内戦 初期

第一話 「舞い降りた天使」

 ソ皇帝による演説が終わった直後、上空から六体の天使が舞い降りる。純白の翼を優雅に羽ばたかせ、無様にも口をあんぐり開けて座り込むソ皇帝の前に音もなく着地した。それが約数分程前の出来事である。

 そしてすぐに六体の中心に立つ白銀の天使は滑稽なソ皇帝には目も当てず、集まった民衆に向けて清らかな声を発した。

「まだ状況が分かっていらっしゃらない様なので、人間の習わしに則って”自己紹介”を行います。しっかりと記憶されますようお願い致します」

そう白銀の天使が言った後、一番端に立つ緑色の髪と薄黄緑色の瞳を持つ天使が一歩前に出た。

 少し癖のあるやや長い髪で左目を隠しており、その髪の隙間から垂れた耳が控えめに見え隠れする。折りたたまれた様に背中から生える翼は、やや下向きで横に広がる様にそこにある。

長袖の衣装とは対照的に裾は短く膝上までで、焦げ茶色のゆったりとしたズボンを組み合わせているといった格好だ。穏やかな瞳で集まる聴衆を見渡してから口を開く。

「僕の名前はもくせつ。偉大なる創造主様によって創られた植緑バターニカ ・天使アーンギルとして、内戦期間中は南東の管理を任されました」

と言って少し神妙な面持ちで言葉を続ける。

「南東の人々は今こうしている間も、集落中にチョウ帝国では治療不可能な病が蔓延していると創造主様から聞いています。なので、僕の能力を使って治療が必要な方を治しつつ、皆さんが食べられる植物をたくさん作るので、お腹いっぱい食べてくださいね」

そして木洩から柔らかい笑みが零れた。神によって創られたとは言え、人間と大差ない存在で親しみやすいのかも知れないと人々が安堵した。

 しかしそれも次に前へ出た天使によって崩される事となった。青藍の長い髪は足の付け根辺りで切り揃えられ、髪の内側は淡い水色をしている。髪を少し取って三つ編みにしたもので輪を作り、それを左右に一つずつ垂らしている。

髪の隙間から見える垂れた長い耳と同じく、背に生える翼も地面すれすれまで垂れている。四白眼の水浅葱色の瞳と吊り上げた様に笑った口が特徴的で、端正な顔立ちながらも狂気さを感じる。

肩先が隠れる程度の短い袖とやや深めのスリットが特徴的な薄水色の衣装を纏っただけの姿で、そこで更に人間とは大きな隔たりがあるようだ。

その天使が纏う空気は木洩とは全く異なる様に、飛び出た声や言葉も異質さを感じさせるものだった。

「ぼくの名前はみな。創造主サマから創られた大渦バダヴァロート ・天使アーンギルとしテ、人の子が集まってるところを任されてるんだけド―――」

と言って、舞台下の民衆を目玉をキョロキョロとさせて見渡し、人々の真上を飛ぶあの浮遊機器に向けて言葉を続けた。

「ア、ヤッホー!君たちの事だヨ、よろしくネ!」

明るい声色で手を振りながら語るが、民衆は何処に向かって話しているのか分からなかった。それと同時に、浮遊機器からの映像で体育館に集まるレジストリアのメンバーは驚愕の声を上げた。噴水広場へ飛ばしている浮遊機器には光学迷彩が施されており、たった数秒見渡しただけで見つけられるものではない。

 友好的な水雨を他所に、白銀の天使の横に並ぶ金髪が輝く天使が一歩前に進み出た。切り揃えられた前髪と柔らかく丸まった横髪をしているものの、顔の大半は黒いベールによって隠されている。吊り上がる様に横へ長い耳と同じく、折りたたまれた翼はやや吊り上がり気味で大きい。

 薄黄色の裾が長い衣装には深いスリットが入っており、袖のない部分や脚部の露出する部分を目の細かいチュール生地で包んでいる。チュール生地によって手足に薄く霧掛かった様にはっきりと視認出来ないが、薄く白い四肢が見え隠れしている。

