第2話 作戦②お昼休み!

お昼休みだ。大体の生徒はこの時間帯に購買にパンを買いに行く。その波に乗って、俺もチャイムと同時に便乗するように教室を出ようとした。


「……え?」


すると、俺の視界に本来ならありえない人影が揺らぐ。見れば、あの彼女───神谷さんが財布を片手に教室を出ていこうとする光景が。


「あの神谷さんが、購買のパンを……?」


完璧主義、超人基質の彼女は、当然のごとく毎日手作り弁当を持参していた。……なんだ、これは───何かの不具合が起きているとでもいうのか?


気になった俺は、思わず彼女に声をかけていた。


「か、神谷さん……今日は購買なんだ?」


「……ええ。朝は時間が無かったもので」


「そうなんだ。───珍しいよね」


「珍しいですね。では」


会話終わらすのはえぇぇぇっ!


ショックのあまり窓から投身しそうになったが、気を取り直して俺はめげずにさらに疑問を投げかけた。


「ちなみにさ……昼の購買ってありえないほど混んでるの、知ってる?」


「そうなんですか?それは大変ですね」


「まあ、大体の連中が購買だから。……神谷さんみたいな華奢な人が行ったら、疲れちゃうんじゃない?」


「……。何が言いたいんですか?」


キタッ!これこれ、この台詞を待っていた!


今朝のしょぼいおもちゃ作戦は大失敗に終わったが、俺にはまだまだ神谷さんの表情を崩す算段がある。……二つ目は、笑顔!


俺の脳内シミュレーションは以下の通りだ。


【神谷さん】「ふええ……購買が冗談じゃ済まないくらい混んでるよぉ……」→【俺】「───ふっ、仕方のないフィアンセちゃんだ……。俺が買ってきてやろう」→【神谷さん】「ほ、ほんとに!?嬉しい!かみりん感激っ♪」→【俺】「ははは……やめいやめい」


これだっ!これなら自然的に笑顔を見られるはず!


「神谷さん!もしよければ、俺が神谷さんのパンも買ってきてあげようか!?」


「……須藤くんが?なぜですか?」


「なぜですかって……特に理由はないけど」


まあ、あるんだけどね。でも、「君の笑顔が見たいから!」なんて言えないだろ……。


「しかし、それはあなたに悪いです。罪悪感が残りますし、やはり私一人で行きます」


「そんな!二人で二人分買うよりも、一人が二人分買う方が効率的だと思うよ!?」


「……効率的?なるほど、あなたは効率の良さを求めていたのですね。納得しました。───けれど、心配には無用ですよ」


「へ?」


そこまでを言い切ると、彼女はそのまま脚を動かしてサクサクと階段を降りていく。俺も慌ててその背を追うが、果たして心配には無用、とはどういう意味なのか───。


一階の食堂に到着すると、予想通りの人混みだった。ワイワイガヤガヤ、誰もが喧騒を合唱し目標のメニューをその手にしようと奮闘している。


「ほら、やっぱり。さすがに神谷さんには無理じゃない……?」


やれやれ顔でそう呟く。しかし彼女は意にも介さずにその喧騒を見据え、やがてゆったりとした動作で人混みの中に突き進もうとした。そして、次の瞬間、


「───お、おい!あれ生徒会長じゃねえか!?」


一人の男子生徒がそう叫ぶと、その場の人間の誰もがこちらを向いた。……やっべぇ、すごい目線の量だ。コミュ障が受けたら失禁悶絶の果てに昇天するレベルだろう。


「おいお前らァ!道を開けろ!」

「生徒会長様のお通りだ!」

「ああ……今日もお美しい」

「おいお前!そこ邪魔だぞ!」

「間違っても失礼を働くなよ!」


喧騒が生んだ喧騒の話題は、お昼のメニューから神谷さんへ鮮やかにスライドされる。……凄い、と素直に驚嘆する。これこそが彼女の持つカリスマ性というやつか───。


「皆さん、ありがとうございます。どうぞ有意義なお昼の時間を過ごしてください」


無機質な顔はそのままに、彼女はそのまま颯爽と自分の求めるパンを買い込む。見れば、購買のおばさんもなぜだか神谷さんの姿に涙目だ。……本当になんでだよ。


やがて買い終わった彼女は、整った動作でこちらに戻ってくる。……あれ、しかし女子にその量は、買いすぎでは───?


「おかえりです、須藤くん。……どうしましたか?」


「え、あ……いや。神谷さん、それ、そんなに食べられるの?」


「───?何を寝言を言っているのですか?こちらの方は、あなたの分です。後でちゃんとお金をくださいね」


「……仕事できる人だった」


というか普通に有能だった。完敗。


【得点】 須藤0 神谷2

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