第二話 「それぞれの意志」
ソ皇帝の演説後の騒動から夕方。宮廷の広い一室には十二人の男女と六体の天使が一つの大きな長方形の机を囲んでいた。
落ち着いた色調でありながらも格式の高いこの部屋は、かつて先代のセ皇帝と各部門の政治家が議会を開いていた場である。
机の一番奥の席には無空が結成させた警護組織の責任者である男性が座り、その右に無空で左には補佐官の女性が座っている。男性はやや明るい灰色の短髪をセンターパートにし、深い藍色の瞳を持つ利発的な顔立ちだが眉間の皺と下がった口角が彼の性格をよく表している。男性の名はダリスと言う。
そのダリスの左に座る女性は長い黒髪を後頭部で結い上げ、右側の前髪を前に長く垂らし片側は後ろ髪と纏めて結っている。集まった者たちや現状に興味がないのか、淡い黄緑色の瞳で正面を向き淡白な表情でそこにいた。女性の名はヴォルツと言う。
ヴォルツから見て左斜め前には火晴、ヤキリ、カザキの順に三人が並んで座り、カザキの横に少し間を置いて木洩とウォーマーが座っている。そして無空から右斜め前には金陽、オリフィア、ドレイトが座り、そこから少し間が空いて土呼、ガドン、ブルッグスが座っている。そして一番入口に近い席にカイトが座り、その右には水雨で左にはレイジが並んだ。
それぞれ険悪という訳でもないが、徐々に集まっていく中で会話は全くなかった。全員が揃ってからも沈黙は続いてから数分経った頃、ダリスが無空に提案する。
「あー、無空。全員揃ったようだが……まだ開始しないのかね」
「わかりました」
と言って起立し、こう宣言した。
「それではこれより、各組織の長とその補佐と配属天使による対面式を開始します。まずはこちらから順に長が自分の組織紹介を行いましょう。組織名と自身と補佐の名前だけで結構です」
と言って、右側に座るオリフィアの方を手で示した。それに気付いたオリフィアは小さく笑みを浮かべて周囲を見渡し、つらつらと話し始める。
「様相でお分かりの通り、レリフィック教会の宣教師を務めるオリフィアと申します。こちらの男性は神父のドレイトです」
紹介されたドレイトは軽く会釈し、目を細めたオリフィアは一言続ける。
「私どもは全ての人が幸せである事を切に祈っております。どうぞよろしくお願い致しますね」
彼女の横に座る金陽の表情は分からないが、少しだけ見える口許は笑っているようだった。
オリフィアが語った後、力強い咳払いの後によく通る声でガドンが発言する。彼にとってこの宮廷そのものへ来たのは初めての事で、少し緊張している様な雰囲気がある。
「南西の鉱山周辺地域に住むゴログ族の団体、ガドン鉱山組合とでも名乗っておこう。そこの責任者でありゴログの族長を務めるガドンだ。そしてこっちが俺の息子のザンド。よろしく頼む」
とガドンが言った後、それから数秒程空いてカイトが口を開いた。
「レジストリア。俺はリーダーのスマイリーで、こっちの
そして横に座るレイジが一言付け加えた。
「以後お見知りおきを」
それから程よく間を開け、ウォーマーが話す。
「えー、南東の農場関係者で結成されてるウォーマー農業組合で組合長を任されてます、ウォーマーと言います。本来ならもう一人いる筈だったのですが、先日息を引き取りまして……」
と、表情を曇らせたウォーマーが語った事で、この部屋に集う者たちは名状し難いくらい気持ちになった。しかし、空気を悪くしない様にと気持ち明るく締め括った。
「これからは木洩様もおりますし、チョウ帝国が食糧難になる事はないと思います。感染症についてですが、私とこうして対面した事による感染はほぼ無いのだそうです。」
そしてそれを肯定する様に木洩が言葉を続けた。
「はい、少なくとも僕がこの地に居る限り、感染し発症していても治療可能です。もしこの会の後に体調の不調がある場合は早めに僕の許まで来てくださいね」
と言って優しく笑い掛けた。それから最後であるヤキリが語り始める。
「我々は無幻結社。僕が社長のヤキリ、このしかめっ面が副社長のカザキ。これで全部かな?」
と言って無空の方を見た。そしてそれを否定する様に首を横に振りこう言った。
「いえ、最後に私の配下となった組織が残っています。では、どうぞ」
