第11話

 しばらく走っているとそうやく黄野町に着く。

 入口には何もなく容易に車を止められる様子だ。

 あたりはホコリが被ったかのように薄暗く、話に聞いていた通りの廃墟で風の吹く音くらいしか聞こえない静かな所だと思った。

 気温は都心よりも涼しく、夏にしては比較的快適な気温だ。


 このような光景でなければの話だが。

 そしてこの静けさはあまりにも不気味でオカルトスポットとして有名というのも納得がいくなと思う。

 また、近くには町を一望できそうな高台がある。

 この町のことをしっかり調べ事件解決を目指す必要があるが、予想以上の惨状に俺も冬月も息をのんだ。


「こ、これは、思っていたよりも気味が悪いところだな」


「で、ですね。本当に幽霊でも出るんじゃないかな」


 二人とももこの場所の異様な雰囲気に圧倒され、状況を認識する。

 この状態はとても酷い。

 言葉も出てこない。

 危険があることは事前に分かっていたがこれ程とは……


 車の後部座席から刀と脇差を取り出すと腰に下げ、いつでも戦闘できるように準備をして警戒心を強める。


「それじゃあ行こうか」


 冬月に声をかけると車に鍵をかけ、町の中へ歩いていく。


「高校に向かうのですよね? どこか知ってるのですか?」


 冬月が聞いてくるが、どこにあるのかなんて知るはずもなく、少し固まってしまう。


「……知らなかったのですね。そこに高台がありますしそこから町を見てみましょうよ」

 と、冬月が言うと俺の腕を引っ張り高台に登った。


 高台からは確かに町が一望でき、町の崩壊具合がよくわかる。

 ここまで悲惨な光景、今までに見たことがない。

 変死事件が起こったあの日、何が起きてこのようになってしまったのか、まったく想像がつかない。


 もしや記事に書かれていたあの謎の影の仕業なのか?

 そう思うと背筋が凍り付くような感覚を覚える。

 また、町の中心にある高校に近づくにつれて崩落の度合いがひどくなっているように見える。


「ん? あそこに誰かいるな」


 町全体を眺めているとどこかに向かって歩いている二人組を目にする。

 遠目ではわかりにくいが男女ではないかと思った。


「確かに誰かいますね」


「あぁ、こんなとこに何の用……」


 この時、ふと莉沙が黄野町に行くと話していたことを思い出した。


「あ、もしかして、莉沙の奴なのか? だとしたら誰かと来たのか」


「莉沙さんですか。でも、入口には車なんてなかったですよ?」


 冬月の言う通り、入口には確かに自分たち以外の車はなかった。

 車がないなら歩いてきたのか?

 いや、それはあり得ない。

 なぜならここまで来るのにかなりの時間がかかるからだ。

 どちらにせよ疑問だ。


「ということは莉沙ではないか。なら誰なんだ?」


 疑問が残るまま俺たちは高台を降り、上から見えた高校へと向かうことにした。

 しばらく町を歩いていると上から見た時よりも崩落の具合がよくわかる。


「にしてもひどい有様ですね……」


 冬月がやや悲しげな表情を浮かべて言った。


「だな、何があってこんなことになったのだか」


 風の音くらいしか聞こえずどこか物寂しさを覚える。

 人が何をしたらこのようなことになるのだろうか、本当に人の手でこうなってしまったのか。

 俺の中で疑問が多く残る。

 そして、行方不明になった津村の行方。

 恐らく、ここに来てから行方が分からなくなったと思うがいったいどこにいるというのだ。


 そのように考え事をしながら高校に向かってしばらく歩いていくと、一つのマンションが見える。


 さっきまで歩いていたためそんなに物珍しくはないが別の理由で目に留まった。

 それほど目立って崩壊しているわけではなさそうだが、三階の崩れている壁の奥でハンマーを振り回す大柄の女性とそれに対抗する男の姿が見える。

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