとったばってん、あんヤキリもえらい強かごた!同盟ば組んでも文句なかぞ!!」

彼らの後押しもあり、その場に集まった人々は次第に同盟を納得しガドンの雄姿を讃え始める。

「さすがは我らが族長!正々堂々と闘ったのならオレらも納得だ!」

「俺も昼間の決闘見てたけどよ!サイコーにイカしてたぜ!」

「やっぱり頼りになるなァ!」

 方々から上がる賛辞の声に豪快な笑い声で応えた。

「ガハハハハッ!!愉快痛快、恐悦至極!!これも全ては皆の協力と理解あってこそだ!」

一頻り笑った後、真剣な面持ちになり人々へ語り掛ける。

「して、今後の動きだが……暫くは現状維持と定まった!理由は明確、無用な争いを引き起こさないが為だ!」

そう語ったガドンに人々はまたも賛同した。

「そうだ!帝国民同士で争うなんてバカげてる!」

「俺たちには戦う理由なんてハナっからねェんだ!」

それらの意見に頷き、ガドンは口を開く。

「そうだ!我々ゴログの民に争いは不要!この大地に感謝し、日々を生きる!それを脅かされぬ限り、我々は交戦せぬと知れ!!」

この宣言に集まった人々は再び雄叫びを上げた。隆々たる男たちの声は空気を震わせ、その一体感からはゴログ族の結束を感じられる。

 少数であるからこそしなければならない事もある、というのがガドンの意志でありゴログ族全体の意志でもあるのだ。

今を生き抜き未来へ繋げる為、無暗に敵を作る事は得策ではない。

今となっては幸いとも言えるが、彼らゴログ族の集落区域は高い壁で覆われている。その壁を乗り越えるのは常人では難しく、壁を破壊するか何等かの魔術を駆使しなければならない。

その上、土呼の魔術。籠城には苦労しないこの状況で、好戦的ではない彼らが戦う理由などない。

 それらを見越して自分たちからは戦わない、と予め宣言していたガドンの慧眼は見事だと言える。ガドンを信頼している者ばかりの集落では、彼の意志決定は絶対的なものだ。

もし破られるとすれば、それはガドンが死した時であろう。


 程よく士気が高められたのを確認したガドンは、集まった人々にこう告げる。

「これにて連絡会は終わりだ!集まりご苦労!!」

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