そう言ってようやく着席し、一同の視線は横に座るダリスに向けられた。
ダリスにも心構えはあっただろうが、それでも緊張で固唾を飲んだ。そして暫くしてからおずおずと語った。
「えー……警護組織の長官を任されたダリスだ。そしてこちらは副官のヴォルツ。以上だ」
と、紹介をされたヴォルツは表情を変えずに会釈した。
そうして全員がお互いを認知した事で、無空は詳しい事情を話す事とした。
「それではこれからの規則等の説明を始めます」
という声を合図に広い机の中央に埋め込まれている電子モニターが起動し、程なくして白い画面を映し出す。そして白い画面の上部から順に文字が表示され始めた。
机を囲む者たちは一様にその文字に注目し、表示された文字を無空が読み上げ始める。
「まず初めに、数時間程前に広場でお話した通り、今回の内戦期間中はソ皇帝によって公布された法は無効化されます。それによって、現在横行する犯罪の数々もなくなると創造主たる御方はお考えです」
と話すと同時にその言葉と該当される個所に下線が引かれ、無空は文字の表示に遅れを取らない速さで話し続ける。
「そしてこれも同様に先程お話した事ですが、今回の内戦は全ての敵対組織を降伏させる事で勝利とします。ちなみに、敵対組織を降伏させる手段は問いません」
するとそこでガドンが声を掛ける。
「むう、それでは殺し合いになるやも知れん。命が幾つあっても足りんだろう」
「それは問題ないんじゃないかな」
と、ガドンの言葉を即否定したヤキリ。そしてそれに同意したレイジが語る。
「そうそう。要は降伏させればいい訳だからさ、この場で話し合って解決も出来るわけ。それとも自分たちの種族だけが生き残ればいいとか思ってるのかな、族長さんは」
嫌味にもペラペラと語られたものの、ガドンは冷静に答えた。
「確かに短絡的な発想だった事は認めよう。しかし、どれ程の才力があるとも分からん者にチョウ帝国の最高決定権を渡す気は毛頭ないのも事実だ」
「それは私共も同感です」
オリフィアが同調し、ウォーマーも強く頷いた。
「また酷い状況に陥り、教徒を減らされては困りますもの」
いつも通りの微笑みはそこにはなく、黄金の瞳は憂いを帯びている。それはウォーマーも同様で、両者とも多くの同胞を失って間もないという共通点がある。
やや重い空気が流れたものの無空には関係ないらしく、変わらない抑揚のない声で再び語り始めた。
「それでは説明を再開します。各組織にそれぞれ天使を配属させていますが、それぞれ得意とする魔術の属性が異なっている事はお分かりでしょう。そしてその魔術を簡易ですが組織の人間も使用可能となりますので、各属性の簡単な説明を行います」
そう語ったと同時に電子モニターにも変化があり、水雨の正面写真と文章がずらりと表示されていった。
「まず我々天使は創造主たる御方に創られたと同時に、五つある属性魔術から一つを授けられました。それぞれ名前に含まれている通りに木・火・地・金・水の順に創られ、最後にそれらの力が暴走した際の仲裁として”無”の私が創られたのです」
そして更に言葉は続く。
「五つそれぞれの属性で扱う魔術は異なり、提供される情報を平等にする為に解説していきます。特に自身が扱う属性の魔術は熟知しておいてください」
表示されている電子モニターに全員が注目した頃、話は続けられた。
「まずは初めに創られた木洩ですね。木洩は”植物の生長を自在に操る”事が出来る魔術を得意としています。主な用途としては、種さえ持っていればそれの生長を早めたり生長結果を変えたりする魔術なので、もし農業組合が全滅したとしても食糧難に陥る事はないでしょう」
と言う無情な言葉はそのまま流された。天使からすれば人間の十人や二十人などはそう大差ない数値でしかないのだろうし、生命体として明らかに格差があればこうなっても仕方ないとその場にいる人間は理解している。人間にとって蟻は小さくてちっぽけで一匹だろうが十匹だろうが脅威になり得ない事と同じだ。
そして流れる様に次の解説へと移った。
「火晴ですね。名前の通り火属性を得意とし、主に”火を自由自在に発生させ操る”事が出来る魔術を扱います。この魔術によって発生する火は術者によって規模や温度が異なり、発生させた火で術者本人が燃える事はありません」