ゆったりとした動きで舞台下の民衆に向け、外見の印象通りの声で言葉を紡いだ。

「ご機嫌よう、人間の皆さん。わたくしかなと申しますの。創造主様から創られた黄金ゾーラタ ・天使アーンギルとして、レリフィック教徒の皆さんを守護し管理するよう任されましたのよ。ここにいらっしゃるか分かりませんが、どうぞよろしくお願いしますの」

と優雅な立ち振る舞いで流れる様に語られ、すっかり聞き入った民衆は次の天使が前に出た事に気付かなかった。というのも、進み出た天使は他の天使と比べて小柄で、トーイ族の童子と言われても大差ない程の外見をしている。

 柔らかい栗毛色の肩までの髪が内巻きになっており、加羅色の大きな瞳は訝しげに舞台下の民衆を見ている。耳は小さい菱形で翼は小鳥の様に密やかに生え、亜麻色の衣装の下から着ているゆったりと長く幅の広い胡桃色の袖を前で組んでいる。

衣装の裾はスリットが深く長く足首まで段々と細くなっており、その下には黒鳶色で膝丈のフレアスカートを着ている。

幼い外見で愛らしい天使は小さな咳払いを一つし、民衆の注目したと確認してから話し始めた。

「余の名は”土を呼ぶ”と書いてつちと言う。創造主たる御方に創られた土壌ポーチヴァ ・天使アーンギルとして、南西のゴログ族の集落での活動を任された。余の外見が人間の稚児と近しい故に侮る事なきよう」

と、愛らしい外見と声で語られる言葉は力強くも凛々しいものだった。

民衆の大半は驚きはしたものの、賢い童子を見る様な雰囲気がそこにはあった。それを良しとはしない様子で土呼は顔をしかめたものの、民衆にはその真意は伝わらないらしい。

 土呼が話し終えたあと、次の天使が前に出た。短く赤髪だが横髪は肩のところまであり、毛先が跳ねる様に丸まっている髪質。切れ長で炎の様に明るい橙色の瞳と固く閉じた口許とで、あまり友好的とは言い難い雰囲気がある。頭に沿って上向きに生えた細く短い耳と同じく、背に生えた翼も上向きでやや短い。

五分丈の袖と短めの裾が特徴な薄紅色の衣装の下には、黒くゆとりのあるズボンは太もも辺りから脛までの前部分をスリットで露出している。

情熱的な色合いとは対照的に冷ややかな表情で民衆を見渡し、落ち着いた声で言葉を紡ぎ始めた。

「俺はせい。創造主に創られた火焔プラーミア ・天使アーンギル。配属はチョウ帝国北東にある結社。以上」

と言って、火晴の話は終わった。あんまりにも簡潔で無駄を省いた言葉に人々は呆気に取られていた。

しかし、そんな人間を待つ必要も気概もないと言う様に、白銀の天使が口を開く。

「そして最後に、私の名前はくうと言います。先程挙げられた組織に属さない全ての帝国民は私の庇護下となり、内戦期間中の生命維持は保障されます。もし抗争に巻き込まれてしまい、負傷あるいは死亡してしまおうとも日付が変わると同時にのでご安心ください」

そう言って一礼し、再び面をを上げた時に言葉を付け足した。

「なお、私の能力は不完全なものですので、負傷あるいは死亡が無かった事になろうともその事象に関する記憶は残ります。悪しからずご了承ください」

まだ口をぽかんと開けている民衆に向けて、無空は再び語る。

「話は戻りますが、創造主たる神はこのチョウ帝国が破滅、あるいは滅亡してしまう事を危惧しています。なので、そこの男はこれより皇帝の座を剥奪され、そこの男によって公布された法は全て無効となります」

という言葉を聞き、人々は目を丸くして互いに見つめ合い、一様に歓喜の声を上げる。それは電子モニター越しに見ていた者も同じで、感激のあまり泣き笑いする者も少なくない。

 しかし、そんな感動的な状況で一人だけ別の感情を持って身を震わせている者がいた。顎下の弛んだ肉をぶるっと揺らし、目の前の澄まし顔の天使たちを太い指で差しながら声を荒げる。

