第14話 裏お茶会

「俺の名前は賀山 佐助かやま さすけ。会を取り締まるリーダーだ」


落ち着いてきたこの会の連中は、ようやく俺に自己紹介を施してくれた。最初に名を名乗ったのは赤毛の目立つ男子生徒だ。……どうやら、彼がこの会のまとめ役らしい。


「では、次は僕から。土屋 雄大つちや ゆうだいです。……特技は、パソコンでしょうか」


眼鏡をかけた男子生徒が続いてそう名乗ると、今度は茶髪の……この中ではトップに騒がしい男子生徒が自己紹介をし始めた。


「で!俺が永瀬 ながせ しょう!自称カリスマ性に満ちた流れ星だぜ!」


「自称って言ってるよこの人……」


俺の虚しい言葉を掻き消して、永瀬は子どものようにはしゃぎ出す。……このテンションはどこからくるんですか?


「……で、あたしは黒田 瑠璃くろだ るりねー。しゅ───特技は尾行」


「趣味って言いかけた?」


「───は?言ってないっての」


完全に言おうとしてた……。


そんな黒田さんを置いておき、賀山くんは俺にも自己紹介を促す。一応礼儀として、名乗るくらいのことはしておこうかと思い俺は従った。


「……須藤 日向。まあ、須藤って呼んでくれたらいいよ」


「了解だぜ齋藤!よろしく頼むな!」


さっそく名前を間違えて呼び出す永瀬くん。今度どうやったら須藤を齋藤と間違えられるのか、講義を開いてもらいたい。


「それで、須藤とやら。お前はなぜにこの会に足を踏み入れた?───その目的を問おうか」


リーダーらしく疑問を投げかけてきた賀山くんに、俺は答えに戸惑いながらも口を開く。


「……宮代さんが行ってみろって勧めてきたんだ。同じ種類の人間がいる───とかなんとかって聞いてさ」


「つまりはお前も、神谷さんの笑顔を求めている人間の一人……というわけか」


「まあ、友達としては見てみたいな。───やっぱり、」


ドガシャーン!!と、いきなり椅子から転倒し出す賀山くん。


「……貴様、あの神谷さんと───ともだ、ち……!?」


「この流れさっきも見たからもういいって!」


鋭い突っ込みを放つと、頭を撫でながら賀山くんが立ち上がる。……そのうち頭割れるぞ。


「……ていうか、本当に喋ったことないの?ここにいる全員?」


「そうですね。……なにせクラスも違えば、会う機会すらありませんから」


俺の疑問に土屋が残念そうに呟いた。


「いや、でも休み時間とかには会いに行けるだろ。神谷さんだって別に、自分のことを好きな連中のことを無下に無視とかはしないと思うよ?」


「どうかなぁ!?コミュ障が邪魔して上手く喋れないかもしれんぞ!?この場にいる全員が!」


激しく主張してくる永瀬くんに、他の連中もウンウンと頷き始める。……なんだかそれを見ていると、一つの考えが浮かんできた。


「……あのさ、要するにこの会って───『ファンだけどコミュ障だから上手く喋れない奴らの同好会』……ってこと?」


ズガッ!


俺の読みに反応し、今度は黒田さんが、机に自身の頭を容赦なく叩きつけた。


「……馬鹿なっ!どうしてあたしらの正体がわかったの!?一体、どこに穴が───!」


おでこを赤くし、彼女は叫ぶ。……だいぶ前から気づいてましたよ。


「言うじゃねーか須藤とやら……。あとそれあんまり言うな。メンタルに入るから」


賀山くんがカッコつけて口走るが、絶妙にダサい。……これがリーダーなのだから、やはり下も小物達だった。


「ちなみにさっきは何をしてたか聞いてもいいか?」


俺は気になっていたもう一つのことを確かめた。……先ほど、俺が初めてこの部屋に訪れたときのことだ。


彼らは部屋の中央を囲って椅子に座り、催眠にかけられたかのごとく死んだ目つきで何かの呪文を口走っていた。……まさかアレも、活動に関係したことだったのだろうか?その問いかけには、土屋くんが答えてくれた。


「……ああ、あれですか。あれは、あまりの神谷嬢への接近のできなさに絶望した挙句に取った最終手段───我々にコミュニケーション能力を授けよ!と、悪魔達に向かって契約をしていたところだったのです」


「聞かなきゃ良かった」


ということは結局───彼らは単なるファンクラブに過ぎないといったところか。なんだか空振り三振した気分に浸っていると、今度はまた一つの疑問が生じた。


───なぜ宮代さんは、俺をこの場所に導いたのだろうか……。一体、何をさせるために。


「……」


考えたところでわからない。……まあ彼女の意図はさておいて、本題はここからだ。


「……とりあえずさ、ここに来た以上、手は組みたいとは思ってるんだ。───俺と一緒に、神谷さんの表情を崩してみないか?」


「……し、しかし───俺達は喋ったことすらないんだぞ?」


賀山くんの弱気な返事に、俺は頷いてから口を開く。


「いや、三人揃えば文殊の知恵って言うだろ。……そして今はここに五人いる。───文殊どころか、妙案だって思いつく頭数になるはずだ」


少々強く出てみることにした。頼りになるか、戦力になるかはわからないが、それでも宮代さんが蒔いてくれたチャンスの光なのだ。使い道は、あると思う───。


「それに、さっきの自己紹介で言ってたよな?土屋くんはパソコンが得意、黒田さんは……まあその、尾行が得意なんだよね?そういうのも、武器の一つには必ずなると思うんだ」


「僕のパソコンでですか?」


「パソコンはまだしも、尾行がなんの武器になるってのよ……」


二人が疑いながら自信を無くす。……が、俺はそれでもその背を押した。


「それはこれから考えるってば。……とりあえず、まだ諦められないよ。俺と皆の目指すゴールは一緒なんだ」


───全員を見渡して、俺は茶会の主賓に成り上がりそう宣言した。その俺の選手宣誓に、その場の誰もが目を向ける。


「……そのゴールに、行けるのか?」


賀山くんの言葉に力強く頷く。


「行ける。そのための───全員が揃った、会なんだろ?」


「須藤───」


そうだ。彼らを束ねるのは、団結させるのは、神谷 志穂という無表情の女神への挑戦だ。……その高い高い、高すぎて果てすら見えない挑戦が、戦士達を動かすのだから。


ここから始めてみせよう。



「───神谷さんの無表情を壊してみる計画を」

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