当の火晴はその解説に反応を示さず、ただ聞き流しているだけと言える。しかしヤキリはとても強い興味を示したらしく、やや興奮気味に質問した。
「素人質問で申し訳ないんだけど、魔術で発生させた火を熱量として実験を行えばどうなるだろうか、天界でその解あるいは実証はなされたのかな?それともそういう用途には使われないもの?それに自分で出した火は自分を燃やさないと言ったが、それは火そのものが自分が触れられない物?燃やされない”自分”の定義はどこまでか判明してる?ちなみに自分が着ている衣服や防具、または小物は熱されたりするの?それから―――」
と、次々に疑問を投げ掛けるヤキリに火晴は食い気味に答える。
「自分で。確かめて」
火晴の淡々とした言葉に面食らった顔をしたが、すぐにその言葉を待っていたと言わんばかりの自信に溢れる顔をしたヤキリは、ただ一言だけ言って質問を終わらせた。
「あぁ当然だね、今日これからじっくり検証するよ。解説を中断させてすまない、続けていいよ」
「はい。では続いて土呼ですが、土呼もまた名の通り土属性となります。主に”その場の土や新たに出現させた土を自由自在に操る”事が出来る魔術を得意とし、魔術によって操る土は強度や形状を自由に操作する事が可能です」
「その通り。丁寧な解説に感謝しよう」
と言った土呼は無空の方へ頭を下げた。
「いえ、これも御方の御意思ですから」
そう淡白に返すが、土呼が気にする事はなかった。そして次の解説がなされる。
机の電子モニターは次の金陽を表示した。
「それでは次に、金陽ですね。女神レリフィアの外見を模している存在である為、人間と対面するにあたって顔や手足を隠しています。金陽も名前の通り金属性を得意としており、主に”黄金を自由自在に発生させる”事が可能です。この魔術によって発生する黄金の形成は行使者の精神状態に大きく影響され、それを用いての物理攻撃と防御が最大の特徴ですね」
という解説に金陽は静かに頷いた。するとそこでドレイトが挙手しながら無空へ問い掛けた。
「疑問なのだが、魔術によって出現した物質は全て現存したままとなるのかね?それとも何らかの条件で消滅するのだろうか」
「はい、魔術で発生させたあらゆる物質は行使者が術を解除させるか、私の魔術によって消滅させるまで現存されます。正確に言えば術者が死亡すれば消滅されるかもしれませんが、私たち天使の死亡例がないのでわかりかねます」
「理解した。感謝する」
無空の丁寧な解答にドレイトは頷き感謝を述べた。
「はい、それでは次に水雨です。水雨はその名の通り水属性であり、主に”水を自由自在に発生させ操る”事に長けた魔術を得意としています。攻撃系統は不得手ですが、決して弱いわけではありません」
「そう!ぼくは強いんだから、泥船を沈める気持ちで頼って良いんだからネ!」
と言って横に座るカイトの方へ急に声を掛ける水雨。
「そ、そっか。例えがちょっとわからんけど……よろしく」
「まっかせてヨ!」
そう言いつつ威張るように胸を張る水雨をそのままに、無空は何事も無かったかの様に話を続ける。
「五つの属性についての解説はこれで以上ですが、魔術の使用に関するとても重要な規則を提示します」
という言葉に合わせて電子モニターに表示されていたものが切り替わり、先程の文章のみが書かれているものになった。
「魔術を使用する場合は必ず『自身の組織に配属されている天使の名の下に』誓いを立ててください」
と言った事へ、カイトが質問した。
「あの、それって例えば俺だったら『水雨の名の下に』とか言うだけで良いんですか?それとも何か必要な動作があったりします?」
「はい、あなたの場合はその言葉で合っています。特に動作は必要ありませんが、配属天使の判断次第です」
と解答する無空に納得した様にカイトが小声で言った。
「なるほど、これから借りますよっていう宣言……『ちょっと消しゴム借りるわ』的な感じか……」
等とブツブツ呟いた後、少し離れた無空に聞こえる声量で感謝を伝える。
「納得しました、ありがとうございます」