「何でお前らにそんな事言われなきゃなんだよぉ!ボクは皇帝だぞぉ、一番偉いんだぞぉ!お前ら何者なんだよぉ!!」

それを聞いた顔を金陽が一歩前に出て、微笑を讃えてソ皇帝の前に歩み寄った。

ソ皇帝の目の前で足音が止まって数秒の間があり、ベールの向こうから美しいソプラノの声がゆっくり語り掛ける。

「私たちは人智を遥かに凌駕した尊き御方に創られた存在であり、俗世では”天使”と呼ばれておりますの。その中でも、水・金・地・火・木の五属性をそれぞれ最高位の存在として司る私たちと、第二の神と謳われ全てを無効化させる力を持つ大天使。その全員があなたの前にいますのよ」

とすらすらと語ったが、目の前のソ皇帝は口を開けたまま返事すら出来ないでいた。そんな彼の脂汗が滲む顔に向かって前屈みの姿勢で顔を近づけ、金陽は話を続ける。

「あなたのゼリーの様に滑らかな脳ではこれも理解出来ないかも知れませんが、あなたの理解力に合わせて全て説明して説得させよとは命令されていませんの。ちなみに、これからこの大地であなたの生存が許されているのは、あなたが価値を堕とし辱めた宮廷の中だけになりますのよ。今まで通りなのできっとでしょう?喜ばしい事ですのね」

そう言って顔を上げて元の場所へ戻っていく。その後ろ姿を見て、ソ皇帝はハッと気を取り戻し、口汚く罵り叫んだ。

「な、なんだよお前!そんなペラペラ喋りやがって、ちょっと頭良いからって気取ってるのか!?お前みたいな女が人を誑かすって知ってるぞ、最高に頭良いボクは騙されないからな!!」

それに対し、暴言を吐かれた黄金の天使は釈然とした態度で顔も向けずに答えた。

「天使の頭脳を人間の物差しで語られては困りますのに、それすらも理解いただけないなんて。お可哀想に」

「か、かわいそうだと!?誑かす次はボクを悪く言っているのか!なんて無礼者なんだ!!誰かこいつを捕まえてしまえ!早く!!」

などと叫びのたまうソ皇帝の姿は誰の目にも愚かに写っていた。そんな命令を聞く者はもはやおらず、彼が肥え太った身を捩りながら体勢を変え、舞台下の民衆に向かって暴言を巻き散らそうとした時。ソ皇帝の背後には無空がいた。

無空は沈黙のままソ皇帝の頭上に手をかざしたが、惨めに喚く男が気づく事はなかった。

「こんな訳わからん奴らがやってくるのも、ボクに向かって一方的に意味不明な話されるのも、もう何もかもお前ら愚民のせいだ!お前らがどうにかしろ、ボクはもう帰るぞ!」

そう言って両手を床に付き、贅肉で重い下半身を持ち上げようとした瞬間。その肥えた肢体は立ち上がる事無く床に倒れ込んだ。先程までソ皇帝の頭があった場所付近に手を置いていた白銀の天使の手から白い靄の様なものが溢れており、程なくして霧散した。

崩れ落ちたソ皇帝の姿はまるで籠に丸めて投げ込まれた衣服のようで、微かな呼吸だけがその身を動かしている。白銀の天使は突き出した手を戻し、集まった民衆に向かってこう語った。

「これからあなた方は自由の身となります。この男がチョウ帝国で生存する全て存在に対して危害を加える事は不可能となりますが、どの組織にも所属していない者同士での傷害、殺傷行為等は全て個々人へ処罰が下ります。対象者は私が発足させる警護組織によって身柄を拘束、内戦期間終了まで牢へ入れた後に天界でとなっていただきます」

淡々と語られる中に見え隠れする慈悲深くも冷淡な言葉から、これを聞く人間は少なからず身が凍った。

 無空の言葉をからして、組織に属さない国民は内戦期間中に争いを起こさずにただ生きる事を推奨されている。しかしそれに反して、他者を傷害や殺害した者は不自由な生活となり、その先が予想できない恐怖があった。

 この事に気づく人間であれば生存し、新しくなるチョウ帝国で人生を送る事が許される。もし気付けない者であれば数日足らずで罪を犯し、後のチョウ帝国を拝む事も叶わぬだろう。という極めて合理的な規則を始めに宣言する事によって、残るべき人間を選定しているとも言える。

