『モルス』の真実

「すまない、兄さん」


 セセラギは、ミササギの姿を認めると頭を下げた。


「自分を責めるな。お前は悪くない、悪いのは私だ」


 ミササギはそう答えてからヨルベに視線を向けようとしたが、それを防ぐようにトキノキラが前に出た。

 トキノキラは面白そうにミササギを見つめているが、その目は全く笑っておらず鋭い光を放っている。ミササギもその視線を静かに返す。

 それで十分だった。ミササギは、自分の推測が正しかったことを悟った。


「ふっ。どうやら、私の思った通りだったようだが。まずはモルスそしてクストスよ。礼を言わせてもらおう。ご足労痛み入る」


 トキノキラは、大仰に深く礼をしてみせた。


「何のつもりじゃ。このようにわしらを呼び出し、目的は何であろうか?」

「そうかさなくともお話は致しますとも。なぁ、モルス殿?」

「噂を流したのはお前か」


 ミササギが冷ややかに言うと、トキノキラは肩をすくめてみせた。


「モルスを中心とした魔法管理を行っているのがこの国だ。お前の地位を揺るがして管理体制を崩してみようと思ったが、上手くいかなかった。旧王国時代のように、魔法によって国を動かした方が、この国も強い力が持てて良いのだがな。あのまま魔法による政治を進めていれば、この大陸の大半はアウローラのものだったに違いない」


「その無意味な侵攻によって血が流れるより、ずっと今の方がましだと思うが」

「仮定の話だ、そう否定せずとも良いだろう? 魔法を積極的に使わないのは勿体もったいないということ。使える者がただでさえ限られているのだから。それを含めて国に対してお聞きしたくて、一連の事件を起こしただけのこと」

「本当に、それだけのために起こしたと言うのか?」


 クストスの問いにトキノキラは怪しく笑い、ミササギに目を向けた。お前ならわかるだろうとでも言うように。

 だから、ミササギは言ってやることにした。


「一番の理由はこの国に対して復讐をしたい、なのだろう」


「その通り、さすがはモルスだ。あの時の私の思い、お前にはわからんだろうがな。本当なら建国記念の日に行動するつもりだったが、お前に早く会うために予定を早めてやったのだぞ?」


「下らないお前の言葉を聞いている時間など、申し訳ないが私にはない」


「下らない、だと? ははっ、言ってくれる。私がどれだけこの日を待ち望んだと思っている。魔物を操るという下賎なことまでしたのだ。だが、その先でお前に会えるとは、何という巡り合わせか。これを下らないなどという言葉で、片づけないでもらおう」

「変わらんのだな」


 ミササギの呆れたような言葉に、トキノキラは笑みをおさめた。


「それはお前もだろう。感謝しているぞ。私を見過ごしたことをな」

「ああ、そうだな。異変が起こるまで気付かなかった、私も甘かった……」


 まるで互いを知っているかのような会話に、セセラギたちが不思議そうな顔を浮かべる。

 トキノキラは視線を感じたのか、セセラギに顔を向けた。


「セセラギよ。先ほど言ったことを覚えているか?」

「何のことだ」

「お前の兄は本当にそうなのか、と聞いたことだ」

「それは」


 と、クストスの漏らしたつぶやきに、セセラギは怪訝そうな表情を向けた。横にいるシルワも首を傾げている。

 ヨルベはと言うと、ミササギに問いかけるような視線を向けた。ミササギは彼女の視線を受け止めて、ほんの少し笑ってみせる。安心させるように。


「そうか、なるほどな」


 セセラギたちの反応を見ると、トキノキラは楽しそうに声を上げた。


「クストス以外は知らぬのだな? ならば、教えてやろう。セセラギ・クラーウィス」


 ミササギを指で示したトキノキラの動きを追うように、セセラギもミササギに視線を向けた。


「この男は、

「何を……世迷言を」


 その言葉に、セセラギは意味を図るように眉をひそめた。

 対してミササギは、トキノキラの行動を止めるようなこともせず、静かな表情のまま立っている。これから起こることを受け入れているのだろう。


「私もまさかとは思ったが。だが、私は覚えているぞっ」

「…………」

「お前のことを、その魂を、忘れるものか!」


 トキノキラは声を張り上げると、ミササギに向けてこう言った。




「第十七代モルスにして救国の英雄――、オルド=モルス・ファートゥム!」




 全員がその声に導かれるように、ミササギに顔を向けた。セラギとシルワは驚いた顔で、ヨルベは悲しげに、クストスは辛そうに彼を見た。

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