第二章
第1話 不定期校内公演と座談
しばらく、色んなクラスで不定期だが、同じネタをやったり、新ネタを披露したりした。
こうして、少しずつ、お笑い研究部の学校での知名度は上がって行った。
「知名度上がってきましたね。」
小村が言った。
「そうね。」
と、桐ケ谷が返した。
「気を付けねばならないのは、あくまで学校での知名度よ。」
と、高野は言った。
「そうだけど、学校の知名度の他にどこで、知名度を上げたいの?」
「そうね。これは将来の夢の話になるんだけど。」
「うん。」
「将来の話、小村君に話すの?」
と、桐ケ谷は言い、
「ええ、小村君には知っとってほしくって。」
と、高野は言い、そして話を続けた。
「私、コメディアンヌになりたいの。」
「えっ、そうなの。」
「最近、テレビを見てても、本当の日本のコメディアンが減っていると思うの。」
「成程。」
「私、テレビだけじゃなく、舞台や、映画で活躍する、コメディアンヌ、女優になりたいの。」
「へえ。けど、コメディアンヌと女優は別じゃない。」
「私は両立したいと思って居るわ。だから、私、頑張ってるの。」
「へえ。」
「女版森繁久彌ね。」
「森?久彌!」
彼女は熱いと、小村は思った。僕にはそこまでの将来に対しての熱意がない、と小村は思った。
「僕は高野さんの夢に高校までは手伝えれるかな。」
と、小村が言うと、
「・・・、そう。」
と、高野は少し寂しそうな顔をして言った。
ところで、と小村は言った。
「高野さんはどこの中学校なの?」
「私?私は徳陸中学校よ。」
「へえ、市内なんだ。」
彼女は、市内出身である。市内には他にも高校はあるのに、彼女はなぜか、わざわざここまで来ている。
確かに、高校の住所は市内にあるのだが、高校の校門だけが、市内に属し、残りの敷地は郡というぐらい市内の僻地である。
「どうして、ここまで来てるの?市内じゃあ、他にも高校があるのに。」
「その時、偏差値でこの高校が公立で二番目に高かったからよ。」
「ああ、そうなんだ。」
「決して、人間関係がドロドロしているから選んだ訳じゃないわ。」
「あはは・・・。」
自分の書いたネタを言われたら、嬉しい様な、恥ずかしい様な、要するにあんまり笑えない。
「次はどこでする?」
と、桐ケ谷は言い、
「そうですねえ。次は校門でしますか。」
と高野は言った。
暫く時を経て、
お笑い研究部は校門で漫才をしてみた。お笑い研究部の旗をたてて。
「お笑い研究部でーす。今から、漫才しまーす。」
「おお、これが噂のお笑い研か。」
「見てってくださいねー。」
「はーい。」
「いやー最近どうですか、桐ケ谷先輩」
「最近は、2年生も半分すぎて、もう3年生が視野に入ってきたよ。」
「そうですねえ。3年になると、受験が近づいて嫌ですね。」
「もう一度、2年生したいなあ。」
「留年すれば、もう一度、2年生出来ますよ。先輩。」
「おい、留年なんて、私はしない。」
「そうしたら、私と同級生になるぞ。桐ケ谷。」
「こら、美華、ため口と呼び捨てをするな。」
「まあ、確かに2年生はいいですよねえ。後輩も出来て、鬱陶しい先輩も居なくなって。」
「おい、今の鬱陶しい先輩とは私のことじゃないだろうな。」
「そんなことないですよ。鬱とし先輩」
「言っているから。今、鬱としって言ってるから。」
「さて、冬も始まって参りました。」
「そうだな。」
「もうすぐ、閉会式ですね。」
「いや、終業式な。何の会をやめるのさ?」
「会社を辞める。」
「なに、変なこと言ってんだよ。」
「終業式かあ。なんか、思い出ありますか。」
「いや、終業式にそこまでの思い入れはない。」
「私は有るんですよ。」
