第4話 休日!前編

からっとした太陽の日照りに、うだるような暑さ……蝉の大合唱が、夏の空気を醸し出していた。


「……あつー」


片腕で顔に浮かぶ汗水を拭い、俺は炎天下の道路を歩く。もう少しで夏休みだという手前、最後の日曜日に俺はショッピングモールに向かっていた。目的は、本屋だ。


一応進学を目指している身なため、参考書の一つや二つは持ち合わせておかなくては、と思ったのだ。二年の夏休みは勉強に専念しろと親からも言われているので、一応の勉強精神は出すつもりである。


───にしても、この暑さは異常だ。ショッピングモールに到着したら、どこか適当なベンチにでも腰掛けようか……そんなことを漠然と考える。


入道雲をぼんやりと眺めつつ歩いていると、やがて目的地へと辿り着いていた。


日曜日の昼下がりのショッピングモールは、予想通り人混みに人混みを加えたような賑やかさであった。天気も良いため、絶好の買い物日和には間違いない。見渡せば、老若男女様々な人間が練り歩いていた。


とりあえず自動販売機で購入したりんごジュースを手に、ショッピングモールの一階中央のベンチに腰掛けた。背後には噴水が上がっており、そのサイドには木が植えられている。見上げれば晴天を反射するガラス窓が、眩しくその白を辺りに照りつけていた。


「……」


ぼんやりとジュースを口に付け、一口を呑む。このまま動きたくないなぁ……とか、そんなことを考えるには最適な雰囲気だ。


リラックスにリラックスを重ねたような体勢でそのまま座り込んでいると、人影が目の前に動いた。それはこちらの顔を覗き込むと立ち止まり、そのまま見下ろしてその瞳を向けていた。


「……見覚えのある顔だと思えば、須藤くんではないですか。こんにちは」


「……」


「須藤くん?」


「……ん?」


───なんだ、この美少女は……。まるでどこかの芸術家の絵画から抜け出してきたかのような、神秘的な色を閉じ込めたかのような瞳だ。


シンプルな麦わら帽子は少し大きめで、彼女のような小顔にはやや余ると感じる。普段の制服ではなく開放的なワンピースは、白と青の調和の取れたデザインで、彼女の細身に合うすらりとした真っ白な脚が垣間見える。……ていうかこの子、



「───きゃ、きゃみやさん!?」



神谷さんだった。


「神谷さん、です。……休日に会うのは初めてですね。何かお買い物ですか?」


「あ、いや、えっと……ちょっと、参考書を」


「参考書?……ご自宅でお勉強ですか?それは偉いですね」


「まあ、帰宅部だし……勉強でもしとこうかなーってね。神谷さんは?何か買いに来たの?」


「はい。お洋服を」


「そうなんだ。へぇぇぇぇぇぇ……」


思わず凝視してしまう。さっきも説明したが、本当にオシャレなコーディネートである。シンプルイズベスト、という言葉に綺麗に当てはまったようなその容姿は、色々と着こなすよりも遥かに綺麗に見える……。まあ、その大体が神谷さんの持つ元々の魅力なんだけど。


「……ジロジロと見ないでください。恥ずかしいです」


「あ、ごめん……。似合ってるなぁ、と思ってさ」


「……そう、ですか?それは、ありがとうございます。しかし、今日は新しい物を買いにきたので、心機一転する予定です」


これ以上オシャレを求めるつもりか……死人が出るぞ。まあそれはさておき、俺はふと考えた提案を口にした。


「そっか。……あ、じゃあさ、俺の参考書を一緒に探してくれないかな?俺一人じゃ、上手い具合の物を見つけられそうにないから。あ、もちろん時間があればでいいんだけど」


「……私がですか?本人が探した方が良いかと思いますが。私でよければ、いいですよ」


「本当に?ありがとう!」


「───ただし、等価交換です。私があなたに協力するなら、あなたも私に協力をしてください」


「……えっ?協力───?」


突然にそう持ちかけられるが、俺が彼女にできることなどあるのだろうか……。完璧の二文字に生きる彼女と、平凡の二文字に溺れる俺では、とても釣り合いなど取れなさそうだが。



「ええ。───私のふぁっしょん選びを手伝ってほしいのです」



言い慣れていない横文字を口にし、彼女は無機質な顔でそう要求するのだった。


【得点】 須藤1 神谷2 (変動なし)

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