第13話

 その後、出血が酷く気を失っていた男をなぜか莉沙が手当てをし無事一命をとりとめた。

 そして、俺は男二人と莉沙に手錠をかけ、部屋にあった机の足に括り付けた。


「ちょっと隼! なにしてくれてるの!」


 莉沙がやや怒り気味に俺に質問した。


「殺人未遂及び過剰防衛の現行犯だよ。一応そこの二人は莉沙の証言から暴行の容疑で話を聞かせてもらおう。ただ、あれは過剰防衛になるからな」


 俺は一つため息をつき三人に対して言い放つ。


「あ、そうそう。私、和田って人と一緒に来てたのだけどこっちに来るときに見かけなかった?」


 莉沙が俺たちに聞いてくるが二人とも知らないと答える。


「いや、見てないなあ」


「私も見てないですね」


「というか冬月、なんで男を殴ったんだよ」


「え、だってものすごい怪しそうでしたから」


 キョトンとした表情で冬月俺を見る。

 確かにいかにも怪しそうに見えたが、攻撃に出るには早いと思うのだが。


「ったく、なんでこんな目に」と男のひとりがぶつぶつとつぶやいている。


「この前の女といい警察といい」


 俺は目線を莉沙から男たちに変え質問する。


「あんたらはここに何しに来たんだ? 見たところオカルト観光とは思えないが」


 睨みつけるように男たちに目をやり言い放つ。

 男たちの服装は薄汚れたTシャツにジーンズ。

 それに部屋の中には真新しい家具もいくつか置かれていたためずっとここにいるようにも思える様子だ。


「別にお前らに言う用はねえよ」


 男は捕まっているとは思えないくらい冷静だ。

 まるでこの状況なのに自信があるような雰囲気がある。


「さっさと言わないとどうなるかわかってますか」


 冬月も血走った眼をして男を見ている。


「警察なんぞに教えることはなんもねぇよ」ともう一人もいい、何も口を割ろうとしない。


「それよりも私の手錠を外してよ」


 莉沙が何か言っているが気にも留めず男たちに向けて、

「あくまでも黙秘を行使するってわけか」


「ちょっと、私は!? 襲われただけなのに!」


 莉沙は手錠をガチャガチャさせているが誰にも相手をしてもらえる様子がない。

 このような一悶着をしていると男二人が突然表情を変え、何か小声で話し始めた。


「おい」


「あぁ、ついに来たぜ」


 男たちは何やらにやにやして話している。


「何が来たのよ」


 隣にいた莉沙が男たちに尋ねる。


「ふっふ、いずれわかるさ。あっち見てみろよ」と崩れた壁の方を見る。


 莉沙も冬月も壁の方に振り向き、俺も顔を向ける。

 そこは壁に大きな穴が開いており、遠くの空から何かがこちらに向かってきているようだ。

 こちらに近づいてきたそれは目を疑うような生物だった。


 一見、鳥のように見えるが鳥には見えない。

 例えるなら巨大な蝙蝠こうもりのような生物だ。

 虫みたいな節だった体をしており、蝙蝠のような黒い羽根をまとったそれは化け物と呼ぶにふさわしい生物だ。

 それが二匹、こちらに向かってきているようだ。

 その化け物たちが徐々にこちらに近づいてき、しまいには壁をわしづかみにして掴まる。


 このようなよくわからない化け物を見た俺は状況を理解できなかった。

 あり得るわけがない、このような生物が存在するなどあり得るはずがない。

 そう思いたくてもそう思えないのだ。

 なぜなら目の前にそれがいているのだ。

 日々の鍛錬のおかげかこの状況を冷静に受けとめ、腰に下げている刀の柄を握る。

 このような事態、本来あり得るはずがない……


「ついに来たぜ! お前らはわれらが神の生贄になるのだ!」


 男たちは声を高々に上げ、この状況を祝福しているようだ。

 われらが神とは一体何なのだ。

 莉沙も冬月も理性は保てているがこの状況に恐れをなしている。

 化け物たちは男たちの声に応えるように壁を突き破ろうとし、中へ入ってこようとしている。

 それどころか俺たちを捕まえようとしているようだ。

 この状況となっては容疑者といえども知人を見捨てるわけにはいけない。

 瞬時に刀を抜き、同時に莉沙の手首についている手錠を抜刀術で一太刀入れる。

 手錠は見事に砕け、莉沙は慌てるように後ろに下がり、一目散に外へと逃げていく。


「二人は早くこの場から逃げろ! 俺がここで時間を稼ぐから!」


 刀を構え、化け物と対峙しようとすると腕を掴まれる。


「何言ってるんですか!? 死にますよ!」


 俺に向けて叫び、腕を掴むとそのまま外に引っ張って連れて行かれる。

 走りながら刀をしまい、外に向かって走っていきマンションの外へと出る。

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