「ほう、どんな?」
「やっと、嫌な同級生、先生から解放されるっっ。」
「いくら、校門の近くだからって、校内なんだから。」
「今、私、校外にいます」
「え、ほんとだ。」
「校外といえば、最近、公害の社会問題が。」
「急に社会問題の話が。」
「プラスチックとかね。」
「マイクロプラスチックとか。」
「酸性雨とか。」
「うんうん。」
「最近だと、私の近くでもありましてね。」
「ほう。どんな?」
「先輩の秘密なんですが、私の近くだと、先輩はとっても色っぽいんですよ。」
「おい、何、口外してんだよ。」
「演劇の一環らしいんです。」
「まあね。」
「終業式も終わると、そろそろ卒業式ですね。」
「そうだな。」
「卒業と言えば、先輩は何から卒業したいですか?」
「そうだな。うちのゴミを捨てたいかな。ゴミが溜まっているから、ゴミから卒業したい。」
「となると、今年の卒業式は楽しみですね。」
「どうして?」
「先輩が卒業するから。」
「おい、私をゴミ扱いにするな。」
「有難うございました。」
校門の周辺からパチパチと音がした。
「面白かった。」
「面白かったわ。」
「うんうん。」
等々である。評判はなかなか良かった。
「じゃっ、気を付けて帰ってくださいね。」
と、二人は、帰る生徒達を見送った。そして、二人は、お笑い研究部の部室に戻った。
「お疲れ様です。どうでした?」
「上々ね。ね、美華?」
「そうですね。」
「それは良かった。」
「これも、しっかりした脚本を書く小村君のおかげよ。」
「いやあ、そんな。」
小村は照れた。
「しばらくどうする?」
「そうですねえ。不定期で、校内で公演をしたいと思います。小村君は大変と思うけど、新ネタ頑張ってね。」
「え、あ、はい。あの。」
「何?」
と、高野は小村に聞いた。
「しばらく、校内でするなら、小道具準備するの大変だと思うから、漫才ネタでいい?」
「うーん、そうねえ。」
「ゴクリ。」
と、小村は飲み込んだ。
「いいわ。お願いします。」
と高野は言って、小村にチョップした。
「はいたっ。」
はい、とあいた、がまじった。
「ふふふっ。」
と、高野は笑った。
「じゃあ、私達、今日は演劇部の練習があるから。じゃね。」
「あ、はい。」
高野達は演劇部に行って、小村は文芸部に行った。
文芸部に行くと、
「ねえ、ねえ、小村さ。」
文芸部の女子が近づいて来た。
「何?」
と、小村は聞いた。
「あんた意外とやるのね。」
「やるって何を?」
「お笑い研よ、お笑い研の脚本あんたが書いてんでしょ。」
「ああ、まあね。」
「あんな面白いの作れるって、文芸部で評判なんだから。」
「まあ、二人の演技がいいんでしょ。」
「そうなのかな?」
「そうだよ。」
二人に比べれば、僕なんて・・・、と小村は思った。
「そんなことないぞ。小村。」
「部長。」
文芸部の部長。尾道圭。
高野に負けず劣らず、熱い男子である。
「お前が、しっかりした、脚本を書いたから、彼女達は、しっかり芝居が出来たのだ。お前のおかげの部分も必ずある。」
「あっ。」
ふと、高野の言葉がよぎった。
「『これも、しっかりした脚本を書く小村君のおかげよ。』」
「そうか。そういえば、そう言ってたな。」
「そうか、言ってたか。」
小村の背中を、尾道はバンバン叩いた。
「わはは、俺も小村に負けぬように、小説の投稿原稿頑張ろう。」
「部長・・・。」
「なんだ?」
「ズボンのチャック空いてますよ。」
「え??、あっ!!」
文芸部達は、クスクス笑った。
しかし小村は尾道のお陰で、少しだけ自信がついた。
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