第10話

 翌日、八時半にはもうすでに署に着いており、冬月が来るのを待ちつつ準備をし、自分のデスクでコーヒーを飲みながら昨日持ち帰ったスクラップ帳を読んでいる。


 内容はやはりオカルト的な事件の記事が多く少し興味のそそるものが多かったが、それよりも黄野町きのちょう変死事件へんしじけんについての記事の方が重要だ。

 読み進めているととある記事に目が行く。


 その記事の見出しには『黄野町に謎の巨大な影が現る!』と書かれていた。

 読み進めると、変死事件があったその日、黄野町がある場所付近に大きな黒い影が現れていたと記載されている。


 また、その目撃情報は黄野町からそれなりに離れたここ、都心から目撃されていたのだ。

 これはただ事ではない。


 もしかすると相当危険な捜査になるのではないかと考えたが、その黒い影は一時的に現れただけでそれ以来目撃されていない。

 不安が残ったまま読んでいく。

 読み進めていくと分かったが、様々な記事やこの事件についての切り抜きが多くあり、徹底的に調べていることが読んで分かる。


 さらに読み進めていき分かったことは、まず謎の黒い影だ。

 そして見つかった街の人の様子は、とても異常だった。

 ショック死が一番多く、外傷のある死体はあまり見つからなかったという。

 記事には『ひどい光景だ。このようなことが実際起こりうることなのか。なぜ多くの人の死因がショック死なのか。疑問が多く残る事件だ』と書かれていた。


 そして津村由香はこの真実を追って黄野町へと向かい、行方がわからなくなった。

 変死事件と行方不明事件に大きなつながりはないが、黄野町についてのことについて気になってきてしまっている。


 デスクでスクラップ帳を読み始めてから二十分ほどたった頃、冬月が署に到着する。


「おはようございます。いつも来るの早いですね」


 読んでいたスクラップ帳を閉じ、冬月にあいさつする。


「おはよう、早めに着いてないと落ち着かなくてな。それじゃ、朝礼が終わったらさっそく行くぞ」


「わかりました」


 その後いつも通り朝礼を行う。

 終わったのち、俺たちは銃の使用許可を取ると拳銃などの保管庫にやってくる。

 そして、冬月が腰に拳銃を装備するのを確認する。


「それじゃあ、行くとするか」


「待ってください」


 呼び止められ、振り返ると冬月が拳銃を俺に手渡してくる。


「……俺のはいらないぞ?」


「そうですね、普段持ってませんもんね」


「なら……」


 話している途中で拳銃を俺の胸元に押し付け、


「いいから持っておいてください!」と大声をあげる。


 冬月の表情を見るからに怒り気味なことが分かる。

 正直、拳銃を持ちたくはない。

 それに、持っていても使うことができない。

 だが仕方ないと思い冬月から拳銃を受け取り、懐にしまう。

 それに先輩刑事にも極力持っておくように言われているため、渋々持っておくのだった。


 保管庫で装備を整え、自分たちのデスクへと戻る。

 準備を整え、俺はいつものように刀と脇差の二本を装備する。

 そして、車へと乗り込む。

 後部座席に刀と脇差を乗せ、助手席には冬月が乗る。

 車内は蒸し暑く、冷房をつけてないと熱中症になるくらいの気温だ。


「うぅ、暑いですね……」


「あぁ……いま冷房つけるから……」


 エンジンをかけて冷房をつけると、黄野町に向けて出発する。

 しばらく走っていると冷房が効いてきて、快適な温度になる。


「はぁ、やっと涼しくなったな」


「ですね。夏は暑いからあまり好きじゃないですね」


「そうか? いくら暑くても俺は夏のほうがいいかな」


 運転しながら額の汗を拭う。

 その発言に対して冬月は驚いた様子で、


「えぇ、なんでですか? 外は暑すぎるし冷房が効きすぎると体調崩れちゃいますし、夏はしんどいだけじゃないですか」


 ため息をつきつつ冬月が言う。


「まぁ、感じ方は人それぞれよな。でも悪いことばかりじゃないぞ」


「例えば何ですか?」


「そうだな、綺麗な新緑と太陽の光があわさって綺麗だろ」


「うーん、そうかもしれないですけど……」


 どうやら腑に落ちていないようだ。


「それに夏祭りとか花火大会、海水浴といったものが楽しめるじゃないか」


「夏祭り……花火……」


 冬月が少しぼーっとしだす。


「どうした? 突然黙って」


「あ、いえ、なんでも……ないです」


 いつもにも増して控えめな反応で、どうしたものか。

 夏についてしばらく話していると、高速道路に出る。

 しばらく走っていると、とても緑が豊富な道で綺麗な景観の見える道に出てきた。


 黄野町に向かう道中は車一台とすれ違うくらいで、快適なドライブ気分を味わうことができたが、黄野町方面からこちらに向かってくる車がいたことに少し疑問を抱いた。


「にしても快適だな、黄野町に向かう道に車が一台しかいなかったし。仕事じゃなくてドライブならすごい気持ちいいんだろうな」


 俺がそう呟くと冬月がもじもじしながら、

「そ、そうですね。勤務でなかったらすごい楽しいでしょうね」と抑えめな声で言う。


「どうした? 声が控えめだが車酔いでもしたのか? てか顔も少し赤いが」


 横目で顔を見たが頬を赤らめ視線も下の方を見ているように見えた。


「ち、違います! 大丈夫です、どうしてそうなるんですか」


 とても慌てた様子で、先ほどよりも顔が赤くなっているのが見てとれる。


「それに運転に集中してください。事故しますよ」


「えっと、はい……」


 あまりに理不尽な説教をくらい、運転に集中して黄野町へと向かった。

 ……というか何で怒られたんだ?

 横にいる冬月は少し不貞腐れている様子だった。

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