「はい、では再開します。この宣言がされなかった場合、天使の管理外での魔術の使用となります。使用者は発見され次第、警護組織が捕縛致します。捕縛した後は内戦期間中に罪を犯した不埒者と同じく、内戦後に天界へ送られて薪の様に扱われる事でしょう」
静かに語られた大きすぎる代償を聞いて、その場の全員が必ず守らねばならない規則だと心に刻んだ。
「最後になりますが、内戦が本日から数えて七日間で終わらなかった場合は天界で燃料となる事もなく、この大地そのものからここで生きる小さな虫まで例外なく全て消滅します。ですが創造主たる御方はそれは望んでいませんし、人間としてもこの結末は避けるべきでしょう」
そうして全てを説明し終えた時、机に埋め込まれている電子モニターは電源が切られ、切られた事で全員の視線は自然と無空へ向けられる。当の無空はそのままの姿勢でこう切り出した。
「これでおおよそ分かったのではないでしょうか。そこでこれからの時間は事前に共有しておきたい事、決めておきたい事などがあれば発言する場とします。特にない場合はこのまま解散となりますが、何かある方はお早めにどうぞ」
と言われ、最初に発言したのはウォーマーだ。
「あの、単刀直入に言いますと、ウォーマー農業組合は他の組織と争う事を拒否します。組合員の多くは大切な家族や友人を亡くした傷はまだ癒えていませんし、一日をどうにか暮らしていく事がやっとの者ばかりで……その為、他の組織とは交戦せずに中立した立場でありたいのです」
そう語るウォーマーに対し、ドレイトが一つ尋ねた。
「先程あなたは中立でありたいと言いましたが、ウォーマー農場組合が中立になったとして他の組織に利益がありますか?もし無ければ中立ではなく、我々レリフィック教会が先制を取らせて頂きますが……」
「先制を!?こちらには交戦する力を人員もいない事はお話した筈ですが―――」
「はい。よく理解しています」
と釈然とした態度で返答するドレイトの後に続いて、オリフィアが口を開く。
「ウォーマーさんを始め、ほとんどのチョウ帝国民はご理解していらっしゃらないかと思いますが、我々の信じるレリフィアの教えは”苦しめる者たちへの救済”を根源としています。なので我々からすればウォーマー農業組合の人々は救済対象者となるので、真っ先に赴くのは妥当だと考えております」
丁寧に語られたその言葉に噓偽りは全くないが、他の者たちにとっては些か不審に感じた。レリフィック教の何たるかを知らない者からすれば、何をするかも不明なまま『救済』を謳い行動する集団でしかない。
ウォーマーは慎重に言葉を選びつつオリフィアに異を唱えた。
「あなた方の教えは分かりかねますが、少なくともウォーマー農業組合にはその救済というものをして戴かなくて結構です。もし利益が欲しいのならば、作物を各組織へ直接出荷しましょう」
という提案にカザキが割って入る。
「なるほど、それは確かに中立組織にしたとして十分過ぎる利益となる。内戦が始まれば、各組織の下層部同士を始めとして細々とした抗争が起こり、街での食料調達はリスクが高まるだろう。そんな状況では大所帯の組織である程この条件は必要になってくるだろうな」
「確かに、そのおじさんの言う通りですねぇ」
そう言って立ち上がったのはレイジだ。唐突に”おじさん”と呼ばれたカザキは眉間に皺を寄せたが、横に座るヤキリは茶化す様に微笑んでいた。
そんな彼らを他所にレイジは話を続ける。
「ここでも伝えられいたけれど広場でも宣言されていたから、帝国民は全員この内戦で決着が付かなければ全てが無かった事になると知ってる。更にはどこの組織にも属していない者が犯した罪はどんな犯罪でも逮捕されて、数日後には全員が天界へってありましたよね。
普通の思考を持ってる人間なら罪も犯さず一週間を安全に生きる事を選びますし、俺が組織に入ってなければそうしていたでしょう。しかし、変に考え過ぎた人間は”もうじき死ぬかもしれないなら暴れたい”とか”どうせ壊れる世界なら自分が壊してやる”とか考えるものなんですよ。
ともすれば、自営業が主体のこの国では多くの店が閉まり、開いている店に商品を求める人間が集まる。そして人間が一箇所に集まれば犯罪者にとって恰好の的になるわけです。言ってる意味が分かりますか?まだ続けましょうか?」