 先程の宣言を民衆のほとんどが理解出来たと分かった土呼は、無空の後に続くように言葉を畳み掛ける。

「今回の事象により誕生した五つの組織同士が争い、組織の全滅あるいは降伏によって勝敗を定める事とする。そして最終的に勝利した組織の長をチョウ帝国の最高責任者となり、チョウ帝国の未来を決定する権限を得られる地位に就く」

そしてそこに水雨が続けた。

「五つの組織にはそれぞれ天使が配置されて、それぞれの天使が得意な魔術を組織の人間が使用する事が出来るヨ。ちなみに、組織の長は質の高い魔術を扱う為になるべく天使と一緒に行動してネ」

と、誇らしげに語った後に火晴が短く宣言した。

「期間は今日から七日間。期間延長なし。もし七日目に勝敗が決さなければチョウ帝国は無へ還り、新たな”チョウ帝国”が創造される」

その後に木洩が続いた。

「創造主様は未来を作るべきチョウ帝国民が減る事を危惧しておられます。なるべく組織外の人間同士による争いは避け、何か問題が起きた場合は宮廷に配備されている警護組織に通報してくださいね」

最後に金陽が付け加える。

「なお、ソ皇帝はこの争いが終結するまで傍観者として生き続けるものとし、終結後は罪人と共に神の袂へ送られますの」

柔らかな声で語られた後、締め括る言葉を無空が言う。


「それでは皆さん。良い余生を」


 その言葉を合図に天使たちは飛び立ち、後に残ったのは宙を舞う純白な羽と舞台に倒れ込むソ皇帝だけであった。

集まった人々はこれを身内と話すべくすぐに解散し、宮廷に仕えている者は力を合わせてソ皇帝の重い肉体を運び出した。この噴水広場がここまで賑わったのは彼の皇帝が存命の頃以来である。



 そして時を同じくして、六体の天使が向かったのはそれぞれ配属先の長たる人物の下だ。水雨はレジストリアが集まっている体育館で、金陽はレリフィック教会へ行き、火晴は無幻結社の会議室。土呼はガドン宅へ、木洩はウォーマー宅へ行き、無空は宮廷の兵舎へと着地した。

ここでは特に印象的だったレジストリアの視点から描写しよう。


 仮面を付けた少年少女が集う体育館では、とある異変が起こっていた。というのも、噴水広場での騒動が終わってすぐに飛ばした浮遊機器は何者かによって奪われ、物凄い風の音と共に景色が次々に流れていく映像を映しているのだ。

 皆一様にスクリーンの映像を電子端末に記録したり、近くの者と口々に会話したりなど賑やかさ。それは体育館の前方に集まる幹部たちとリーダーのカイトもそれは同じだ。

カイトとサキ、メイとレイジとで席が少し離れている為、メイとレイジは二人の席に自然と集まった。集まって早々に口を開いたのはレイジだ。

「いやぁ、まさか天使が降りてくるとはなぁ……しかも六体とか、キャラ濃すぎだろ?」

と言って頭を抱える様な仕草をし、それに対してカイトはそのままの姿勢で同意した。

「あれは誰にも予想出来なかっただろうな、めちゃくちゃビックリしたし。みんなで集まって良かった、俺だけだったら驚き過ぎて暫く放心してただろうな」

「その時は任せて」

と間髪入れずにサキが答え、小突く様な動きを何度かやって見せた。

「あぁ、その時は頼もうかな。たぶん来ないかもだけど」

「これからあるかも知れないでしょ、例えばさっきの天使が―――」

とメイが話している途中で体育館の入口から大きな衝撃音が聞こえてきた。しかもそれは一度だけでは収まらず、金属製の扉を壊すつもりでそれが可能な力で物理的な衝撃が数度与えられている。

 当然ながらこの場にいる少年少女たちは雑談も止めて静まり、やや余裕のある者は電子端末で入口を動画撮影している。ちなみにカイトは仮面の下で口をキュっと結び、動きがピタリと止まったまま動かない。この時ばかりは仮面のお陰でリーダーとしての威厳が保たれた事だろう。メイやレイジ、サキは特に大きく反応する事もなく入口をじっと見ている為、仮面越しからは無反応に見えるカイトもまた冷静そうに見えるのだ。

