第19話 生徒会再検査
生徒会再検査当日、その日は学校全体がその話題で騒がれていた。校内のあらゆる掲示板にはその張り紙が固定されており、言うなれば、これではまるで選挙である。
といっても、行うことといえばせいぜい帰りのホームルームで投票をすることくらいだ。授業が終わるとクラスメイトは全員席に着き、そうしてついに再検査が始まる───。
「……」
俺は受け取った紙に書かれた、神谷 志穂に丸を付ける。検査前からそうしようと決めていたから、丸を付けるのは人並み以上に速い。
すぐに後ろから紙は回収され、そうしてすべては、後の祭りとなった。
翌日、その日は朝の全校集会にて、再検査の結果発表が執り行われた。体育館ステージの上では副生徒会長の宮代さんが立ち、その集計結果を読み上げる。
「結果は───氷室 涼音が305、神谷 志穂が324」
……それは静かに、本当にあっさりと、読み終えられた。
その瞬間生徒達の間からはパチパチパチと拍手が起こり、その渦の中に俺は彼女───神谷さんを見つけた。
その横顔は、やはり時間の止まった空間のように、固まっていたのだった。
2
「神谷さん!」
集会が終わり、俺は彼女の名を呼んで駆けつけた。
「須藤くん、見ていてくれましたか?」
「うん。良かった……本当にヒヤヒヤしたよ」
「ええ、接戦でした……」
二人して安堵の声を漏らすと、俺達の視界に見覚えのある人物が一人、やってくる。
「……」
その顔を見た俺は、対面する姿勢で彼女を迎える。すると神谷さんが、先に口を開いていた。
「氷室さんですね。良い戦いでしたよ」
「……。そうね、あと一歩で息の根を止められたのに」
蛇のような眼光で捉え、氷室さんはそう言った。まるで氷の具現化のようなその態度は、どこか神谷さんと似たところがある。氷と氷は、どこまでぶつかり合っても溶けることはない。ただお互いを冷却させ、その在り方を維持させるだけだ。
「神谷さんといったわね。悔しいけど、今回ばかりは私の敗けよ。……けど、次は徹底的に、堕とすから」
ギラリとその双眸を光らせ、彼女はその長い髪を翻し立ち去った。負け惜しみにしては恐ろしく、これではまるで脅迫だ。
「彼女は───似ていますね」
「え?」
「私に似ています。飢えた野心は、狂気にさえ見て取れて、ただひたすらに燃え上がる───私の在り方に、そっくりです」
そう評価する彼女は、どこか誇らしげであった。まるで、そう───良い好敵手と、巡り会えたとでも言わんばかりに。
「面白い方です。……何度来ても、捻り潰してみせましょう」
「こ、こええ……」
───それが、生徒会再検査というイベントのエピローグとなった。
3
───ここまでの日々を過ごしてきて思ったが、日に日に神谷さんは『変わってきている』。それはまず間違いない事実であろう。
最初の頃はそれこそ来る者拒み、冷たくあしらうような態度が、ここへきて良い方向へと向かってきている。
皆で作った調理実習のカレーを食し、彼女は美味しいと微笑みかけた。
休日の買い物の終わりに、彼女は自身の境遇を打ち明けてくれた。
誘ったカラオケでも、彼女は純粋に楽しんでくれた。
そして生徒会再検査という戦いの果てに───彼女は自身の好敵手を、称えた。
やはり間違いない。神谷 志穂は、揺らいだ。それは彼と彼らの……大きな進歩といってもいい。須藤 日向の努力であり、会の彼らの暗躍であり、宮代 縁のサポート。それらが束になって突き動かし、変わりに変わって存在しているのが今の神谷 志穂なのだ。
そうして彼らは……第三のフェイズへ歩み出す。
───彼らの目指す、ゴールに向けて。
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