と、ここまで長々と一息に語るレイジはまだ語り足りない様子だが、それはカイトによって止められる。
「いい、もう十分だって。要するに、これから暴れるのは俺たちだけじゃないから食料調達は難しくなるし、そんな事にも気づけない者は帝国の未来は担えないって言いたいんだろ?」
「そういう事、さすがスマイリー!」
お気楽な声色で交わされる少年たちの会話だが、レリフィック教会への宣戦布告とも取れる発言である。当然ながらそれに黙っているドレイトではなかった。
「よく理解したよ、少年たち。我々はすべき事を無事に見出せた、感謝する」
「それはどうも」
というカイトの言葉が吐かれてから暫くし、ウォーマーが全体に声を掛ける。
「えー……それでは、ウォーマー農業組合は中立という事に異論がある方はいますか?」
その言葉の後に発言する者もなく、数刻が流れた。その様子に安堵したウォーマーは起立し、落ち着いた声色でこう言った。
「皆さん、ありがとうございます。作物の出荷は明日までには決定するので、これが終わってから必要な量を伝えて―――」
「いえ、その必要はありません」
と言って無空が言葉を途切れさせた。
「ウォーマー農業組合から人員を割くのではなく、警護組織の一部に配達部隊を作成し、作物の必要量を伝達し配達させるようにします。それでよろしいでしょうか」
それに対して各々は無言で頷いた。
ウォーマーが着席した後、無空が全体に呼び掛ける。
「それでは他に連絡がある者はいますか?」
それに反応する者はおらず、無言のまま暫くが経ち無空が再び話した。
「では、これにて対面式は終了となります。お帰りの際は組織同士での交戦せず、宮廷内では魔術を発動させない事を重ねてお願いします」
それから真っ先に席を立ったのはオリフィア達で、その後にヤキリ達、そしてウォーマー達も続いた。カイトらも帰ろうとした時、背後から声を掛けられた。
「よぉ、小僧達」
その低く大きな声は、カイトたちの一.五倍はあろうガドンが発したものだ。大きな体躯に圧倒されながらも、代表としてカイトが返事した。
「どうも……ガドンさんとザンドさんだっけ?」
「よう覚えとるばい!まだこまんかとに賢かなぁ!」
と豪快に笑うザンドだが、そのノリに付いていけないカイトはとりあえず笑っておいた。仮面の下は引き攣っているものの、仮面の方は見事に微笑んでいる。
「は、ははは」
そんなカイトに激励のつもりか、ガドンが強い力で肩を叩いた。当然、カイトはその場でよろめいた。
「おっとすまねぇ、同族のノリでつい叩いちまった。今の所俺たちはお前らに敵意はない、お互い生き残ろう」
「はぁ、そちらも頑張ってください」
と、肩を擦りながら弱々しく返答した。そんなカイトをそのままに、ガドンらは立ち去っていった。
それから程なくして、静観していたレイジはカイトに気遣いの言葉を掛ける。
「大丈夫?」
「うん、まぁ。何とかね」
と言った瞬間、水雨がカイトとレイジの前に泳ぐように飛びながらこう言った。
「痛いならボクが送っていこうカ?レイジも一緒に飛べるヨ?」
そう言われたカイトとレイジは幼い子供の様に瞳を輝かせた。空を飛べるという事に少なからず憧れがあったのだ。
「良いのか?俺たち重いかもしれないけど……」
「平気だヨ!ぼくの力を侮ってほしくないナ!」
と言ったかと思うと、いつの間にか水雨はカイトとレイジの背後に飛んでおり、細い腕で二人の脇に手を回す。そしてその細い腕から信じられない力で持ち上げられ、翼を力強く羽ばたかせながらこう言った。
「口はしっかり閉じててネ!」
カイトとレイジが返事をする間もなく水雨は飛び、開け放たれた扉を潜り、長い廊下や階段をも低い姿勢で飛び続け、あっという間に宮廷の上空へと飛び出た。
それから数十分程は空を飛んでいた三人だが、抱えられた二人が想像していた何倍もの荒々しさで一行は体育館へ着地した。その後カイトとレイジは具合が悪くなり寝込んだのは語るまでもない。
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