 徐々に大きく変形しつつある扉は段々とその形を変え、やがて力任せに開けようとしている者の姿が見え始める。断片的な情報とは言え、この場にいる者にはそれが誰なのかすぐに分かった。

凄まじい衝撃音と共に扉だった金属板は音を立てて倒され、暗がりから何者かが歩いてくる。

 ペタペタ、とゆっくりと確実に進む足音の主は純白の翼を床すれすれまで垂らし、青藍の長い髪を揺らしながらまっすぐ歩いてくる。天使の右手には大きく変形した浮遊機器が握られていたが、数歩進んだところで無造作に床へ捨てられた。

 口許はにへらと笑い、水浅葱色の瞳で少年少女をキョロキョロと見ながら進み、やがてその歩みはとある人物の前で止まった。

そこは当然、リーダーであり現在硬直している事をひた隠ししているカイトの前だ。

友好的なのか挑発的なのか分からない笑みを浮かべ、その天使は溌溂とした声で挨拶する。

「えーっト、確かコンニチハ!だったかナ、人間の挨拶ハ」

しかし、硬直したカイトはすぐに返答出来なかった。それに気付いたサキは椅子の上に立ち、カイトの頭に目掛けて拳を作り構えた。

「えいえい」

という可愛らしい掛け声と共に小さな拳が空を切る。しかしそれでもカイトは動かない。あまりにも返答までが長い為、目の前の天使は大きく首だけを傾げさせた。

これ以上待ってもいられないと思ったメイはレイジに目で合図し、小声の掛け声と共に二人はカイトの背中に向けて平手を打った。

「……せーの」

パァン!という音と共にカイトは勢いよく椅子から立ち上がった。状況がいまいち掴めていないカイトを助ける様に、メイがやや投げやりに話を振る。

「スマイリーったら、あの爆音の中よく。ほんとソンケイするわー」

「全くだよ、どんな時でもどっしり構えてくれる我らがリーダーにマジ感謝ー」

と、レイジもメイの話にノッた。そしてサキもこう言う。

「リーダーかっこいー」

その言葉をきっかけにしてか、集まったレジストリアのメンバーの中で不思議と納得や称賛の声が上がった。ただ放心していたカイトは次々と上がる歓声に驚いたものの、自分がすべき事は分かっていた。

「やぁ、これからよろしく」

と言って水雨に向かって右手を差し出した。その手をまじまじと見た水雨だったが、やがて理解したのか力強くカイトの手を握った。

「もちろン、よろしくネ!」

そして大きな歓声が上がった。水雨はなぜここまで少年少女たちが喜んでいるのか分からないが、この場の勢いで何となくという感覚だけで巻き起こる歓声である為、水雨でなくとも付いていけない者にはよく分からないものだろう。

ケタケタと口角を上げて握った手を思いっきり振る水雨に、カイトは疑問に思っている事を訊ねる。

「ねぇ、水雨……さん?」

「水雨で良いヨ!君の名前ハ?」

「俺はスマイリー。この顔の通りさ」

と言って空いている手で自分の仮面を指差した。

「へェ、人間の間ではそう言うんだネ」

「そう。でさ、ちょっと訊いても良い?」

「良いヨ!答えれるものだけ答えるかラ、とりあえず何でも質問してミテ!」

と言って瞳を輝かせた。そんな水雨に至極真っ当な事を訊ねる。

「いつまで握手してれば良い?あと何か大事な用があったんじゃないの?」

カイトにそう言われ、水雨はハッとした顔で手の動きを止めて声を上げた。

「アッ!そウ、怒られちゃうとこだっタ!」

と言った水雨は深く深呼吸して気分を落ち着かせた。先程と同じような表情ではあるものの、纏う空気は人間に到底作り得ないものだ。

そして発せられた言葉は同時刻に別々の場所にいる天使たちにも共通し、各組織の長たる者と対面し各々の言葉でこう伝えた。


「これより宮廷で各組織との対面会を行う。組織の長たる者とその補佐は天使と共に集合せよ」

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