第12話
三階の崩れている壁の奥でハンマーを振り回す大柄の女性とそれに対抗する男の姿が見える。
また、近くには誰かが倒れているのも目にした。
遠目でしっかりとは誰かがわからないが、俺にはハンマーを振り回しそうな知り合いがおり、さらに今度黄野町に行くとまで言っていた人物を思い出す。
しかし車はなく、どのような移動手段でここに来たのか。
にしても、ハンマーをあんな風に振り回すものなのか?
「な、何あれは……」
冬月が啞然とした表情でその光景を見る。
無理もない。
こんな光景は今まで捜査した事件でも見たことも聞いたこともない。
女性がハンマーを振り回し、男を襲うなんて……
「も、もしかして莉沙か……?」
俺も啞然とそれを見る。
「と、とりあえずあっちに行きましょう。何やら戦っているように見えますし」
「そ、それもそうだな」
二人とも戸惑いながらマンションの中へといき、入るとできたばかりであろう足跡を見つける。
それを辿るようにし、また崩落に気を付けながら三階のあの部屋へと向かう。
二階へ着き、三階に上ろうかというところである部屋の奥から翼をはばたかせるような音を耳にとらえた。
それは普通の鳥のはばたきに比べたらあまりにも大きすぎるように聞こえ、少し節だった音のにも聞こえた。
「な、なんだ今の音は」
とっさに足を止め、音のした扉に目をやる。
「先輩、何止まってるんですか。急ぎますよ」
「え、あ、あぁ」
音の正体が気にはなったが、それよりも上の様子を確認するほうが重要だと考え、一度は足を止めたが再び上へと駆け上る。
三階へ上がり人の気配を感じる部屋へと走り、中に突入する。
「警察だ、なんの騒ぎだ!」と声を上げ、中に入る。
中に入るなり目に留まったのはあまりにも衝撃的なものだった。
それは血が滴っているハンマーを持った女性、莉沙と普通の丸腰の男性が対峙していた。
さらに男が一人、頭から血を流して倒れている。
倒れている男は莉沙が手に持っているハンマーで殴られたことが簡単に想像できてしまう。
「え、あ、あれ、り、莉沙?」
なんとなく莉沙と予想していたが、まさか本当にそうだったとはと思い少し困惑する。
莉沙もこちらに気が付いたようで声追上げる。
「た、助けてください! あの男たちにいきなり襲われたんです!」
そう声を上げているが血の付いたハンマーを片手に持っているのを見たらあまり信じることができないうえに説得力もない。
「ちょっと待ってくれ! こいつがいきなりハンマーで殴ってきたんだ!」
莉沙と対峙している男が声を上げる。
莉沙よりもこっちのほうが不利に思えてします。
この光景に俺も冬月も状況を飲み込めず困惑する。
正直、この光景を見ると莉沙の方が不利に見えてしまう。
「殴りかかってきたので、ちょっとやりすぎちゃいました!」
いや、やりすぎだからな!
「そこに仲間が倒れてるんです! 助けてください!」
両者ともに必死に声をあげ、こちらに助けを求めてくる。
これにはさすがに頭を悩まされる。
明らかに加害者と被害者という絵図にしか見えないのだ。
ここでさらに困ったことが起こる。
なんと、冬月が莉沙と対峙している男の溝目掛けて拳を打ち込んだのだ。
「な、え、冬月!?」
この行動により俺の思考はさらに鈍り、何も考えたくなくなった。
冬月の重い一撃が男の溝に入り、痛みのあまりに男は気を失った。
もうこれ、どうしたらいいんだよ……
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