第9話
家が少し近いため冬月と途中まで一緒に車に乗って帰っている。
そういえば、今うちに何も食べるものなかったな。
「あぁ、そうだ。少しコンビニに寄ってもいいか?」
「え、えぇ別にいいですけど。何ですか」
冬月は疑問に思ったのか聞いてくる。
「あぁ、晩御飯を買おうと思って……」
俺が話しているのを制するように冬月が口をはさむ。
「コンビニでご飯なんて健康に悪いですよ! ならうちに来てください。御馳走しますよ」
俺は少々戸惑いながらも、
「あ、あぁうん。じゃあ、お言葉に甘えて」
と答える。
冬月は満面の笑みを浮かべ「はい」と返事をした。
コンビニに寄るのをやめ、そのまま車を走らせ冬月の家に向かう。
冬月の自宅は防犯設備が充実なマンションで一人暮らしの女性には安心の住まいである。
「お、お邪魔します」
何度か上がったことはあるが女性の部屋となるとやはり緊張する。
冬月と一緒いることには慣れてきたが、女性が不得手なことに変わりはない。
冬月が鍵を開け、戸を開きリビングに通され腰を下ろす。
部屋は片付けられておりとてもきれいだ。
女の人らしいぬいぐるみやクッションがベットに置かれており、本棚には女性誌や法律、政治に関する書物が並べられている。
「今から作るので少し待ってくださいね」
「あ、あぁ。すまないな」
冬月が料理をしている間、所持しているノートパソコンを開き今日調査したことをまとめておくことにした。
***
隼先輩をリビングに通し、私はキッチンで料理を始める。
料理を始めようと思ったとき、ある大事なことに気が付いた。
私……また先輩を家にあげちゃったよおおお!
すでに何度か上げたことはあるものの、やはりどうしても緊張してしまう。
だって、隼先輩が家に来てるんだから……
一回落ち着こう……
「よし、頑張っておいしい料理をふるまわないと!」
いつも料理するとき以上に気合いが入る。
先輩のために頑張らないと!
***
一時間ほどたち、報告書のまとめが終わったころちょうど料理が完成して机に並べられていく。
「お待たせしました。ちょっと時間かかっちゃいました」
作られたのはデミグラスソースがかけられたハンバーグとサラダ、白いご飯に味噌汁といったとても栄養バランスのいい料理だ。
「おお、美味そうだな」
「どうぞ、召し上がってください」
満面の笑みを浮かべ料理を進められる。
食べるととても美味しい。
「うん、美味い! やっぱり冬月は料理上手だな!」
「そんなことないですよ……」
もじもじと少し照れながら冬月は答える。
たまに冬月の料理を食べる機会があるが、どれもすごくおいしい。
「そんなことあるって! 料理ができる女性っていいよな。俺なんてろくな料理ができないしな」
俺は苦笑交じりに言う。
「先輩、料理が苦手だって言ってますもんね」
「あぁ、だから料理が得意なやつはすごいと思うよ」
ふと冬月を見るととてもうれしそうで、満たされた表情をしている。
「こんなに料理は上手いし、器用で人にやさしいんだから冬月はきっといい嫁さんになるんだろうな」
俺は微笑を浮かべながらいう。
ガタッと机が揺れる。
どうしたと思い冬月を見ると驚きと照れが混ざったような表情を浮かべ、顔を真っ赤にしていた。
「な、ななな、何言ってるんですか! えっと、あの、えぇ……」
頭から湯気でも出るのではないかと思うほど顔を赤くさせ、
「ちょ、ちょっと席を外します!」
そういって立ち上がり、素早い動きで廊下の方へ行ってしまう。
「……あいつ、どうしたんだ?」
その後冬月が戻ってくると、また会話をして夕食を楽しみ、久々に誰かと食べられたことがとてもうれしく思った。
「冬月、晩御飯ごちそうになったな。ありがとう」
「いえ、私も楽しかったです」
「明日は大変かもしれないからゆっくり休めよ」
「それは先輩もですよ」
「はいはい。それじゃ」
冬月に見送られ、マンションを後にする。
そして自宅へと帰り明日の準備をするのであった。
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